プロローグ1 主人公視点
2049年3月24日 23:58
僕、安堂勇は2分後、同棲中の幼馴染である夏星真央に結婚を申し込む。11歳の頃に出会って以来、紆余曲折あり20歳になった今日、学生の身ではあるがプロポーズするのだ。プロポーズをしたその瞬間、彼女はいつもみたいに「もう飽きたわ!」なんて言って僕の前から去ってしまうかもしれない。だがそれでもいい。僕はもう十分満たされたし、あれほど傍若無人な女をこれ以上、僕に縛り付けておく方法はとんと思いつかなかったのだ。
小箱を開けては閉め、開けては閉める。何度も指輪があることを確認し、心臓の昂りを押さえつけながら呼吸を整え、トイレを出た。
廊下を震える足で数歩歩いてリビングに入ると、先ほどまでそこにいた彼女がいなくなっていた。つけっぱなしのテレビ。食べかけのポテチ。まだ半分以上入っている甘い缶のチューハイ。そしてクッションに彼女の尻の形がまだ残っている。
トイレにいる間、玄関の扉が開く音はしなかった。窓も内鍵が閉めてある。あんな女でもコンビニに行くのなら一声くらいかけるはずだ。
ならばいつもの悪戯だろう。唐突に、無計画で、雑な演出はいつものことだ。どうせその辺に隠れながら僕の慌てている姿を楽しんでいるのだろう。
「……なんでこんなタイミングでイタズラなんてするかね」
彼女の間の悪さを嘆きながらクローゼットの中、ベッドの下、風呂、マオちゃんが隠れそうな場所を探した。
ベランダ、テレビの裏、果てはクッションの下まで探したところで嫌な予感が頭をよぎり、急速に世界が色褪せていく。
確かに彼女はよく悪戯をした。隠れたり、隠したり、驚かせたりと、とにかく幼い悪戯をする。だがこれは度を越している。これは――悪戯なんかじゃない。
指先から血の気が失せ、心臓が激しく拍動する。ジトっとした汗が全身から滲み出た。
震える指でマオちゃんの電話番号を打ち込む。すぐに機械音声 が流れた。「おかけになった電話番号は現在使われておりません」――キーンと脳を貫かんばかりの耳鳴りがした。
すぐに外に飛び出し、狂ったように生暖かい外の空気をかき分けて真夜中の町を走り回った。一緒にアイスを買いに行くコンビニ、それを食べる公園、3日と続かないランニングのコース。思いつく場所全てを回る頃には朝日が顔を出していたが彼女はどこにもいなかった。僕を振り回した15年は何だったんだ。消えるにしてもせめて思い出になってくれ。
口が異様に乾き、手の震えがおさまらぬままアパートに帰る。ドアを開けても、いつものように鮮烈な赤い髪が目に飛び込んでくることはなかった。
数十回と繋がらない電話をもう一度かけるがやはりダメだった。ダメ元で彼女の実家にも電話をかけた。かけたが僕の声を聞くなり切られてしまった。やはり彼女が実家に帰るはずがない。
藁にもすがる思いで警察に連絡する。ものの10分ほどで若い女と中年の男、2人組の警察官がやってきたが憔悴しきった僕を見て「落ち着いて」「早まった行動はしないで」とゆっくり、優しく諭すだけだった。
ジワジワと自分の中に黒い膿が溜まっていくのを感じる。今すぐ喉を引き裂いて、心臓を搔き毟ってしまいたい。
あぁ、吐きそうだ。
『ストレス値が臨界点に到達。スキル【探知】獲得により正常範囲へと是正します。』
突然、知らない声が頭に響く。痛い。
こんにちは。完結させたのを全部載せていきます。よろしくお願いします。




