表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルカロイドに眠る妖精-Alkaloids of the gods-  作者: 可燃性少女
プロローグ【第四障壁】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/29

Pro.『第四障壁』

※本作は、植物や違法薬物にまつわる描写が含まれますが、麻薬・麻薬戦争をモデルとした架空の物語であり、実態とは異なる部分があります。また、著者は本作により、麻薬に対するいかなるスタンスも表明しません。

 第四障壁、という思考実験がある。

 ある物質における観測を行う装置の中で、その物質の左右、背後は第一、第二、第三の隔壁で囲まれている。しかし、その物質から見て正面、あるいは、観測する人間から見て正面の壁、第四の隔壁には、観測用の覗き窓がある。

 観測者は、覗き窓から物質の変容を観測し、シュミレートする。その物質は、自分がシュミレートされた虚構の存在であるということに気付くことはなく、あたかも、その実験装置の中こそが”真の現実”であると錯誤し、あるいは、妄信する。

 第四障壁、という思考実験がある。

 我々は、より高位の次元に存在する何者かによってシュミレートされ、全てが仕組まれた機械仕掛けの世界で、愚かにも、この世界が本物であると高らかに世界を賛美する。あるいは、この世界こそが本物であると、空気の味を説き、世界の理を解き、その妄信を時に、”真の現実”と呼称する。

 実験装置の中の世界と同じように、我々は、我々を作り、シュミレートする存在に気付くことはできない。第四の隔壁を突破することは、できない。しかし、そんな荒唐無稽な思考実験から導き出された結論を、一体この世界の誰が否定できるというのだろうか。

 誰一人たりとも、いるはずはない。それは、耄碌した神父の頬を打っても、国家間弾道ミサイルを撃っても、数百年来の未解決問題を討ちとったとしても、同じことである。どんな知の巨人であろうとも、彼ら、彼女らは、”この世界”の人間であるからだ。

 隔壁に囲まれ、第四障壁の存在を知覚することも出来ない、”この世界”の人間なのだから。

 第四障壁、という思考実験がある。

 目の前にいる女が、この愛おしくてたまらない女が見える。

 これは、このからからに枯れた脳が見せた夢なのだろうか。誰も、わからない。

 この脳以外が、この脳を理解することはできない。そして、この脳すらも、これが夢なのか、そうでないのか、理解することはできない。

 つまり、この世界に存在する脳では、誰も、現実と虚構を正常に判断するインターフェースを持たない。現実─虚構関門を持たない。

 現実、あるいは虚構は、簡単にその関門を素通りし、現実、あるいは虚構の喜びを起爆させる。

 蠱惑的に、魅力的に、この唇を奪った女と、この脳に湧き上がり、作動した悦びは。この女は、誰かがシュミレートした”虚構”か。あるいは、”現実”か。

 この脳では、判断できない。

 二人きりの寝室。微かに訪れた平穏の足音と、蕩けそうな逢瀬の光景に、思わず瞼を閉じたとき。誰かがシュミレートをやめる。実験装置の蓋が開けられ、その中に光が注ぎ込む。僅か一瞬前に見た寝室の光景と、瞼の裏側の一瞬の暗転。

 瞼を開けたところに、第四障壁を超えた先の世界がある。

 かも、しれない。

 全てを得て、全てを支配したあとに、自分の全てと言えるこの女を(いだ)いた感触すら置き去りに、瞼を開けた世界で、薬漬けになり、うわ言を呟きながら、口元を這いずり回った唾液に喉をえずかれる中で、薄汚れた天上に手を伸ばす”現実”がある。

 かも、しれない。

 彼女の背筋を撫でる感触。きめ細かな肌は、まるで陶磁器のような滑らかさを持ち、けれど、それよりは幾許(いくばく)か柔らかく、より苛烈に熱を持つ。つい数秒前に口づけたその唇の艶やかさに、また吸い寄せられそうになる。その口許がくゆり、幸福を作動させる生物活性を持った声色が囁く。


「私が、貴方の見せた幻覚なのか、結論は出た?」


 首を振った。結論は出ない。この世界にいる限り、あるいはこの世界から抜け出したとしても。これは、未解決問題ではない。解答のない、不解決問題である。だから。


「だから、一生 苦しんでね?

 私のことだけ、で。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ