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17 グルドニア王国歴史450年 星の墓場

新年度もよろしくお願いいたします。

「ガルルルル」

魔獣達は散っていったデニッシュの騎士達を食い散らかす。

それを見たガージャは怒り狂った。


ガージャは既に単騎で五十近い魔獣を屠った。

狼獣人であるガージャの持ち味は、戦場を四足歩行で高速移動しながらの、鋭い牙や爪による斬撃である。


ガクン

「ああん、クソが! 」

しかし、ガージャは既に体力は尽きかけて四肢は傷により満足に動かせなかった。


そんなガージャに魔獣の波が押し寄せる。

(ここまでか)

(なんだろうな……この清々しさは)

(あの小僧の熱くさせられすぎたか)

(悪くないな)

ガージャが目を閉じた。


「……」

しかし、ガージャに魔獣の波は押し寄せなかった。


ポタリ、ポタリ


「お前、何を」

ガージャの目の前には、頭部の一部が欠け、脳漿が飛び散ったウーゴ男爵がいた。


「ハッハッハ、戦士ガージャよ! お前はカッコいいなぁ! ずるいなぁ! 一人で敵である我々を助けに来て、魔獣に餌になる……! カッコいいなぁ! 本当にカッコいいなぁ! お前の男気に応えるにはこの程度のことしかできんわ! 許せよ、ハッハッハ」

ウーゴ男爵は血だるまになりながら笑った。

客観的にみれば今、ガージャを庇ったところで、遅かれ早かれ二人ともすぐに魔獣の餌となるだろう。


意味があるかないかと言えば、たいした意味はない。

ほんの少しだけガージャの寿命が伸びるだけだろう。


しかし、ウーゴ男爵は騎士なのだ。

これが騎士なのだ。


パチン


それは厳かな音であった。

武神の指が小気味のいい音を鳴らした。


「うん、なんじゃ、右足が熱い? うん? 」

それは本当に奇跡だったのだろう。

それとも、傷ついた脳が起こした誤作動だったのか。


迷宮の毒より十数年、感覚の乏しかった右足の感覚が戻ったのである。


「ガルルルル! ギャン! 」

魔狼が死に損ないのウーゴ男爵を襲うがウーゴ男爵は流れるような重心移動で、牙を躱し、魔狼を一刀両断した。


「ハッハッハ、なんじゃ、なんじゃ、神々も最後に粋なことをなさる! 武神様は我に! この死に損ないに最後に御加護を下さったか」

ウーゴ男爵はずっと思い描いていた、全盛期の感覚を取り戻す。


ポタリ、ポタリ

頭部の血は止まるはずもないが。


ウーゴ男爵の目は絶望的な状況で輝いていた。

一面に見渡す限り魔獣だらけの絶望的な状況でだ。


ザシュ、ザシュ、ザシュ、

ウーゴ男爵まるで水を得た魚のように、魔獣達を斬る、斬る、斬る。


「オオオオオ! これだ! ワシが求めていた武の頂は! これが、我がウーゴ・アワ! 生涯にして最上の剣なりー! 」

今まで、上体の力でしか剣を振るえなかった剣に足の踏ん張りが利くことでウーゴ男爵の剣は飛躍に鋭さを増す。


ポタポタ

痛覚を失った脳は、ウーゴ男爵力を限界のさらに、限界を超える。

ポタポタ

滴る血はまるで、命を代償としている砂時計のように……


時間にして僅か三十秒程度であった。

ウーゴ男爵はまるで鬼神の如く魔獣達を屠っていった。


「なんだ! こいつは、これが人種の強さか……」

味方であるガージャすら恐怖した。



ウーゴ男爵は最後にデニッシュを魔獣達から守るように立ち塞がった。


ウーゴ男爵は故郷の土となった。


ウーゴ・アワ、単騎で魔獣三十体を屠る。



魔獣達は動けなかった。

死に損ないであったウーゴ男爵がまたいつ暴れだすのではないかと警戒していたのである。

ウーゴ男爵が残した鬼気迫る熱が戦場を支配していたのだ。


だが、実際にウーゴ男爵は既に事切れていた。




2


 ピチャン


 デニッシュは耳鳴りのなかで水滴の音が聞こえる。


 動けないほどの頭痛と倦怠感は《強奪》による魔力欠乏症によるものだった。ジュエル御手製の体力回復飴と魔力回復飴でもデニッシュの状態をすぐに回復することは難しかった。


 この時デニッシュは意識していなかったが、《生命置換》で巡剣に魔力を喰わせ、二つの秘薬を服用するのが少しでも遅れていたならば、魔力欠乏症どころではなく自身の肉体が魔力粒子の灰になっていただろう。


 いうなれば命懸けの博打であった。


 そのためであろうか。命懸けの《強奪》はデニッシュの魔術師としての格を二段も三段引き上げた。


 しかし、それはデニッシュにとっては地獄だった。


 デニッシュが意識せずとも敏感となった魔力感知は、鮮明に周りの状況がデニッシュの脳内を支配する。


 ピチャン


 自身が任命したデニッシュの騎士が順に命を散らしていく。


 頭痛に混じった耳鳴りと水滴の音はまだ続く。

まるで焼け野原に裸で放り込まれたようだった。

全身が火だるまになりながら、引き裂かれるおもいだった。


いや、それ以上に重い。

それ以上に熱い。

それ以上に痛い。


痛いのは自分ではない。

自分が痛いおもいをするならばいい。

痛いのは……自分の騎士達だ。

これが……騎士の名誉?

無能な主君に仕えたばかりに命を散らした、騎士達の本望?


ドクン


ドクン


ピチャピチャ


心臓の鼓動に、水滴の音がまとわりつくようにデニッシュの頭を揺らす。


ポタリ、ポタリ


デニッシュの目からは血の涙がゆっくりと溢れでた。

溶岩のようにゆっくり、ゆっくりと重く、紅い。


眠れるなら目を背け眠りたい。

目覚めれば物語は狂い出すだろう。

歯止めの効かない銀狼によって……


民達の未来を、道を照らす、そんな王になりたかった。


現実はどうだ。


王族に生まれた自分は、生まれながらにしてグルドニアという大きな大きな荷物を背負っていた。


だが、それは勘違いだった。


狼は荷物を背負っていなかった。

身軽に自由に生きていた。

腹が空いた狼は好きなときに好きなだけ、冒険によって空腹を紛らわしていた。


十二人の命、たかが十二人の魂で狼は手足が鉛のように重くなった。


背負った気でいた荷物は実は空っぽで、いざ荷物を入れたら重い、重すぎた。


強い風は味方しない。


だが、狼は誓ったのだ。

不様だろうが、泥水や汚物をすすり喰らおうと生きようと……

これからさらに増えるであろう幾百、幾千、幾万の荷物を背負おうと。


頭痛は最高点に達してたが、怒りと空しさはそれを感じさせなかった。


「…静かだな」

デニッシュが瞳を開けた。


ドンッ!

ウーゴ砦全体が重圧に押し潰されそうになる。


「ガルルゥ、ギャン」

「ギィギィ」

「グモウォー」


魔獣達が突如現れた新たな重圧に悲鳴をあげる。


怒りにより、空腹すら忘れた銀狼(デニッシュ)がゆっくりと目覚めた。


魔獣大行進残り百六十体。

ウーゴ砦生存者デニッシュ・グルドニア。

ガージャ戦闘不能。




更新遅くなり申し訳ありません。


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