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14 グルドニア王国歴史450年 デニッシュの騎士 弐

1


 開戦直後から戦況は大きく動いた。


 デニッシュの《強奪》で半数の魔獣が魔力欠乏症により沈黙した。それを合図に、騎士たちの『二極鳥の槍』による火炎の息吹で前衛の魔獣たちはほぼ壊滅した。


 東門に火力を集中したため撤退組はほぼ魔獣と交戦することなく脱出できた。生き残りの魔獣は、ハンチングとウーゴ男爵の兵士たちが殲滅したために馬なども怯えることなかった。


 北門は森が茂っているために魔獣の進行がほぼなかった。


 獣人たちが前線の部隊へ応援という名目で森へ撤退した。すれ違いざまに動けなくなった魔獣を間引いていったので、北側からの魔獣の脅威も薄かった。


 南門の魔獣は主力ではないのだろう。前衛が焼かれてからは遠巻きに様子を伺っていた。


 問題は、ウーゴ迷宮がある正面の西門であった。


 主戦力であるデニッシュは未だ意識半ばであった。




2


 西門 ネス死亡




「ネスゥゥゥゥゥ! 」


 ラドは発狂した。ラドをガイタと仲間たちが押さえつける。もう間に合わないことは分かっていたからだ。


「なんということだ! くそ! 皆、落ち着け! 誰か! このままでは西門から突破されるぞ! 誰か! 門を! 門を閉めろ!」


 ウーゴ男爵がネスの死を尊ぶ暇もなく叫ぶ。




「ネス!ネス!ネス! 」


 ラドは喰われていく肉塊となったネスを見る。


「ダメだ! ラドは使い物にならねえ! 俺が行く!」


 古参のガイタが行こうとする。


「……」


 いつものそり動き鈍い大柄なキャトが、素早く階段を下りて行った。


 門にはすでに、足の速い魔狼が数体侵入していた。


「ぎゃん! ぎゃん! 」


 キャトは大槌の一振りで二体の魔狼を潰した。


 西門は先の戦闘でほとんど壊されていたために、閉めてもすぐに大型魔獣によって破壊されるだろう。一応、バリケードは設置していたが焼石に水だ。


 ネスの死によって浮足立った皆には多少なり時間が必要だ。


 キャトは大槌を捨てた。


「オラァァァァァァァっぁぁぁ!」


 キャトは両手で門を閉めようとする。両の足を踏ん張り体を一枚板のようにして、腕に、全身に力を込める。


 すでに中に侵入した魔狼がキャトの腕と足に嚙みつくがキャトはそんなことお構いなしだ。




 ダァァァァッァン


 外からは魔牛と魔猪が門の破ろうと体当たりをしてくる。


「ぐぅぅぅっぅぅうっぅ」


 動けないキャトをいいことに魔狼は、キャトの血肉を味わう。


 ダァァァァッァ


 キャトの事情などお構いなしに外からの魔獣の体当たりは続く。


 ガタン


 キャトは扉を閉めた。




 数秒後に駆け付けた。抑えの利かなかったラドと、キンモとグードによって魔狼は殲滅したがすでにキャトはこと切れていた。


 騎士キャト死亡。ウーゴ砦残り十一人。


3


 西門 キャト死亡。


 ダァァァァッァン!


 キャトが閉めた門は破られた。


キャトが賭けた命の代償は三分である。


その三分が長いか短いかは神々でも分からない。


大量の魔獣が壊れた門より押し寄せてくる。ラドは感情のままに槍を振るった。平民ではあるが身体能力が高く、正式に軍の入隊が決まっていたラドは槍の心得キンモとグードは互いに犬猿の仲であったが、戦闘では息がぴったりだった。


「ガルルルル」 


 だが、悲しいかな門から溢れる魔獣に三人では対応できない。


「くそ! どうしたら! 」


 ラドが一瞬、地面を見た。殲滅した魔獣が魔石になっていた。


 迷宮産の魔獣は素材型の迷宮ではない限り、魔石か装備、魔導具になることが一般的である。また、確立としては魔石の割合が多い。


 城内門の周りと外には魔獣の魔石で溢れかえっている。


「キンモ、グード、階段まで後退だ。後退したら、三十秒稼いでくれ」


「「オウ」」


 三人は階段付近まで後退した、その間にも魔獣は増えていく。


「フウー、我は練る練るだったかな」


 ラドが魔力を練り始めた。正確には体内の魔力を暴走させている。ラドは平民のなかでは魔力はあったが発現することができなかった。多くのものが魔力操作で挫折してしまうからだ。


「ぐううううう」


 ブチブチ


 慣れない魔力を練る行為によってラドの血管がはち切れ体が悲鳴を上げている。


「ラド! まだか! 」


 キンモとグードは死力を振り絞ったが、互いを庇いながらももう戦闘できる状態ではなかった。キンモとグードは魔獣の餌となろうとしている。


 魔獣の牙はラドにも届いた。


「ぎゃん! 」


 だが、ラドに噛みついた魔獣は口腔内に火傷を負った。ラドは練り上げた魔力が体内でうねりとなり体の体温が上昇していた。


ジュウジュウ


皮膚は高温により溶け始めている。


「わりーな。キンモ、グード、付き合ってもらうぞ。ネス、兄ちゃんは最後までカッコいいだろう」


 ドッガーン


 ラドは魔力暴走により爆散した。




 その爆発は魔獣からドロップした地面に転がっていた魔石にも誘爆した。さらには、戦場では先の『二極鳥の槍』による火炎の息吹によって、通常よりも魔力粒子の濃度が高い状態であった。


 通常、平民一人の魔力が暴走したところで魔力暴発の威力は半径三メートル程度であろう。


 だが、条件が重なったことで西門の階段から崩れ落ちた。城外にいた魔獣も魔石の誘爆により百体と少なくない被害が出た。


 ラドは大いなる戦果をデニッシュに捧げた。


「さすが、兄ちゃんだ」


 神々には何処からかあどけない少年の声が聞こえた気がした。


 騎士ラド、騎士キンモ、騎士グード死亡。ウーゴ砦残り八人。


 魔獣大行進残り三百体。

キャトは、一番の力持ちでのんびりとした性格のせいで、からかわれることが多かったですが、やるときはやる男でした。


ラドは弟想いの優しいお兄さんでした。村の平民では珍しい魔力持ちでした。村の中では期待の星でした。


キンモは手先が器用なお調子者でした。真面目なキンモとはいつも喧嘩ばかりしていました。


グードは直感力に強く、真面目な性格でした。門番として優秀でした。

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