12 ゲコゲコ
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「すっ! 凄い! 凄い! 凄いぞ! 」
「本当にあの化け物を倒したぞ! 」
「獣人があそこまでやるとは」
「ふん! 当たり前だ! 我ら獣国は勇敢なる戦士!」
「ジョー殿とベンジャミン殿はベルリン家の生まれだったな。成金の商家だと思っていたがまさか身内にこのような勇敢な騎士がいようとは」
「流石、金級冒険者にしてデニッシュ様唯一の弟子、ギン殿のような剣士は見たことがない」
「ボールマン殿も、まさか戦闘に加わっていたとは。病床に臥せっていたと聞いたが、あのレベルの魔法は王宮魔術師でも儀式魔術を発現しないと難しいのではないか」
「能ある鷹は爪隠す等といった古代語が、まさにこのことだな」
「いや、最後のアーモンド殿下の一撃を見たか! まさに聖なる騎士に相応しい一振りだ」
「おおお、何故だ、涙が止まらん」
ザワザワ、ガヤガヤ
「皆のもの静粛に! 機械人形ハイケンの映像は以上であるか」
マウがハイケンに確認する。
「皆さまには長い時間お付き合い頂きありがとうございました。縮小版ではありますが、以上が海王神祭典の一部の報告を致します」
パチパチパチパチ
「ハイケンさん『映像』ありがとうございました。私、女がてらにウェンリーゼの騎士の皆様の武勇に胸が熱くなりましたわ」
マゼンタが拍手をしながら賛辞を贈る。
「マゼンタ様、恐悦至極に存じます。ウェンリーゼの散っていた騎士、主であったボールマン様もそのお一言で救われる想いであると代弁することの一部の報告を終了致します」
「まさに、騎士の中の騎士でありますわね。ですが、これと査問会の内容は別問題ですわ。先の『映像』にもしっかりと映っていましたわね。人工魔石製作炉のマナバーンの瞬間が……これは、王都の被害は間違いなくマナバーンによるものという報告の証拠ですわ」
マゼンタは頭をフル回転させた。会場の空気は『映像』によりウェンリーゼ側の流れになっている。ならば、その『映像』を逆手に取ろうとした。
「おっしゃる通りです。マナバーンは実際に起こりました。私の目の前で、ですが、原因は海王神シーランドによる『地震』です。そして、この海王神シーランド討伐には本来は、王都より近衛騎士団二部隊が転移門より送られるはずでした。近衛騎士団は上級騎士様達で構成されており、いずれも一騎当千! 近衛騎士団の方々がマニュアル通りにウェンリーゼに来ていただけていたら、海王神シーランド等、恐れるに足りず! 海軍と連携し、速やかに海蛇を討ち果たしていたことと予測されます。そうすれば、我が主も命を燃やすことはなかったでしょう。問題は、ウェンリーゼの応援要請に、軍部が応じなかった。これが、今回、マナバーンにより王都まで被害をもたらした最大の原因と私の《演算》が計算しておりますとの一部の報告を致します」
「……」
ハイケンの言葉にピーナッツの護衛についていた近衛騎士団は、絶句した。
近衛騎士団は上級騎士で選定されている手練れである。グルドニア王国の騎士十人分の戦力と言われる一騎当千の強者達だ。
だが、仮にクリムゾンレッドで近衛騎士団二個部隊が海王神祭典の戦闘に参加していたとしよう。戦場での勝利は一人の英雄ではなく、数の力とはよく言われる。だが、海王神シーランド、この厄災相手に数は関係ないだろう。
この神獣を倒せたことはある意味奇跡であった。様々な事象と神々の祝福、古代の遺産『機械人形ユーズレス』の力あってこそだ。
そんなことはハイケンやこの会場にいる大勢も分かってはいたが、貴族とは建前や礼節を重んじる生き物だ。
ハイケンはマゼンタに対してすら礼を欠かずに対応をしていた。
「クリムゾンレッドの発令は、グルドニア王国を守るために欠かせない救難信号だ。管理は軍部であるが、最終的な派遣には王室、王陛下の承認の元、いわば王命に近い効果がある。それは、皆も知っての通りだ。軍部を統括するルビー公爵家オスマン殿よ。軍部元帥として、今回の件でなにかあるか」
マウがオスマンに問う。
「え……ああ、はい! 」
オスマンが怯んだ。
「オスマン様、大丈夫ゲコゲコ」
フロッグ執事がオスマンの瞳を凝視する。
「あ、ああ、大丈夫。大丈夫。私は……大丈夫だ」
オスマンの瞳から色が抜けていく。
「そうゲコ、そうゲコ! ゲコゲコ」
「ああ、失礼しました。クリムゾンレッドは長距離通信魔導具『雷光』による色で重要度を識別します。黄色の場合は警戒で待機、赤の場合はクリムゾンレッドの由来の通り、即座に近衛騎士団二部隊を転移門より現地へ派遣します。今回の管制室でクリムゾンレッドは発令しましたが、ウェンリーゼからの信号は黄色でした。よって、マニュアルに従い、第二種警戒態勢で待機をしていたとの記録です」
オスマンは自信満々に答えた。
「裁判長! ウェンリーゼ側の信号は赤で要請したことの一部の報告を終了致します。管制室の記録を見て頂ければわかることかと思われます」
「裁判長、管制室の記録ですが此度のマナバーンの影響により、魔導具の不備が起こったためその日の記録はすべて消去されてしまいました」
「オスマン殿、手書きの記録はないのか?」
「昨今の人手不足のため、管制室の人員は常時1名となっております。そのため、今年より手書きの記録をとるマニュアルは削除されました」
オスマンが淡々と話をする。
「なるほどな。要するに、ウェンリーゼ側は赤色信号を送ったが、管制室で受信した色は黄色だった。そして、軍の報告では黄色だがマナバーンにより正式な記録がないと、ちなみにだが、その管制室の記録をしていた兵士は誰だ?」
「ラガー・ピルスナー少尉です」
オスマンがいった。
「ここに、ラガー・ピルスナー少尉を緊急召喚する」
傍聴席にいたラガーの父であるピルスナー男爵がとても心配そうにしていた。
ラガー少尉は、第三部のエピローグに登場しています。




