潮の流れ
1
『坊はユフトに連なるものではありませんが、ユーズレスの性能を60%引き出すことが出来ます』
補助電脳ガードがボールマンにアナウンスする。グランドマスターであるボールマンですら、ユーズレスの未知なる性能を完全に引き出すことは叶わないようだ。
「十分だ。ユーズ、まずはあの海蛇を陸にあげるぞ。矛盾機構・千変万化(無限連撃)」
『……り…』
ボールマンの懐かしく軽快な声がユーズレスに響き渡る。ユーズレスは空色の瞳を一回点滅させて了解の意を示した。
『《演算》を使用して魔力を省エネしてやり繰りします』
補助電脳ガードが《演算》を使用して、マザー・インテグラが空の上からバックアップする。
ユーズレスは流体金属を拾い、かつての経験から金属を形成する。
パリン
〖矛盾機構〗は正しい操作手順で行った場合使った回数ごとに流体金属の体積が減少する。流体金属が減少した分だけオリジナルに近づく。
ボールマンを見る。この血よりも濃い二人のコンビに怖いものはもう何もない。
ユーズレスはかつての破壊神の巨帝(三メートルの最強の斧)を形成し、シーランドへと駆け出した。
2
「ぐううぅぅぅぅぅ」
「リーセルス大尉、踏ん張ってください」
いつも涼しい顔をしているリーセルスは大変に頑張っている。今までにないくらい頑張っている。
神獣であるシーランドを、わずか数秒であるが一介の魔術師が動きを封じるなど大金星である。ランベルトの独自術式上級範囲魔術≪コン・クリート≫は控えめに言っても難易度が高い魔術になる。いくら〖夜森の杖〗による範囲拡大の効果と、ランベルトの補助により術の理解を高めてはいるが、それでも術を構成することができる彼はやはり天才であろう。
「ランベルト中将、私はいつから大尉になったのですか」
リーセルス大尉はさらにちょっと頑張れた。
「私が特例で今、任命しました。おめでとうございます。これで、貴方も貴族爵位待遇ですね。目の前にニンジンがぶら下がっていたほうが、馬はよく走るでしょう」
「貴族を馬扱いとは恐れ入りますねぇぇぇぇぇぇぇ」
リーセルスの預かり知らぬところで中年眼鏡のよる大いなる力によって、リーセルス大尉どうやら爵位付きの馬に昇進したようだ。おめでとうリーセルス大尉、これからも馬車馬のごとくお仕事お疲れ様です。
「ウェンリーゼの馬は名馬ばかりなので」
このランベルトという騎手兼調教師は涼しい顔して相当に馬づかいが荒い。
「それは大変名誉なことですが、いくら名馬でも走らせ過ぎては…ぐううぅぅぅぅぅ」
名馬リーセルスはもう限界だ。
「ガラララララ」
シーランドに纏わりついていた半固形状の《コン・クリート》が弾かれる。時間にして、数秒足らずであるが名馬リーセルスは時間を稼いだ。
「安心して下さい。リーセルス大尉、主役のご登場です」
「ユーズ、《物理攻撃》海を裂け」
ボールマンの心弾む声色が疲れ切った二人に響く。
ユーズレスが巨帝(大斧)に力を込める。
機械人形ユーズレスU-10は、兄弟たち全て(U-1~9)の特性をダウンロードした末っ子のゴーレムである。
大斧巨帝にユーズレスの力が込められた一撃は、ボールマンの指示通りウェンリーゼの海を割った。
「ガララララァァァ」
シーランドは先ほどまでと違うユーズレスの行動に戸惑う。ウェンリーゼの海にシーランドまでの道ができる。
「ユーズ、《敏捷・大》、《器用・中》、流体金属ハンマー(巨人殺し)」
ユーズレスは流体金属を変化させながら、割れた海の陸の道を常人では視認できない速さで加速してシーランドの後方に回り込む。
「ガララ」
シーランドは負傷した左目のより後方の反応が遅れる。
パリン
流体金属が体積を減らしながら、大斧巨帝から巨人殺しのハンマーに変化する。ユーズレスはハンマーをシーランドの腹部を引っかけるように器用に振りぬいた。
腹部を防御しようと身構えていたシーランドは地面(海)との接地面を踏ん張ることが出来ずに砂浜に吹き飛ばされる。
「ガララ」
しかし、海の王者は黙ってはいない。シーランドは吹き飛ばされながらも、ユーズレスに向かって《水球》を三発放ち牽制をする。
潮の流れはまだ変わらせない。
割れた波が再び陸の道を再び海にしようとしている。
「ユーズ、タワー30階(盾)、《器用・小》、《敏捷・小》」
パリン
ユーズレスの両腕に取り回しのいい小楯が形成される。
〖タワー〗
種類:形状変形の盾 10~60階
効果とストーリー
防御を司るU-4フェンズの盾、形状変化する盾であり10~60階というランクがある。ランクが高くなるほど防御力は上がるが取り回しの自由度が下がる。ランクが低くなると防御力は低くなるが形状の自由度は上がり、取り回しや盾以外の応用的な使用が可能である。
ユーズレスが割った海の波がもうそこまで押し寄せ、陸地が再び隠れようとしている。ボールマンは足場の悪い場所では敢えて《敏捷・小》を指示する。ガードが自動で姿勢制御の地形適性をプログラムしてユーズレスはシーランドへ前進する。
《水球》がユーズレスを襲うが、ユーズレスは小楯で《水球》を防御しつつ《器用》による効果で斜めに攻撃をいなす。ユーズレスはその加速した速度を維持したままシーランドへと特攻する。
「ユーズ、イージス・フルプレート(絶対防御の全身鎧)」
パリン
流体金属の連続使用によりその体積は減少しながらも、質はオリジナルに近しい性能を誇る。ユーズレスの全身を流体金属が包み込み、絶対防御の硬度を誇る全身鎧(全神鎧)となる。
「ユーズ、《敏捷・大》、《演算》」
ボールマンはユーズレスが砂浜に設置した瞬間に加速を助長させて、ガードに地形適性を変化するように指示をする。
シーランドは吹き飛ばされた際の体勢を整えているところで寒気を感じる。自身に迫ってくる銀に輝く流れ星を視認するが遅い。
「ガララララララァァァァッァ」
ユーズレスの数百キロの体重に《敏捷・大》加速度に加えて最高の全身鎧による硬度の一撃は…シーランドの鱗を破壊した。
仲直りを果たした二人の攻撃は息ピッタリだ。
神々も機械の優勢に安堵した瞬間に
『ビィィィィ、ビィィィィ、度重なる矛盾機構による流体金属の変形により、体積が著しく低下しております。変形の回数が制限されます。また、本機の魔力保有量が残り20%です。戦闘継続可能時間は約十分となります。直ちに通常運転かスリープモードを強く推奨致します』
補助電脳ガードが残りのタイムリミットを宣告した。
サラサラサラ
ボールマンの足がゆっくりと朽ちていく音が聞こえた。
リーセスはいつの間にか気絶していた。
ランベルトの血は止まらない。
死神が再び鎌を振り上げた。
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