怒りのスキャンダル王
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★ジェシー・ウエストへの不信感が憎しみに変わり、ボス化するランベール・ギーズです。
★ウエスト邸使用人に裏ざまぁが入る予定です。
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アイラ・サウス嬢が怪しい契約のためにウエスト邸へ売られた。
(何が契約だ! バカか!?)
彼女の両親の死後サウス家を継いだ叔父は、株投資の失敗で膨らんだ借金を帳消しにするため、領地と首都の不動産以外の事業を全て売り払ったという。
このままでは事業収入で潤っていたサウス家は来年の税金が払えなくなり、片田舎の弱小地主に戻るしかない。やがては首都の不動産も売り払わざるを得なくなるだろう。
そこを、広大な不動産を持つ裕福なヴェストル伯爵に目を付けられたのだろう。
未婚の貴族令嬢にとって一年間の契約期間は致命傷だ。後見人を称する僕としては、誠にどうしたものか。もっとも彼女は、自分の評判に傷が付くことも、その理由すらも分からないだろう。
アイラ嬢は呆れるほど世間知らずなのだ。
にも関わらず、まだ大人になりきっていない、屋敷に閉じこもっていた何の経験もない少女が、なぜあのような恋愛小説を書けるのか。世界観も何もかも滅茶苦茶な物語なのに、女性たちには評判が良いのだ。
儚く無垢、ときに大胆。
誠に奇々怪々な少女だ。
彼女はどのような世界に住んでいるのだろう。
ヴェストル伯爵について思い出したことがある。
二年ほど前だったろうか、女性関係のもつれで先代が決闘騒ぎを起こし、死亡するというスキャンダルがあった。
ギーズ出版社を起ち上げ、週刊誌『セカオピ』を世に出したばかりだったので、その記事さえ載せれば週刊誌が飛ぶように売れたのを覚えている。お陰で懐は潤ったし、事業も軌道に乗った。
市民は負けたヴェストル派と勝ったカレドニア派に分かれて激論を交わし、貴族議会は、禁止されていた決闘を行った両家への非難を表明した。その後両家は二年間の社交禁止、王宮への出入り禁止になったはず。
(息子についての噂はなかったと思ったが……今思えば、あの息子は地方の大学へ行っていたから表に出なかっただけなのだろう)
悶々と考えながら、出版社へ出向いたり、サロンパーティーへ行ったり、パトロンをしている芸術家の様子を見たりしていたころ、アイラ嬢から衝撃の手紙が来た。
~ ~ ~ ~ ~
『……わたしはといえば、伯爵様の婚約者を名乗る女性にからまれて以来、お屋敷から冷遇されています。
食事はパンのみ、わたしの世話をしていたメイドは来なくなり、使用人は掃除も洗濯もしてくれません。紙やインクの補充もままならなくなってしまいました。
夜まだ寒く、暖炉の火を絶やさないようにするのも大変です……』
~ ~ ~ ~ ~
何度でも叫ぶ。
「ジェシー・ウエスト絶許!!」
ギーズ邸の居間で手紙を読んでいた僕は、ソファテーブルを激しく叩いた。コーヒーカップが倒れ、中身がテーブルに広がった。呑気にストレートウィスキーを飲んでいたウォルティーがむせた。
「また発作ですか、ギーズ卿」
僕は気長そうに見えて、自身のことについてはあきれるほど沸点が低いのだ。ここに奥様がいなくて良かったな。
「ウォルティー、伯爵家のタウンハウスにいる使用人の名前と経歴を全員調べろ。それから、サウス家の遺産関係も!」
「かしこまりました」
早速僕は出版社へ赴き、フリップ・セシルを犠牲にして、アイラ嬢に贈る品を用意させた。差し入れと気付かれないよう、豪華本に見せる箱もいくつか作らせた。
「二日以内に作れ(間男爆発しろ)!」
「……かしこまりました(悪魔!)」
エレン奥様と不倫中のこの優男は、後ろめたさを逆手に取れるので使い勝手が良いのだ。次回は間男フリップを書店員としてウエスト邸に向かわせよう。アイラ嬢を守るためには、心外でもあの鬼畜契約を守らなければならない。
いつかジェシー・ウエストに地獄を見せる!
その前に、ウエスト邸の使用人は二度と首都に戻れないよう、世界の最果て北方諸島へ左遷だな。
(一生クジラを追いかけ、波にのまれて死ぬがいい!)
「嫌だわぁランベール、コーヒーがこぼれているじゃない。何かあったの?」
(しまった、エレン奥様に気付かれた!)
「あぁ、奥様、いつの間に帰ってらしたのですか……新人女流作家のことで少しね」
「あぁ、あなたの新しいペットね」
「ペットなどではありません。新人女流作家ですよ、奥様」
「貴族の未婚令嬢をペットにするなんて、いよいよ頭がおかしくなったのかしら?」
「ですから、そうではありません」
「そういうことにしておくわ。ははぁ~ん、ウエスト邸のことかしら? 例えば……」
「そこまでにしてください」
アイラ嬢の契約については、フリップと奥様にしか伝えていない。何しろ一方に伝えると、もう一方にも伝達されてしまうから。
それに加え、
『ウエスト邸で若奥様らしき女性が散歩をしていた』『ウエスト邸に愛人らしき女性がいる』
という目撃型ゴシップは、従業員総出で潰しまくっている。
常日ごろエレン奥様には、アイラ嬢はギーズ出版社にとって大切な存在なのだということをアピールしまくっているので、恐ろしいエレン奥様パパ――ヨーク・セントレ氏に彼女との関係を誤解されることはない……はず。
彼女に対する不名誉な噂は全て握り潰す! そのための『セカオピ』なのだ。
「奥様、実は折入って相談がありまして。女性の観点から見て必要な品をリストアップしてほしいのですよ」
「あなたのお気に入りのためにわたしを使うの? ずいぶん勝手ね」
「あくまでもお願いですよ。フリップのこととトレードということでどうでしょう。パーティーにフリップを同行させることを認めます」
「フリップにはパーティーのエスコート役を頼んだだけよ……仕方ないわね、このことは高くつくわよ」
「それなら奥様、出版社の舞踏会ではとびきりの待遇をいたしましょう」
「うれしいわ、ランベール。やっとわたしを妻と認めたのかしら?」
「認めたも何も、エレンは僕の最愛の妻ではないですか」
「はぁ……どの口が言うのかしら」
エレン奥様の動向が気になるが、彼女は頼りになるのだ。
※
『……以前のように街歩きしたいし、ティールームへ行きたいし、できれば旅行へも行きたいと思っています。馬車は少し苦手なので、列車旅ならできるかもしれません……』
(アイラ嬢……この契約が終わったら、あなたの望みを全て叶えよう)
「ウォルティー、出版社に寄ったあと、ウエスト邸の様子を見に行く」
「かしこまりました」
「それから契約最終日に、念のためサウス家の馬車の車輪を破壊しておいて」
「かしこまりました」
出版社では、昨日のパーティーで仕入れた噂話を何人かがまとめていた。さっそく僕は『会議』という名の悪だくみをはじめた。
「興味が湧きそうな話はあったかい?」
「はい、いくつか」
「順繰りに言って」
「第一に、ウエスト邸で愛人らしき女性の目撃情報です」
「またそれ? 誰が噂を流すのやら。いつも通り記事にせず打ち消す噂を流して」
「次に、カレドニア伯爵家当主の病状悪化とご令息の留学」
「首都の動向欄に小さく」
「屋敷街で小火」
「詳しい取材を」
「それから、タンディーゴルフ場トーナメントでの賭け……」
「『セカオピ』の見開き六ページ記事でイラスト付、スポンサーの広告欄を広く。付録として各選手の勝率を載せて」
めぼしい記事が見当たらなかったので、そのまま僕はウエスト邸へ向かった。屋敷のかなり手前に馬車を止め、アイラが囚われている監獄へ向かう。
(今日はタイミングが良かった……)
薄霧のかかった庭園のベンチに、虚ろなアイラ嬢が座っていた。とき折見せる、何も見ていない、魂の抜けた表情だ。
ウォルティーが小石を投げると、彼女の手前で止まった。
懐かしい少女が僕に近づいた。
白さが目立つシルバーブロンドの髪、虚ろな目、たどたどしい物言い……僕の庇護がなければ彼女は……。
「アイラ……」
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☞次回ギーズ卿の裏の顔をウォルティーがグチります。エレン奥様の実家セントレ家が裏ざまぁに関係しますので、お手数ですがお付き合いください。
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