10 機械の権利
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ガタッ
ラザアが怒りのまま立ち上がった。
会場の視線がラザアに集中する。マゼンタの主張は今回の査問会の内容とはズレていることは皆分かっていたが、彼女の弁は聞くものを魅了した。まさしく天性のものであった。
「それは! 」
ラザアが怒りのままに発言しようとした。
グィ
立ち上がったラザアの袖をハイケンが優しく引っ張った。
「……ハイケン? 」
ハイケンが手を胸に当てて礼を取る。
ハイケンがエメラルド色の瞳を点滅させる。ラザアはその優しい色が、生まれた時からいつも側にいてくれたユーズレスを思い出した。
「ふぅー、マゼンタ様。公爵家であり財務筆頭のマゼンタ様が、辺境のウェンリーゼ領までご心配頂いて畏れ多く、ウェンリーゼの海より深く感謝しております。皆さまご存じかと思われますが、ここには父ボールマンが手掛けた最高傑作の機械人形機体名『ハイケン』をご紹介致します。ハイケンは『記録』に特化した機械人形です。この十五年間、ウェンリーゼ領の管理、いえ、ウェンリーゼだけではなくグルドニア王国で閲覧可能なすべてのデーターを記録しております。先の、海王神祭典でも戦闘行為を記録しております。ここからは、私代わりにハイケンがお話します」
「今のお言葉はよろしいのでしょうか。その機械人形の吐いた言葉はすべてラザア様のお言葉ということになりますが」
「マゼンタ様、さきほど身重の私を気遣ってご心配頂きありがとうございます。ここで熱弁を振るいたいのですが、お腹に宿した子は『賢き竜ライドレー』を倒した建国王アートレイ様の血筋であり、『海王神シーランド』を倒したアーモンド様の唯一の子にして、二つの厄災を屠った。いえ、『鬼熊フューネラル』を倒した先王デニッシュ様、我が祖父キーリライトニングといった厄災級三体を倒した血統、偉大なる御子です。長時間に渡る弁論では私の体がもたないかもしれないので、何せ特別なさらに特別な血筋ですから、マウ裁判長もご了承頂きたく存じます」
「裁判長! そもそもが、ここは法と人権により守られた司法。恐れながら、国際的に人権を認められた機械生命体ボンド王が統治するジャンクランドの住人以外は権利が発生しません」
「裁判長! ハイケンはこの十五年間で父ボールマンを陰ながら支えた筆頭執事です。恐れながら、先ほどマゼンタ様よりお話のあった魔導具作成にも大いに貢献しております。もし、グルドニア王国が昔より豊かになったと、その裏には名もなき機械たちの無言で無償の貢献があったからです。どうか、その機械たちの功績を御認め下さい」
「……機械人形ハイケンが、今日のグルドニア王国に大きく貢献してきたことは理解した。だが、ここはあくまでも司法の場だ。機械人形ハイケンの権利については、私がここで決めることではない」
マウはあくまでも公平な立ち位置であった。
「裁判長、要はハイケンの発言権について話をしているのだろう。ならば、この査問会の間だけ仮にではあるが機械人形ハイケンの権利を認めよう。このピーナッツ・グルドニアがな。何かあるかなマゼンタ・サファイアよ」
ピーナッツが面白そうだとハイケンの発言権を許可した。
「とんでもございません。グルドニア王国混合政体ではありますが、貴族、民はすべて王陛下の意のままに、私ごときが陛下の決定に口出しできる権利はございません」
マゼンタが皮肉るように了承した。
「陛下の許可も出た。機械人形ハイケンの査問会による発言を認める」
マウが高らかに宣言する。
「機械人形ハイケンと申しますことの一部の報告を終了致します。このような喋り方はプログラム故に失礼することの報告を終了致します」
ハイケンが会話をした。
「機械人形ハイケン、ボールマン様の執事とのことでしたね。主人を失くしても稼働しているとは、さぞかし優秀な機械人形なのでしょうフフフ。ああ、失礼致しましたわ。機械と人種は違いますものねぇ」
「マゼンタ様、過分なお心遣い痛み入ります。このような、主人を失った機械人形を憂いてくださるとは本機のブラックボックスが熱を帯びていることの一部の報告を終了致します。ですが、ご安心下さい。新たな主に仕えることにより、本機は『機械は人のために』の意味をより深く再認識したことの一部の報告を終了致します」
2
「裁判長、恐れながら今回の査問会はどの事象について査問されるのでしょうか? 私共としては、海王神祭典によって起きてしまったマナバーンに対する王都への被害についてと認識していたことの一部の報告を終了致します」
「確かこの査問会の発起人は、ルビー公爵家、サファイア公爵家、ダイヤモンド公爵家であったな? 三家は機械人形ハイケンの問いにどうだ」
マウが三人を見た。
「オスマン・ルビーが発言します。此度のマナバーンにより濃度の濃い魔力粒子が風で王都に流されました。それにより、各所で魔導具による不具合、小規模ではありますが迷宮での魔獣大行進を引き起こしました。ナッツ殿下や近衛騎士団の活躍で被害は大きくはありませんでしたが、民の避難誘導等、王都は混乱しました。この責任について言及したいと存じます」
「あああん、私のオスマァァァン! 今日も素敵よぉぉん」
オスマンの凛々しい姿にマゼンタは満足そうである。
「ゴホン! ダイヤモンド卿は何かありますかな」
「オーシス・ダイヤモンドが神殿を代表して物申します。マナバーンの影響か原因は定かではありませんが、王都並びにグルドニア王国各地で亡霊を見たという報告が上がっております。調査の結果、亡霊を見たという報告が上がったのは五十年前の『海王神祭典』元のウェンリーゼ出身者のみでした。この件について、ウェンリーゼ側は何か関係がありますかな」
ダイヤモンド公爵がハイケンに問う。
「ご主張は分かりました。それでは、少しお時間を頂きたく存じます。皆さまに是非とも見て頂きたいものがございます」
ハイケンが青色の瞳を点滅させた。
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