8 前座にしては重すぎる
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「なんだ、この光は」
「ここは天界か……神が舞い降りたのか」
「美しい……」
「東の姫巫女は現世に舞い降りた女神とは本当だったのか」
会場の皆がラザアを見た。そして、『寵愛のドレス』に目を奪われる。
「あのドレスは、俺様の『ジャンクマント』と同じ匂いがするぜ」
機械生命体であるボンドも『寵愛のドレス』に何かを感じた。
ドレスの青は澄んでいた。幾重もの青を重ねて角度によってグラデーションがかかり、まるでドレスが呼吸でもしているかのように見えた。さらには、『神獣フェリーチェ』の素材でできたドレスの神々しさを感じた者たちは思わずラザアに跪拝したくなった。
『寵愛のドレス』は奇跡の産物である。本来ならば、この装備は神々の禁忌に触れるほどの品物だ。大神を含めた美の女神が、ジュエルのおよそ常人にはできないバグった推し活に敬意を表して特別に現世に許されたドレスである。
聖なる騎士アーモンドに東の姫巫女ラザアの二人は、まるで神話の絵画を切り出したようであった。
「皆さま、ご機嫌よう。遅くなり大変申し訳ございません。ウェンリーゼ当主代行ラザア・ウェンリーゼが召喚命令に従い参上いたしました」
ラザアがドレスの裾をつまみ挨拶した。
「ふおおおお、ラザア様ァァァァ、爺の人生に悔いはありませぇん」
大賢者フォローは周りが引くくらい号泣している。
「おおおおおお! お美しい、ミクスメーレン共和国の先祖英霊達よ!我々の長年の……聖女様の推す活がここに実ったのだ」
ミクスメーレン共和国代表のフォートを筆頭に涙ぐんでいる。
「良く来られた。ウェンリーゼ当主代行ラザア殿、召喚命令によりラザア殿が来られたことを確認した」
マウがラザアの入場を確認した。
「裁判長! 査問会の前に今の爆発の調査が先です」
バーゲンがマウにいった。ラザアとアーモンドの登場によって忘れていたが、王宮の爆発の調査が先であった。
「バーゲン宰相のいう通りだ。だが、先に確認したいことがある。ラザア殿の後ろにいる二人の淑女は護衛か、従者かな。一人は何故か泣いているようだが、ベールで顔を隠しているため一応身元を確認したい」
マウがラザアの後ろに控えていたマロンとジュエルに気付いた。
「うぇぇぇん、尊いようぅぅ。ぐすぐす……生きてて良かったようぅ」
「クルルルゥ」
ジュエルは皆の視線など全くお構いなく泣いていた。
「これは失礼しました。マロン、ジュエル」
「「「ジュエル?! 」」」
その固有名詞は、一瞬にして場を緊張状態にした。ジュエルという名前はグルドニアでは聖女を表すようなものであり貴族ですら畏れ多くて『ジュエル』という名をつけない。
「会場の皆様失礼いたしました。筆頭メイドのマロンと申します。そして、ラザア様の主治医であるジュエルです。ラザア様が高貴なる御方、アートレイ・グルドニア様に連なる御子のご懐妊のため医師が同席することを、どうぞお許し下さい」
マロンがベールかたマウにいった。
「そうか、して、そのジュエルの素顔は……」
「差し出がましいようでありますが、その……ジュエルはある種の呪い(推し活)に持ちでして、このベールによって魔力を抑えているのです。ベールは取らない方がよろしいかと」
「そうか、事情は察した。して、その、ジュエルの肩に乗ってる青い鳥は……フェ」
「ただの青い鳥でございます。従魔のようなものなのでご心配なく」
マロンがマウの言葉を遮った。
「そうか、ちなみに聞くがジュエルとはその……」
「ジュエルでございますぅぅぅ。ありがとうございますぅぅ……生きてて良かったですぅっぅ。皆さまに神々のご、ご祝福うううおおおおお。うわあああああああぁぁぁん」
ジュエルは混乱状態だった。
ただ、グルドニア王国貴族はその声で気付いた。
「うわあああああああぁぁぁん」
皇后ジュエルがウェンリーゼ側であると……
「泣いている淑女の顔を見るのも忍びないな」
マウはジュエルの件をうやむやにした。
「裁判長! 先の爆発音だが雷のようだ」
大賢者フォローがマウにいう。
「雷ですか?」
「ああ、この王宮には確か魔導具による結界が張ってある。上級魔術でもビクともしないはずだ。その結界を超えて建物を破壊するなどワシでもできることじゃない」
「そうですか。大賢者フォロー様でも、できないとなると本当に雷のようですな」
マウは、いや、マウ以外も『青い怪鳥フェリーチェ』によるものだと分かっていたが誰も何も言わなかった。
「なるほどな。天なる雷ならば仕方がない。どうやら神々も此度の海王神祭典による魔力炉の暴走について、興味があるようだ。裁判長! 時間も押している各国の皆様、なにより妊婦を長時間拘束するのも良くないだろう。始めようじゃないか、査問会を」
ピーナッツが面白くなってきたと場をまとめようとする。
「分かりました。それでは、査問会を始めるとしましょう」
マウの空気が変わり厳粛なる声が会場に響き渡る。
「ちぃっ! 」
マゼンタの舌打ちが聞こえた。
「あああ、ジュエル様まで」
オスマンの胃はさらに痛くなった。
「面白くなってきたゲコゲコ」
執事フロッグは大層上機嫌であった。
やっと査問会始まるよ




