7 グルドニア王国歴史450 血の誓い
短めです。
1
「それは、王家の短剣! 皆! 控えろ! 」
ウーゴ男爵は混乱していた。すでに皆、控えている。
デニッシュが懐から出した王家の短剣は、羊と竜が入り交じった紋章がついたものだった。
これは、王族であれば誰でも持っていて良いものではない。
何故なら、これはある一定の条件を満たすことで、王の名代として効果を発揮する証なのである。
「そうか、皆、この短剣の意味を理解しているようだな。ならば、話は早い……ぐっ! 」
デニッシュが左手で短剣の刃の部分を力強く握る。
ポタポタ
左手から血が流れ落ちた。
流れ落ちた血がジワジワと一滴、一滴と地面に吸われる。
「……殿下、ああ、高貴なる血が」
ウーゴ男爵含め、皆が狼狽えた。
「偉大なる建国王アートレイよ! 私は今、ウーゴ男爵領の大地に王たる血を注ごう。ウーゴ男爵領の大地に眠る祖霊達の加護があらんことを……皆、聞け! 王なる剣を伝い、ウーゴ男爵領の大地に王なる血が注がれた! 」
デニッシュが高らかに宣言した。
「これは……王家の血の誓い」
ウーゴ男爵が驚いたようにいった。
2
血の誓い
かつて、グルドニア王国が今よりも多くの戦争に明け暮れていた頃である。
このズーイ領がまだグルドニア王国でなかった頃、先住民達の集落であったときに、王太子であったゼノール、後の『鮮血王』は同じように短剣で血の誓いを行った。
その時に血の誓いにより、先住民達、ズーイ伯爵領の先祖達はゼノールと共に他国からの侵略を阻止した。
その武勇を称えて、先住民達はグルドニア騎士として貴族の位を得た。
その武勇に名を連ねた一人がウーゴ男爵の先祖である。
なお、ズーイ伯爵領にはグルドニア王都からの貴族の血は混じっていない。
先祖の血と誇りを大事にする。それが西の領地の誇りであり、また王都に対する憧れと劣等感でもあった。
3
ポタポタ
短剣を伝いデニッシュから流れ落ちる血は止まらない。
「私はここに誓おう。この四肢が千切れ、骸となろうとも魂を燃やし、外敵たる魔獣どもから民を、皆を守ろう! このウーゴの大地を魔獣ども血で染め上げる! 」
デニッシュが皆を見る。
ウーゴ男爵をはじめとした兵士達は、瞬き一つせずにデニッシュを見た。
兵士達は胸が熱かった。
デニッシュの言葉が兵士達の火種を炎へと変えた。
「それと! ウーゴの勇士達よ! いちいち、中央の貴族が来るたびに……自身を卑下するな! 確かにこの地には、この滴り落ちる王の血は交わっていない! だが、それがどうした! 見ろ! この血は銀か! 黄金か! 違うだろう! 皆と同じ赤い血だ! お前達は大地を耕し、風と共に木々や草、水のせせらぎを聴き、土の女神様の恵みに感謝できる尊き者達よ! このウーゴ領の恵みによってグルドニアは生かされているのだ! ウーゴの勇士達よもっと胸を張れ! 自身の心を魂を自分を傷つけるな! 」
「「「……」」」
いつからだろう、兵士達の瞳から滴が流れ落ちた。
それは、ウーゴの勇士達の心を、魂を洗い流すような清んだ涙であった。
何処からかやって来た美の女神がその清んだ雫石を拾い上げた。
デニッシュは基本的に王家の水準でいえば学は低い。
正直、デニッシュが言ったことは支離滅裂で矛盾している。
しかし、デニッシュは冒険者としてこの五年間グルドニア王国の方々、他国でも活動し、様々な人々との交流してきた。
身体で肌で人々の営みを感じてきたのだ。
「おお! そうだ! 殿下のおっしゃる通りだ!」
「ここは俺たちの土地だ! 」
「殿下は我々を認めてくさだされた! 皆のもの殿下に恥をかかせるわけにはいかんぞ! 」
「俺たちの土地は、俺たちが守るんだ! 」
兵士達が立ち上がった。
砦の熱が上がった。
デニッシュの言葉は皆の心に通った。
そこには先ほどまでの怯えた者達はいなかった。
「……滾らせてくれるな。人種どものくせに」
何故か敵である獣人達も泣いている。
「……誰かが……これを……やられねばならぬ」
最後にデニッシュが力強くも悲しげにいった。
ポタポタポタポタ
短剣から滴り落ちる血の音がやけに大きく聴こえた。
いつも読んで頂きありがとうございますm(_ _)m
家庭の事情で更新が遅く本当に申し訳ありません。




