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11 海王神祭典という伝説

海王神祭典のダイジェスト版です。

1


「こちらに、海王神祭典による戦闘記録がございます。査問会用に十五分と時間を短くしておりますがこの映像は、私、機械人形ハイケンが記録した真実です。胸部の一部を出すことをどうぞお許し下さいとの報告を終了致します」


 ハイケンが胸部を開けてレンズを出した。


「裁判長! 十五分とは長すぎます。ましてや、提出物としては改ざんされている可能性もあります。信頼性もございません。もしくは、その機械人形が戦闘用であれば、各国の皆様方にも万が一の被害があります」


 マゼンタは本能的にまずいと思った。『映像』というものは理解できていないが、ハイケンが出した胸部のレンズを見た瞬間にマゼンタの本能が警鐘を鳴らす。


「ハイケンよ。その『映像』とやらは一体何なのか、私には理解できかねる。物証として裁判長である私が理解できないのもは、認めることは難しい」


 マウがいった。


「ゴホン、よろしいでしょうか裁判長! 」


「何かな? ミクスメーレン共和国代表フォート殿」


「他国の裁判での発言、無礼を謝罪致します。『映像』についてですが、どうやらハイケン殿が技術は古来の文明のものですな。流石は、天才技師ボールマン殿の最高傑作ですね。難しい説明は省きますが、光の反射によって、おっとこれも難しいですな。簡単にいえば、目で見た光景を再現できる技術とでもいいましょうか。ここでいうハイケン殿の映像は、海王神祭典によるシーランドとウェンリーゼの騎士達の戦いの記録のことなのでしょう」


 ミクスメーレン共和国代表フォートがいう。ミクスメーレン共和国はモノづくりの国だけあって他国より文明が進んでいる。


「なるほど。簡潔な説明、痛み入るフォート殿。だが、いくら他国の代表とはいえ、以後の発言は控えて頂きたい。それ以上は、退出して頂くことになる」


「……失礼した」


 フォートはそっとラザアとジュエルと見た。


 ラザアはフォートにお辞儀をしてジュエルはまだ泣いていたのでフォートの気遣いが分からなかった。


「正直いえば、査問会も議題が多くて埒が明かないところだった。いいだろう。ここに、ハイケンいう『映像』を物証として認める。異論はないなマゼンタ殿」


「……ええ」


 マゼンタが苦虫を食い潰したような顔をした。


「ゲコゲコ」


 マゼンタの後ろで執事フロッグが笑った。




2


 海王神祭典映像


 古代語で『百聞は一見に如かず』ということわざがある。




『ガララララララララララララァァァァァ』


 海王神シーランドの雄叫びは『映像』であったが、会場中の皆を震え上がらせた。


「きゃあああああああああ! 竜が竜が! 食われる! 」


「大丈夫でございます。映像です。あわわああわわわあわ」


「なんだ、この怪物は! いったいどれくらい大きいのだ」


「耳鳴りが、このような生物が存在するだなんて」


「こんな怪物相手にどうやって戦ったんだ」


「あああ……おしっこ漏れた」




 ハイケンは会場の広さを利用して壁いっぱいに『映像』を流した。『魔導ランプ』の明かりを消して映った『海王神シーランド』は会場の暗さも相まって壮大な迫力であった。初めて『映像』を見た者にはそれこそ本物と見間違えるほどにだった。




3


 グルドニア王国歴509年 


ウェンリーゼを海王神シーランドによる《地震》が襲った。ウェンリーゼ領の当主代行ボールマン・ウェンリーゼを含めた十一人の騎士たちは、五十年前のカリを返すべく海王神シーランド討伐へ向かった。


 次期当主であるラザア・ウェンリーゼを魔道機械人形ユーズレスと、王国からの婿養子であるアーモンド・グルドニアに託して……




 海王神シーランドは岸から約四キロ地点で、厄災級魔法《地震》を連発した。機械人形ハイケンの《演算》による作戦は、ボールマンの切り札であるディックの杖による厄災級魔法《竜巻》による高威力の力技であった。しかし、その作戦には海の王者を陸へおびき寄せる必要があった。八人の騎士たちの犠牲によって……




 海王神シーランドとモブ達の戦闘記録(外伝参照)




〖左眼〗


 一番槍は、自警団団長クロは海王神シーランドの挑発に成功した。シーランドは、沖から岸へ向かう。獲物を追いかけて…クロの捨て身の「玩具似る」による《雷撃》の一撃は自身を焼きながらも、海の王者の左眼を傷つけた。クロは満足そうに逝った。死神の鎌が振られた。時の女神が赤いレンガを積み始めた。




〖牙・劇薬〗


 沈着冷静なウェンリーゼの白い死神付与術師シロは怒った。弟であるクロを殺され腸が煮えくり返りそうだった。シーランドは左眼の傷で距離感が掴めずに遠距離での魔術攻撃をシロは軽快に躱した。最後には遅効性の劇薬を自分で飲み、シーランドに食われた。自身の命を対価として《花火・七色》を発現した。その花火は冬の終わりを告げ、神々の心に切なさを残した。シーランド自慢のノコギリ歯がボロボロになった。




〖一角のヒビ〗


 狩人のジョーは距離を取り、魔道具「筒」での遠距離攻撃を繰り返した。寸分違わぬその狙いはシーランドの魔術発現の起点である一角を狙った。付き人であるレフティとニートの助けを借りて、ジョーは近距離からの攻撃を一角に放った。海のグングニルといわれたシーランドの一角にヒビが入った。ジョーは最後までハンサムだった。




〖背鰭〗


 ウェンリーゼのおやっさんベンは、シーランドを迎え撃つ。シーランドはベンのただならぬ気に気圧される。ベンは息子であるクロとシロ、甥のジョーを殺され怒れる化身となる。ベンは、シーランドの尾鰭をむしり取り、一角に大きな傷をつけてウェンリーゼの海に散った。




〖内臓の傷〗


 狼獣人三兄弟末っ子のスイ、漁師である海の狼は水中での勝負を挑んだ。死の淵でスイの人魚の血が目覚めた「獣神変化」で海の人魚となる。最後は、《水爆》による水圧でシーランドの臓腑に大きな爪痕を残して逝った。遥か西の沼では人魚が涙を流した気がした。




〖首筋の鱗〗


 狼獣人三兄弟次男のレツ、「獣化変化」で孔雀へと獣化したレツは得意の炎を駆使してシーランドに挑む。「獣神変化」により火喰い鳥となったレツは、激闘の末、神の盾といわれた鱗を破壊した。




〖一角〗


 狼獣人三兄弟長男のヒョウ、自身の怪物に翻弄されながらもボールマンに導かれて「獣神変化」した魔天狼となる。神獣なるヒョウは理に反した存在でありウェンリーゼの砂となった。シーランドの一角を切り落として……




〖目標地点〗


 ボールマンの弟であるギンは愛剣である絶剣でシーランドを翻弄する。シーランドは自身の左眼を魔力媒介として厄災級魔法《津波》を発現した。ギンの命を懸けた剣は、《津波》を切り裂いた。アーモンドのアシストもあり、ギンはシーランドを目標地点までおびき寄せた。ギンは敬愛する義兄ボールマンに見守られながら逝った。絶剣がカタカタと泣いた。




 目標地点まできたシーランドにランベルトの複合上級魔術コン・クリートが発現する。動きを止めたシーランドに、ボールマンの切り札ディックの杖による厄災級魔法《竜巻》がシーランドを襲った。




 シーランドは《竜巻》により全身を切り裂かれる。シーランドはダメージを喰らいながらも、再び《津波》を発現する。ウェンリーゼに二度と悲劇を、過ちを繰り返してはいけない。ボールマンは《竜巻》で《津波》を相殺した。




 ボールマンは自身の魔力を対価にディックの杖で再び魔法の準備をする。ランベルトと意識を取り戻したアーモンドがシーランド相手に時間を稼ぐ。ボールマンから劣化厄災級魔法《暴風》が放たれた。




 ディックはコマンド、《必中》、《捨て身》を使用してシーランドに照準を合わせた。様々な事象が重なった。海の王者シーランドは砂浜でスリップした。ウェンリーゼの希望は途絶えた。




 フラフラとアーモンドがやってきた。アーモンドはシーランドに勝負を挑む。己の命を引き換えに義父であるボールマンを永らえさせるために。アーモンドの全身の魔力が練られる。アーモンドが命を懸けた特攻を仕掛ける。




 ボールマンは祈った。自身は地獄の業火に焼かれようがどうなろうと構わない。ウェンリーゼを、アーモンドを、助けて欲しい。ボールマンの祈りは通じた。ボールマンが振り返った先には……「オトサン」


 ボールマンのオトサンであり最愛の友である魔道機械人形ユーズレスがいた。




 ユーズレスはアーモンドを気絶させた後に、ボロボロのボールマンを見て激怒した。ユーズレスは暴走状態でシーランドを翻弄するが、大幅に魔力を使用した。頭に血が上ったユーズレスは、補助電脳ガードの静止を振り切り、七六式タイタンでシーランドともどもウェンリーゼを破壊しようとする。




 ボールマンとランベルトの機転によってユーズレスは正気を取り戻す。流体金属を十全に大盤振る舞いしてボールマンの指示のもとシーランドとユーズの戦闘は再開した。ユーズレスが優勢である。海と水の女神による「救う権利」が弾かれる魔界大帝の加護、魔道の機械人形ユーズレスは神々の加護を弾く。シーランドは母に感謝、無限の魔力が戻る。




ボールマンが血を吐く、偽誓薬の代償である。ユーズの稼働時間が残り5分となり、半オートモードとなり動きが鈍る。出力低下パワーダウン。ユーズレス劣勢、ユーズレスがディックの杖を使おうとする。だが、ユフト師の四原則により機械は機械を使えない。




ユーズレスがシーランドにボコられる。アーモンドが「賢き竜の魔石」を媒介にデックの杖を使おうとする。ディックの杖の所有者権限がボールマンのままで使用できない。ボールマンがハイケンに首を斬れと命じる。ハイケンは赤橙でボールマンの首を刎ねる。ユーズレスはシャットダウン状態となる。




ディックの所有者権限がアーモンドに移譲される。魔石を使おうとするが、賢き竜の誘惑がある。ラザアを思い出す。女神の祝福イキルシルシが発動、《生命置換》で魔力を奪う。アーモンドの左腕はボロボロである。




《竜巻》に対してシーランドは《地震》を発現する。人工魔石作成炉二号機が、マナバーン状態となる。アーモンドは残された魔力を全て使い《冷続》にて暴発を止める。アーモンドは竜化をしようとするがハイケンに左腕を斬られて止められる。




ハイケンがシーランドに立ち向かうが〖自爆シークエンス〗が発動せずにスクラップにされ飛ばされる。ハイケンはユーズレスに自分の【ブラックボックス】を託して、首だけとなった。ユーズレスは統合によりハイケンのメモリーを理解する。


4


『ガララララララララララララ! 』


 シーランドが唸る。海王神祭典の最後の瞬間が映し出された。


 キャハハハハハハハハハハハハハ


 バチバチバチ


 『月雷』を浴びた絶剣がアーモンドに振られる。


「十六夜」


 スパン


 最後の映像は、アーモンドが絶剣でシーランドの首を斬った瞬間だった。


 竜の血を浴びた聖なる騎士が誕生した瞬間だった。


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお! 」」」


 会場中の熱は最高潮に達した。

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『機械人形(ゴーレム)は夢をみる~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)』 https://ncode.syosetu.com/n1447id/
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