ランベール・ギーズの深くて浅くてややこしい裏事情
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★ランベール・ギーズは『ギーズ領ギーズ子爵ランベール・ギーズ』といいます。元々家名は『ギーズ』ではなく、貴族籍は王政時代に祖父が大金はたき、度重なる戦争で没落したギーズ家から買ったものです。
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首都で週刊誌・月刊誌・書籍を発行する出版社を経営する、経営者兼投資家の僕――ランベール・ギーズ、三十四歳。妻は銀行頭取の長女エレン二十四歳。今のところ子供なし。
外国籍の子爵家当主なのだが、五年前起きた祖国のクーデターに巻き込まれ、王党派だった祖父母は処刑された。その後やむ無く両親と共にこの国へ逃亡して来たのだ、貴族籍は祖国に残したまま。
子爵という爵位は、植民地で大儲けした祖父が領地と一緒に金で買った。だから、貴族といってもギーズ家にそれらしきマナーやしきたりはない。
両親は亡命後間もなく当主の役割を僕に押し付け、高原リゾートの別荘に逃亡した。この国に僕を放り投げたままにするとは、けしからん奴らである。亡命当時に押し込められた狭い庶民用テラスハウスから、郊外の屋敷に住めるようにしてくれたことには感謝するが。
クーデター政権下では祖国の領地へ行くことは難しく、経営は信頼できる遠縁に領主代行をまかせている。
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僕の奥様となったエレンパパからの勧めで新たな鉄道会社に投資してからは、毎年かなりの配当金が入る。そのお陰で、没落する貴族が多い世の中になっても裕福な暮らしを維持している。数年前には半ば道楽で、出版社と芸術家のパトロンもはじめた。
この激動の世の中では貴族の体裁を保つのは難しい。世間という名の荒海を、沈まない程度にパチャパチャ泳いでなんぼである。
ギーズ出版社の入っている屋敷は奥様の実家であるセントレ家のものだ。
従業員はなるべく見目麗しげな有閑貴族・地主子息子女で固め、方々の社交場へ派遣しては最新ゴシップを拾ってくるよう指示している。取材のための必要経費は惜しまない。
奥様――エレン・セントレ――は、セントレ銀行頭取の長女だ。美的センスがとりわけ良く、しかも男をそそるボディをしているため、パーティー会場ではあまたの殿方を虜にしていた。
そのころのエレンはまだ二十一歳。年が十歳近く離れている僕は眼福と思い、慈愛を込めてチラ見していたら、なぜか彼女との間に既成事実を作らされていた。
(いや、何で? だってあの娘、平民だろ?)
『責任をお取り下さい、さもなくばお覚悟を!』と、エレンパパ――ヨーク・セントレ氏――に脅かされたので、(何の覚悟?)と不審に思ったが、結局ブルジョワ・ゴージャス令嬢エレンと結婚し、この上なく大切にしている。
大切にしすぎてまだ子供はいない。
結婚後も博愛主義が高じて淑女たちに愛をささやいていたら、別名『ダーク卿』ヨーク・セントレ氏に毒殺されかけたこと数回。
何と、セントレ氏の後ろには『影』がいたのだ!
驚いたのなんのって、影だよ、影!
(王族ですか?)
しかも『覚悟』とは、セントレ・ダーク卿を敵に回す覚悟だったのだ!
ピチピチボディーのエレンを眺めていただけだったのに……よろしくない妄想をしていたのは否定できないが……。
義父と和解した今は、影のひとり、丸坊主・丸眼鏡のウォルティーを用心棒として(強制的に)雇わされている。表向き僕の『付き人』であるソイツは、セントレ氏の持つ各種実動部隊の副リーダーだ。
娘のエレンを守るためにソイツが僕を監視していることは承知している。
元々豪商だったセントレ家は、没落貴族の財産を次々と掠め取って実業家に成り上がった『貴族殺し』だ。現在のセントレ氏は表向き銀行家だが、裏で土地ころがしやら違法人材斡旋業やら、きな臭いことをしている。
僕が奥様と結婚してからは、『後継者教育をするから、出版社をセントレ商会の子会社にしろ』と、定期的に脅迫するようになった。
(勘弁してくれ……あの男がジャーナリズムになんか手を出したら社会が荒れる。この国で革命が起きる。Uターン亡命なんて洒落にならない)
気が付けば、すでに離婚などできやしないところまで来ていた。奥様とは生涯に渡る共犯関係なのだ。
できれば僕のエンジェルを手元に置きたい。しかしそんなことをすると僕は義父に消されるかもしれない。それに、アイラ嬢にも魔の手(セントレの影)が伸びてしまう。
ウォルティー経由で彼女の存在はすでに義父に知られているとは思う。
とにかく今は、静かに見守るしかない。
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「調査結果です、旦那様」
「うむ……サウス家。例の馬車事故の……」
彼女は数カ月前に馬車の事故で亡くなったサウス男爵家のひとり娘だった。その後叔父がサウス家を継ぎ、以来彼女は屋外の小屋に閉じ込められ、放置されているという。だから彼女は屋敷の裏門しか使えなかったのだ。
しかも叔父というアホバカは株で大損し、膨大な借金を支払うためにサウス家の事業を全て売却したという。
《サウス家絶許!》
アイラ嬢の叔父にはキッチリ落とし前をつけてもらう。
サウス家の馬車事故を『セカオピ』の記事にしたのを覚えている。事故の詳細は警察も解明できなかったので、事件性はなかったとされていたが……事故調査を担当した警官への聞き込みをしなければならない。
(居場所を失ったアイラ嬢は、僕が守らなければ)
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「ランベール、最近とても機嫌がよろしいけれど、新しいペットでも見つけたの?」
あざと可愛らしい奥様から追及兼尋問がはじまった。これはヤバいやつだ。
ペット持ちはお互い様なのにもかかわらず、僕だけが非難されるのはいかがなものか。
「ペットなんて奥様、とんでもない。僕は奥様一筋なのに」
「嘘つきね。あなたの嘘をパパに告げたらどうなるかしら?」
「容赦して下さい、奥様。決して浮気などしていません。将来有望な小説家を見つけただけです」
「怪しいわ、あとでウォルティーに聞くから覚悟しておいて」
「構いませんよ(チクったらヤツを締めあげる!)、では奥様にお勧めのこの小説を読んでみて下さい」
僕は、アイラ嬢の小説が載っている週刊誌を奥様に渡した。
「また話をはぐらかそうとしていない? 気に食わないけれどまあいいわ、あとで読んでみる」
鋭くなまめかしい視線をあびせた奥様は、どうやらアイラ嬢の書いた令嬢奇譚小説を気に入ったようだ。当然だ、この小説はアイツが十八禁スレスレにリライトしたからな。
(有難い、寿命が伸びた……)
僕は胸を撫で下ろした。
アイラ嬢の書く令嬢奇譚小説は女性向けの三文小説だが、誌面に載せた号は週刊誌の売れ行きが伸びた。書店員の話によると、女性の購買客が多かったようだ。これからは女性向けの小説もときどき載せることにしよう。
近々仲の良い画家にアイラ嬢の肖像画を描かせよう。背景はどんな場所が相応しいだろうか。
浜辺、海中、森の中、庭園、寺院の前……。
果てしなく想像が広がる。
奥様は海辺のリゾート地を背景にした。それなら、アイラ嬢は妖精のいる森だろうか……これは画家とよくよく話し合いを重ねなければならない。
そのころ僕はすでに、アイラ・サウスという少女に取り憑かれていた。
~次回もランベール・ギーズのターン~
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☞アイラ(北橘佳奈)が頑張って書いた短編小説は、お世辞にも採用できる代物ではありませんでした。ランベール・ギーズにアイラ・フィルターがかかっていただけでした。
☞アイラの奇々怪々な小説は、自分勝手にリライトする自称文学青年フリップ・セシルの謎手腕にはまり、十八禁を加味したトンデモ令嬢奇譚小説に変化し、奥様方の支持を得ていくのです。
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