表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
501/503

閑話 ベルリン・アダムスミス

1


ベルリン・アダムスミス幼少期


「スミス、お前さんはワシらの真似をせんでいい。一番強い奴は、武器を振り回す奴じゃない。お前らの親父みたいに、金の持ってる奴が一番強い(怖い)んだ」

ベンは甥であるスミスの頭を撫でながら優しい目をした。


「でも、僕は将来は一人前の騎士になるんだ! そして、未踏破の大迷宮を踏破して、ベルリン伯爵家を馬鹿にした奴らを見返してやりたいんだ! 」

スミス少年の鼻息は荒い。


「そうかぁ。だがなぁ……」

ベンと従兄弟であるジョーは困ったように頭を掻いた。


「もう一本! おりゃあああ! あでっ! 転んだ! うわぁぁぁん! 痛いよう母上ぇぇぇぇ! 」

スミス少年の志は高いが、残念なことにスミス少年に剣才は全くなかった。


2


ベルリン伯爵家は商会から財力援助により、グルドニア王国に貢献したとして貴族になった家である。


つまりは、元は平民である。


数世代に渡り、貴族との婚姻してきたがいずれも男爵クラスの下位貴族である。


ベルリン家は名目上は伯爵の位であるが、その血統ゆえに他の伯爵、下位の子爵にすら疎んじられることがしばしばあった。


伯爵の位に就いたのも、武功に優れた等ではなく、位が高いほど税を納めなければならないために与えられた『名誉集金』のようなものだ。


おそらくこの集金を納めることができなければ、王家や中央貴族は難癖をつけて、ベルリン家を降格させるだろう。


商会が肥えればまた、昇格させて奪うだろう。


ジワりジワりと太く長く痩せすぎないように……


だが、そこに終止符を打ったのがスミスの叔父であり、ジョーの父である『薬神ハンチング』であった。


ハンチングはかつてデニッシュのパーティー『銀狼』に属しており五十年前にズーイ伯爵領にあるウーゴ迷宮での魔獣大行進からウーゴ男爵領を救った『ウーゴの奇跡』の立役者の一人であった。


その事で、ベルリン伯爵家は商会としてだけではなく。武家としても品位を保つことができた。


いつもは他家との取引で対等ではなかったが、 このことで一時的であるが中央でのベルリン伯爵家の発言力は強まった。


また、ハンチングの弟であるベンジャミン『ベン』は魔導技師として天才であった。代表作が収縮可能な魔導テント『東屋』であろう。

リュックサイズのテントが『拡張』と言えば大人五人は休める強度の高いテントになるのだ。

これにより軍やキャラバン、冒険者の野営のストレスは大幅に減ったのである。


スミスの伯父二人はこのように類まれな才があり武力でもベルリン家秘蔵のアーティファクト『皆中』『拳骨』に相応しい武力の持ち主であり、ハンチングの息子ジョーも魔力こそ少ないが父親譲りの狙撃の腕に医術の知識が明るかった。


だが、出る杭は打たれる。

ハンチングとベンへの風当たりは強かった。

鬼才が一人であれば、違っただろうが中央の貴族は急速に成長しつつあるベルリン伯爵家の兄弟を恐れた。


身の危険を感じた二人はベルリン伯爵家から勘当という形で逃がして貰った。



ハンチングに、ベン、ジョーがたどり着いたのが遥か東のウェンリーゼであった。


そして、ベルリン伯爵家は消去法で年の離れた三男であるスミスの父が跡を取った。



そう、武力も魔導技師としての才能はないが、商才のある()()()()()()()()()()血筋が後継者となった。


「どうして僕はこんなに弱虫なんだ」


 そんなスミスはベルリン本家の令息、未来の跡取りとして騎士として劣等感の塊だった。


「お前は誰よりもベルリン家の血が濃いだろうに」


 ベンとジョーは逆にスミスに嫉妬していた。


 ベルリン・アダムスミスは幼少の時で既に総資産は本家と同等であり、苦手な武芸を諦めてからは五年で軽く総資産を三倍に増やした。


「まったく、武力は金で買えるが金のなる木は才能だろうに」


「まったくだ。力と違って、鍛えれば伸びるものでもないのにな」


 この時のスミス少年は知らなかった。


 言語を介した生物での社会、経済という概念がある世の中で一番の力とは紛れもなく、金であることを……



そしてベルリン・アダムスミスは、歴代当主である誰よりも商才に優れた。

『経済の騎士』であった。



3


オーネスト神聖国内 グルドニア大使館



「ターンコート大神官様、私とて非常に心苦しいのですが、時は金なりという古代語がございますようにパッション様の一声で、オーネストの産業に革命が走りますわ」



「しかしながら、サファイア卿、いくらなんでも急すぎるのでは」



「そんなことはございませんわ。今、このような議論をしている間にも、今回の魔導半導体事業を、工場誘致を狙っている国は多いのです。()とターンコート様の間柄なので、特別にベルリン伯爵を紹介させて頂きましたわ」


スミスは気だるそうにマゼンタがオーネスト神聖国の外交官と交渉(脅迫)中に白昼夢を見ていた。


「貴公が、経済界……『神童アダムスミス』殿か、お会いできて光栄だ」


「随分と古い話を、二十歳を過ぎればただの人なんて話もあります。今ではただの、お金が好きな中年ですよ。はっはっはっはっは」


 三十半ばを過ぎたスミスがニコリと笑った。




4


 スミスはマゼンタの外交に口は出さなかった。


 オーネスト神聖国を始めとした。グルドニア近隣諸国にマゼンタは、一年間の武力行使を行わないことの調印をした。所詮は同盟国とはいえ戦争も経済活動の一つに過ぎないからである。


 一大農業国家であるディアントラ国では、デアという鹿の角を薬や工芸品の材料として管理していた。例の如く、大臣は横流ししていた。


「時間がないので単刀直入にいいます。ウィークリング大臣、あれのあれのあれですわね。はい! ここに、サインと朱印をよろしくお願いいたします」


「ひぃぃぃぃ! どうかご慈悲を」


マゼンタは十分で外交を終えた。


「はい! 次! 」


 オーマ連邦、大陸最北端にある漁業が盛んな国である。『海王神祭典』でのシーランドの件で海が荒れ、漁獲量が低下しているが山岳地帯にはレア鉱石の気配がある。だが、採掘資金や鉱石運用技術がないために持て余している。


「今すぐにここにサインと朱印を、ベルリン伯爵あれを」


 オーマ外交官ギリの前にはシャレにならない額の小切手が置かれた。


「三十秒でサインしなさい。今なら無利子、一秒ごとに金利があがるわ」


「ピィ! 」


「はい! 次! 」


 ワンゲート連合国、七つの都市の連合国で強固なつながりがあり『岩の繋がり』と呼ばれている。恩には必ず報いる体質で、飢饉の際にグルドニアから援助を受けていた。また、当時は別口でウェンリーゼのボールマンから魔石も実質関税だけでほぼ無償で融通してもらった。


「よろこんでサインします」


ちなみに各国への根回しはすでに別ルートで、スミスがある程度の心付けをしていた。


スミスは、サファイア公爵家であるマゼンタの寄り子ではないが財務を司るサファイア公爵家とは切手も切れない関係なのである。


「オスマァァァン! 待っててねぇ! 直ぐに帰るからぁぁん! 」

マゼンタとスミスの活躍で、一時的にグルドニア近隣国から三年間の不可侵条約が秘密裏に結ばれた。


紙くず程度の約束であるが、少なくとも『魔獣大行進』を受けている今日明日に破られることはないだろう。


スミスは剣を持たない。

しかし、金の力で百万単位の騎士の力を封じた。


そして何より。


「二桁の国が神獣フェリーチェの武力行使を承認したわぁん」

「人ではなく、魔獣に対してというくくりが良かったのでしょうね。サファイア卿の口には叶いませんね」

「あらぁん。スミスちゃんったらぁ、私、あなたの無意識にお金を稼ぐ力は大好きよん。まあ、どんなにお金稼いでも、私のオスマァァァンには勝てないけどねぇん」

「サファイア卿のような絶景の美女にそういわれるルビー卿は幸せですね。ハハハ」

「これからが、本番よぉん! フェリーチェの承認をカードに、オスマァァァンとの薔薇色のセカンドライフを交渉するわぁん」

ちなみにマゼンタは正直、王都がどうなろうが知ったことじゃない。


大事なのは罪人である自分とオスマンの今後の待遇を、どれだけ良くするかだけである。


「はぁ、本当にこれだけぶっとんだ才能は危険ですね」

「はぁ、あんたって……いや、早く帰りましょう」

マゼンタはスミスに、「世界中で一番ぶっとんだ才能(金のなる木)はアンタでしょ」と口を出しかけてやめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『機械人形(ゴーレム)は夢をみる~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)』 https://ncode.syosetu.com/n1447id/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ