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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
一章
27/61

出来損ないの王子

しばらく説明文かも……盛り上がりにかけます(*_*;

「ローエルはずっとここに?」



「はい。オーエンの反対を押し切って。もう少しで反逆罪を適応しちゃうところでしたよ」


 兄様はまた何かしでかしたのだろうが――いや、そんな事が無くてもソルト様はローエルの為に軽く罪をねつ造しそうな気がする。『邪魔者は消してしまいましょう』そんな幻聴が聞こえてきそうなソルト様の清々しい笑顔。それとは対照的に私は引き攣った笑みを浮かべて見せた。


 ともかく重罪が適応されなくてよかった。



「兄様――は?」



 ローエルの肩に掛けられている厚手の上着をソルト様は掛け直すとローエルは小さく身じろぎをしている。猫のように。



「大丈夫です。少し用事に行ってもらいました。ダダをこねてましたが、飴を上げることにしましたのでしっかりこなしてくれるでしょう」



「……あめ、ですか?」



 嫌な響き。それを確認するようにしてもう一度口の中で転がすと、私は眉をあからさまに潜めて見せた。嫌な予感がする。そしてこの予感は総じて当たるのだ。大体兄様は者に執着する人ではない。


 ――『私』以外は。


 私はトーナメントの事を思い出して半ば責めるようにソルト様に目を向ける。



「何を言ったんですか? 今度は?」



「ふふふ。楽しみですね。帰ってきてからのお楽しみですよ」



 ソルト様だけが楽しい気がする。私は憂鬱だ。本当に兄様に何を言ったのだろうか。本当に要らないことは言わないでほしい。切実にそう思うのだが思った所で後の祭り。少なくとも内容を教えてくれれば対処の方法が思いつくが。



 私は少し頭を抱え込んでしまう。



 それを『眠い』と勘違いしたのだろう。ソルト様は少しだけ窺う様に私を覗き込んだ。


 整った顔に金の双眸がキラキラと揺れる。



「――もう、ひと眠りしますか? 朝はまだ遠いですよ?」



 私はベッドに身を残したまま窓を見上げた。十五夜に近い月がまだ高くにあるのが分かる。確かに夜明けは遠いようだ。



 夜は長い。けれど眠れる自信も無い。嫌なことばかりが思いつきそうで。私は少しだけ視線を落とした。



「眠れません、か? では。話しましょうか――貴方の気がまぎれるように」



 私の心を見透かすような優しい双眸で呟くとソルト様はベッドに浅く腰をかける。その滑らかな長い指はローエルの頭に触れた。



  一拍置いた後でゆるゆると私にその瞳が向けられる。月明かりに浮かんだその双眸は一層輝いて見えた。



「貴方は精霊を信じてなさそうですね」



「……」



 信じていない。そう言ってしまえば気を悪くするだろうか。ソルト様は王族だ。王族と言えば国王様もそうであったように精霊を信じているはずだ。嘘を付くことも素直に言う事も出来ずに口を噤むしかなかった。



 困った表情でも浮かべていたのだろう。ソルト様は苦笑を浮かべて見せる。



「かまいませんよ。大体見ることのできないもの、感じることのできないもの。そんなの信じることなんてできませんよね――。きっと皆さんの間では子供が語る御伽話や、夢物語の世界なのですから」



「――ソルト様は信じていないのですか?」



 思わず口を付いて出てきた言葉に私自身も驚いていた。はっきり言って愚問。返されるのは当たり前の答えだろう。けれど何となく言葉の端々に否定的なものが感じられたのだ。気のせいなのかも知れないけれど。



「ふふ。子供の頃はね。私は感じることも見ることもできない『出来損ない』でしたから。信じていませんでしたよ。皆さんと――貴方と一緒です」



「出来損ない――なんて」



 多分王位継承権が低いと言っていたのも見えないからなのだろう。そんな下らない事で本人の価値など変わらないしも少なくとも私にはソルト様が優秀に見えた。一部しか分からないし、弟の事となるとねじが飛ぶけれど。それを差し引いてもだ。



 酷い――呟く私の頭を優しくソルト様はふわりと笑う。今までの微笑みとは違いどこか花が咲いたように艶やかだった。滑らかな腕。温かな掌が頭に触れて、撫でた。優しく。それはローエルにするように、だろうか。



 思わず硬直する身体。朱に滲んでくる頬。やはり見る人が見れば誤解をされそうな状況に私は内心目を白黒させる。



 心の中で何度目かの言い訳を――自分でもよく分からなかったが、おそらくリュートに向けて――したとき、ソルト様はゆっくりと手を放してローエルに目を向けた。笑顔はもうない。どこか憂いを帯びた表情をしていた。



「王族が特殊なんです。むしろ私は世界の大多数の皆さんと『同じ』ですから光栄ですよ。心配なのはローエルです。過度な王族の期待から私は護ってきましたけれど……この子はまだ子供ですし。この間のようなこともしばしばで」



「……よく襲われるんですか?」



 あの落ち着きぶりからして間違えはないだろう。間違いなくローエルは慣れている。それはなんだか殺伐としていてとても寂しい。そう思ってしまう。



「あまりいいことでは無いですね。でも仮にも第一王位継承者ですからね。幸か不幸か一見分かりませんが。それに加えて――眼です。ローエルは気付いていませんが彼の眼は生まれながらにして赤く――『精霊』を惹きつけました。通常精霊は『意志』で持つものですが。意志とは関係なく彼の周りには集まったんです……ですから眼を彼から貰えば何とか精霊を扱えると言う馬鹿者が多くてーー」



 低く呟く声は少し熱を持っていて低い。その端正な横顔は怒りに満ちている様にも見えた。普段表情を崩さないように見えるソルト様だ。それはとても意外に覚えた。


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