閑話 キカイノココロ 壱
ユーズとボールマンの成長記録です。
外伝での閑話の伏線も回収できたらと…
1
ユーズレスの電脳が無意識に幼き頃のボールマンとの記録をフラッシュバックする。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ」
「あらら、これはおしめの交換かしら、それともミルクかしら」
白猫獣人のラブが坊をなだめる。
初めは鬱陶しかった。
登録されていない不思議な言語を発する生き物
理不尽に騒ぎ立てる爆音
自身で処理できない排泄物
どうして、ニンゲンは創られて直ぐに動くことが出来ないのだろう。
ミルクの温度を設定する。このヒトハダという温度が坊には最適らしい。
ミルクの成分を調べ、味を鑑定する。
ビィィィィ、ビィィィィ、ビィィィィ、
補助電脳ガードが警告を発する。どうやら、機械にとってミルクは錆びを助長する毒物らしい。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ」
聴覚センサーが過敏に反応する。
この生き物は自身のことが何もできないくせになにをこんなに威張っているのであろう。
アカンボウとは、機械人形に比べてなんて成長が遅く【コストパフォーマンス】が悪いものなのであろう。
本機には理解不能である。
「ユーズ、ミルクの準備ありがとう。悪いんだけど、坊にミルクあげてもらえる」
『………』
ユーズレスはエメラルドの瞳を一回点滅させる。
ユーズレスは白猫獣人ラブから、おしめを取り換えた坊を預かる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ」
坊はこの世の終わりを告げるかのように、上機嫌だ。
ユーズレスは機械の父と云われたユフト師によって〖機械は人の為にあるべきもの〗の理念のもとに創られた最高の機械人形である。
ユーズレスはオトウサンの名誉のためにも、この永遠に続くような理不尽に負けるわけにはいかない。
ユーズレスは≪演算≫を起動してラブの抱っこを参考に、坊が心地よいと思われる最適解の抱っこをする。この時代に導き出された、最高の計算による至高の抱っこだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ」
世界の崩壊は止まらない。
数千年の時を稼働した魔道機械人形ユーズレスは、惨敗した。
至高の抱っこ単体では難しいようだ。ユーズレスは右腕部のミルクを坊の口に突っ込む。
「チュパ、チュパ、チュパ」
どうやら、コンボのよる攻撃は坊を黙らせた。
ユーズレスは伝説級アイテムにより坊には勝利したが、ミルクに負けた。機械人形とミルクはやはり〖犬猿〗のようだ。
「げっぷ…」
ミルク(毒物)がユーズレスにかかる。アカンボウは、ミルクの摂取後にゲップという無礼なマナーをしなくてはならない。
やはり、本機には理解できない。
だけどこの理不尽な生き物のヒトハダ…あったかいなぁ
2
坊を観察して200日が経った。
「あい、あい、あい」
坊は四足歩行を獲得した。スピードは速くはないが、自身での移動可能により行動範囲が広くなった。
ニンゲンは二足歩行の生物である。
ラブに怒られたときのヒノエ(ヒョウ)が撤退する際の動きを真似ているのであろうか。
それにしては、遅い。
有事の際には《敏捷》を発現しなければ、容易く捕獲されてしまうであろう。
「あい、あい、あい」
決まって最後には本機のところへ帰ってくる。
「毎回、ユーズのところにはちゃんと帰ってくるのね。うちのヒノエにも見習わせたいものだわ」
ラブの魔力が一瞬上昇する。
ヒノエの真似はするなよと、坊の頭を撫でておく。
ユーズレスはエメラルドの瞳を一回点滅させた。
「あい、あい、あい」
坊が、本機を見て笑ってくれた。
もっと笑わないかなぁ…
3
観察を始めて300日が経過した。
本日は、坊のおそらく一歳であろう日を祝う儀式を行うようだ。
「坊、頑張れ、頑張れ」
「あああああ」
「もうちょっとだ」
「頑張れ、頑張れ」
異様な光景である。普段は坊に優しい、ラブとヒノエが、お祝いに駆け付けたヒノト(レツ)とゼオ(スイ)が、坊を拷問している。
この9000グラム程度しかない坊に、重さ1800グラムの一生餅という錘を背負わせて笑いながら楽しんでいる。
「あぎゃぁぁぁぁっぁぁ」
坊は自身の五分の一の錘を背負わされ、その動きを制限された中で立ち上がらなければならない。これは、古来より伝わる神々がニンゲン種に与えた試練であり「一生食べ物に困らない」「一生健康であるように」「一生円満に過ごすことができる」加護が与えられるようだ。
しかしこれは、暗黒儀式に匹敵する恐ろしい儀式である。複数人に誹謗中傷に近い言葉を浴びせられながら、まだ自我にも目覚めていないアカンボウが神々へ自身の強さを証明しなければならない。これで、坊の一生が決まってしまうのだ。
可愛いであろう坊を笑いながら精神的に追い詰めなければならないラブ達も相当に精神をすり減らしているであろう。
本機は≪演算≫を使用する。このままでは、坊が転んでしまう確率が非常に高い。
このままでは坊がシアワセニなれない…イッショウ
グラッ
坊が中腰の姿勢から脚を伸ばした瞬間にバランスが崩れた。
ユーズレスは重力制御魔術≪斥力≫を発現した。この魔術は≪引力≫の反作用の効果で物体と物体を反発させる。
ユーズレスは坊を転ばせないように、床と坊を反発させた。
「あきゃあ、あきゃあ」
坊は十メートル上空に飛んだ。
「あああ、坊が空を飛んだ」
「きゃぁぁぁあ」
ラブの悲鳴も空を駆ける。
「風の女神の祝福か」
ゼオは相も変わらず見当違いを述べる。
「ヒノト、変化して跳べ」
「わかった。大きい兄者、獣化変化」
ヒノエが命じ、ヒノトは七色の羽が生えて素早く助走をつけ、風切り羽が空を舞う。
「きゃい、きゃい、きゃい」
無事にヒノトにキャッチされた坊はご機嫌だ。
良かった。
これで、坊はイッショウシアワセニなれるかな。
その後、四人の獣人に日が暮れるまで怒られた。
どうやら、転んだら転んだで「呪いを落とす」という効果があるらしい。
神々の加護は難しい。
イッショウモチの儀式は色々な意味で暗黒儀式より恐ろしい。
「あい、あい、あい」
坊がユーズレスを慰めるかのようにヨチヨチと寄ってきた。
神話の時代より遥か昔、ニンゲンの少年と機械人形の物語があった。
その少年と機械のコンビは、皆からポンコツと呼ばれたが一生を通して尊い絆で結ばれていたそうな
『………』
ユーズレスはエメラルドの瞳を輝かせて
ズットソバニイルネといった。
「あい、あい、あい」
坊はユーズレスにいつものように笑った。
神々には坊が「いっしょうそばにいてね」といったように聴こえた…
今日も読んで頂きありがとうございます。
作者の励みになりますので、いいね、ブックマーク、評価★★★★★頂けたら作者頑張れます(笑)
今日はあと一話投稿できたらいいなぁ。




