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【第二部完結〜第三部へ】転生薄幸令嬢の奇妙な愛人契約――イケオジパトロンか富豪貴族か――えっ二股愛人ですと?  作者: 赤城ハルナ
【第二部】スキャンダル王ランベール・ギーズの憂鬱

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密通(文通)したら文学青年が!

 離れから使用人が消えた。


 ベルばらクズ女が来襲して以来、高飛車引っ詰めメイドは姿を消し、玄関前に届けられる食事はパンだけ。洗濯・掃除はされず、お風呂は自分で用意しなければならなくなった。

 お風呂といってもお湯が出る蛇口があるわけではない。離れにキッチンはなく、蛇口のある洗面スペースと暖炉だけ。お湯が必要なら暖炉に小さなケトルを置いて沸かすしかない。

 また放置DVだよ、何なのこの状況? 住まいは段違いだけど。


 駅弁食べたい……タンディーさんとパターゴルフしたい……マリオンさんとおしゃべりしたい。

 外交補佐官とかいう伯爵様(クズ野郎二十五歳、北橘佳奈とはほぼタメ)は、わたしのことなど我関せず国外を飛び回っているらしい。


 そして客人は忘れ去られ、屍になっていくのだ。何のためのお連れ様なのか。必要ないよね、馬鹿みたい。


 ここは監獄。


 誰も来ない離れでパンだけ与えられる。動物園の動物の方がマシ。二週間ごとに会える書店の人だけが話し相手。ストレスで文章が書けない。

 あああぁ、自分が(自称)令嬢だということをすっかり忘れてた、盛大にやらかした!


 そうだ、大明神、もといランベール様召喚!



~ ~ ~ ~ ~

『親愛なるランベール・ギーズ様へ


春の日差しが心地良い今日このころ、ギーズ出版社の皆様は何事もなくお過ごしでしょうか。


わたしはといえば、伯爵様の婚約者を名乗る女性にからまれて以来、お屋敷から冷遇されています。食事はパンのみ、わたしの世話をしていたメイドは来なくなり、使用人は掃除も洗濯もしてくれません。紙やインクの補充もままならなくなってしまいました。


夜まだ寒く、暖炉の火を絶やさないようにするのも大変です。

といっても、サウス家にいたころに比べれば離れの居心地は良いので、契約終了まで何とか頑張れそうです。


出版社の皆様にお会いできるのを楽しみにしています。


追伸:空飛ぶ機関車菓子店のマロングラッセが懐かしいです。


アイラ・サウスより』

~ ~ ~ ~ ~



 二週間ごとにやって来る書店員のアーチーさんに、いつも通りカタログに挟んで手紙を渡した。すると数日後、『奥様に注文いただきました書物をお届けに業者さんが訪ねて来ました』という石化執事さんの知らせと共に、何と、儚げ男子フリップさんが、長い金髪をなびかせキラキラと金粉をまき散らしながらやって来た。


 案内したメイドの目がハートになっているんですけど。


(おお~っ、懐かしいぞ、文学青年!)


「お久しぶりです、アイラ嬢」

「フリップさん、会いたかった、です」

「ボクもですよ。早くアイラ嬢の文章をリライトしたいです。進行具合はいかがですか」

「ええと……それは~」


 全然進んでいません。


 離れのリビングルームにはわたしとフリップさんしかいないけれど、玄関ドアの外には執事さんが控えているので、念の為小声で話す。

「思っていたよりもお元気そうで何よりです。事情は聞きました。ギーズ卿と相談し、差し入れを持って来ました」

「あ、ありがとう、ございます」


 それにしてもフリップさん、とても顔色が悪いし、目の下クマ男で疲れ切っていそう。


 トランクを開けたら、豪華本に見える四個の箱があった。

「夜間になってから開いて下さい。入り用な物がありましたらお手紙でお知らせ下さい。今後はこの箱でやり取りしましょう。長居はできませんので、これにて失礼します」

「もう、帰っちゃうんですか? もう少し、お話したいのに……」

「アイラ嬢、どうかもうしばらく辛抱して下さい」

「はい……」

「ところで短編集の件ですが……大胆な内容にしませんか?」

「大胆、とは?」

「読者の幅を広げるんです。ボクに任せて下さい」

「はい?」

 そしてフリップさんは、書物を届けただけという風を装って帰って行った。案内係の使用人が五人に増えていた。

 男性使用人が二人混じっているんだけど?


 パンだけの夕食後、豪華本風の箱を開けると、ランベール様の手紙を挟んだ週刊誌のほかに、紙・ペン・インク、チョコレートやビスケット、ドライミート、ドライフルーツ、コーヒーと紅茶がギッシリ詰まっていた。もちろん、空飛ぶ機関車菓子店のマロングラッセも。


 さて、ランベール様からのラブレターを読もう。



~ ~ ~ ~ ~

『親愛なるアイラ嬢へ


ようやく春の訪れが感じられるようになり、凍っていた人々の心も溶けはじめました。しかし、アイラ嬢の境遇を想うと、僕の心は凍てついたままです。


使用人がアイラ嬢を冷遇しているのは、当主不在というウエスト家の特殊事情によるものかと思います。


ヴェストル伯爵ことジェシー・ウエストについて少々調べてみました。


『ジェシー・ウエスト二十五歳。アン女王治世歴一年九月十二日誕生。ヴェストル伯爵家当主。

先代当主は二年前、カレドニア伯爵家ノルド様との決闘にて死亡、その妻は領地で病気療養中。ヴェストル伯爵家を継いだ息子は現在外交補佐官をしており、例の契約日直前から国外へ長期出張中』


 先日頂いた手紙にありました婚約者とは、幼少のころから家族ぐるみで交流のあるエリーゼ・イースト侯爵令嬢のことかと思われます。彼女は現在十五歳、伯爵様と婚約中という情報はありませんでした。


 この契約の理由がエリーゼ・イースト侯爵令嬢に関係するのでしたら、伯爵様不在のため契約期間内での解決は難しいでしょう。アイラ嬢にとっては大変不本意だとは思いますが、契約終了日まで何とか耐えて下さい。

そのための助力は惜しみません。


今回は文房具や食料などを用意しました。もしほかに入り用な物があれば、手紙にて連絡下さい。


追伸:僕からの手紙は契約最終日にまとめてトランクに入れ、持ち帰って下さい。一通でも先方に見つかると契約違反による罰金が課せられるかもしれません。よくよくご用心下さい。


あなたの後見人、ランベール・ギーズより』

~ ~ ~ ~ ~



(ジェシー・ウエストの父が決闘で死亡?)


 あのベルばら女は侯爵令嬢。

 そういえば、そんなことを言っていた。あのときはカッとなっていて……不味いことをしたかも。だからと言っていきなりアレはないし、わたしだって態度を変える気はない。


 ランベール様……あなたからの手紙を読めるだけでも嬉しい。


 この世界に転生してからずっとギーズ出版社にはお世話になってばかり。わたしがこうして生きていられるのも皆様のお陰。いつかはご恩をお返ししなくちゃ。そのためにも、今書いている長編小説を書き上げよう。


 ランベール様を描いた絵をデスクに広げ、雑草を挿した花瓶を置いて、鬱々としていたわたしはようやく立ち直った。

~~~~~~~~

★文通は『手紙のやり取りは禁止』という謎契約の違反にあたります。

~~~~~~~~

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