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17 やられたらやり返すのは世の常

1


「オスマン殿とマゼンタ殿による、いや、ルビー公爵家とサファイア公爵家の海王神祭典によるウェンリーゼの妨害工作、災害緊急信号クリムゾンレッドでの虚偽の報告は軍部、ならびに王室の権威をも地に落とした。これは、歴史上類を見ない汚点となる。これは、王室と協議したうえで、新たに審議の場を設ける。二人には、いや家門も含めておって沙汰があるだろう」


 マウが高らかに宣言した。


 オスマンは何も言わなかった。


「ウェンリーゼ側から、何かいいたいことはあるか? 状況からみればウェンリーゼ側は今回の件は被害者であることは明白だ」


 マウが問う。


「我々からは思うところもありますが、身の潔白が証明されてなによりであります。散っていった皆の名誉も守られました。この結果も、ひとえに神々のお導きによりものでしょう」


 リーセルスが言った。


 リーセルスは安易にオスマンとマゼンタを非難しなかった。


 元々、ウェンリーゼ家は昨年の王都奪還での功績と、アーモンドの婿入りで伯爵から『公爵』へと六代貴族に迫らんとする勢いだった。だが、まだ立場は伯爵である。


「そうか、ならばこちらからは何も言うことはないな」


「ただ、今回のマゼンタ様のご指摘も多少身にしております」


「「「???」」」


「?! 一体何のことだ」


 ザワザワ、ザワザワ


 マウと会場がざわつく。


「管理に関してでございます。確かに、マゼンタ様のいう一人の天才であるボールマン様に多くの負担がかかっていたことは明白です。今回は、厄災級シーランドによる天災でございました。ですが、当方としましては、今回のことを機会により一層管理について新たにマニュアルを改定して、管理に望みたいと考えております」


「そうか、それは殊勝な心掛けだな」


「恐縮でございます。それにより、今回、マナバーンがあった人工魔石製作炉二号機は当面の間、稼働を休止したいと思います」


「「「!!」」」


 これには、貴族たちは絶句した。人工魔石作成炉二号機から作成される人工魔石は第二級魔石である。生産数こそ少ないが、迷宮レベルにして中層主クラスの純度である。平民の日常的な使用頻度こそ低いが、貴族では話が違った。高位の貴族は特に上級魔石の使用頻度が高い。


 また、ウェンリーゼ産の魔導具は基本的に人工魔石仕様であるが、三級魔石以上は数も少なく使用頻度も低い、さらには基本的には貴族以上の身分や商人での使用頻度が多いため迷宮産の魔石も使用できるようになっている。


 そのために三級以上の魔石は四級と比較しても価値が高く、コストも高い。二級魔石であればなおのことである。


 人工魔石製作炉二号機を当面の間、稼働休止するということは、魔石の価値が一気に上がることを意味する。これにより、一時的であるが迷宮産の魔石の価値も大いに上がるだろう。つまり、得をするのは魔石を保有している冒険者組合、大商家を営むベルリン伯爵家、流通を司るムーンストーン公爵家、迷宮を司るジルコニア公爵家である。


 査問会で余計な雑音が入らなった対価としては十分過ぎるだろう。


「裁判長! 急な発言失礼する。休止期間はどのていどを考えている? 」


 宰相のバーゲンが問う。


「それは、私としてはなんとも、まずは当主であるラザア様のご出産が最優先かと、ウェンリーゼ家ならびにグルドニア王国において最も重要なことですから。なんといっても、先王デニッシュ様、大陸一の剣士といわれたキーリライトニング様のひ孫にして、唯一の血縁、さらには聖なる騎士アーモンド様の御子でありますからね。王室も何よりも優先すべきことかと思われます」


「……そうだな。無粋なことを聞いた。詫びよう」


「宰相閣下、どうぞお気になさらず」


 父である宰相バーゲンを沈黙させたリーセルスは大層上機嫌であった。


 皆は改めて認識した。ウェンリーゼ家の人工魔石製作炉二号機の稼働休止期間によって、魔石の相場はいくらでもコントロールできるのだと。




2


「それに伴いまして、ラザア様よりこの度の騒動の責任を取りたいと申しております」


 リーセルスが間一髪入れずにいった。


「責任とな? それはすでに十分果たしたと思うが」


「ご存じの通り、前当主ボールマン様は最高の魔導技師にして当主としての力量も十分でありました。しかし、この度の急なご逝去で少なからずウェンリーゼ家は混乱の最中でございます」


「……察しよう」


「ここからは、当主代行代理であるラザア様よりお話したいと思われます」


「許可しよう」


「裁判長、寛大なご配慮痛み入ります。着座での無礼お許し下さい」


 ラザアが座りながらいった。


「いや、この度は大変であった。ラザア殿もたいそう体に応えただろう。楽にするとよろしい」


「恐縮でございます。我が領ですが、私はまだ年若く、身重です。夫であるアーモンド殿下の助けがあっても、尊き血筋である我が子のことを考えると、今は無理をする時ではないと思われます」


「賢明な判断だな。人工魔石製作炉二号機の再稼働には、司法である私が口出しすることではないが、身体を労わってからこのような同じ事案がないように十分に検討頂きたい」


「最もでございます。それに加えまして、この場を借りて恐縮ですが王陛下に進言したき義がございます」


「王陛下に?」


 マウがピーナッツを見る。ピーナッツが「良い」と頷く。


「私どもは、この度の騒動で少なからず王都に被害と混乱をもたらしました。賠償とは別に、近々任命される『公爵位』を辞退させて頂きたいと思います」

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