16 エピローグ2
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1
ピタッ、ピタッ、
クリッドは汗を流した。
先の風切り音を聴いた瞬間から、死神は鎌が首元に添えられているイメージが未だに抜けない。
(クリッドどうした? いきなり剣を構えて)
『クリッド、大丈夫ですか? 酷い汗と、顔色が悪いですが』
ユーズレスと補助電脳ガードには、ただの映像にしか見えない。先の風切り音など気にも止めなかっただろう。
「いや、その、これは、映像ですか? 」
混乱して、無我夢中で戦闘態勢を取ったクリッドであった。
しかし、ユーズレスと補助電脳ガードの声を聞いて一息つく。
クリッドがモニターを注視する。
そこには、ユフト師に稽古をつけている剣帝の姿があった。
『データーをスキャン、映像に映っている対象は、パンドラの迷宮二十階層に出現した剣帝と姿が酷似します。対象名はインヘリット、双子の騎士と登録されています』
(これは、剣帝殿の生前の姿か……)
補助電脳ガードがインヘリットを識別した。
「インヘリット? それが、師匠の真名なのですか」
クリッドはようやく臨戦態勢を解く。
『データーベースには、インヘリットと名があります。ユフト師の血縁ではないようですね。家紋の騎士でもなく、寄り子でもない。どうやら、食客のようです』
(要は居候か)
ユーズレスが身も蓋もないことをいう。
『おそらくは、剣術の指南として一時的に契約していたか、インヘリット殿が旅の途中で寄ったかは定かではありませんが……当時はまだ平和な時代でした。剣で身を立てるなんてのは一種の時代遅れだったのでしょう……厄災戦争が始まる前までは』
補助電脳ガードは、言葉を濁した。
今は補助電脳となっているが、インテグラはインヘリットのことはよく知っていた。何故なら、いつもユフト師の近くに居たのはインテグラだからだ。
だが、それは誰にも言えない。
特にユーズレスだけには、補助電脳ガードがインテグラだということは絶対に知られてはいけない。
ヒュン、ヒュン、ヒュン
映像の中のインヘリットが流れるような剣舞を披露する。
クリッドはいつの間にか正座をして、インヘリットの姿を凝視していた。
その一挙一動を見逃さないように、瞬きもせずに見ていた。
いや、見惚れていた。
美しい……
その一閃、一閃はインヘリットが本気で振ったものではないだろう。ユフト師たちに見せるために軽く振っただけに過ぎない。
しかし、剣士であれば分かるのだ。
その一閃、一閃にいったいどれだけの研鑽が積まれているのか。
何よりも、その剣舞にまるで神々に舞を奉納するかのような神々しさがあった。
クリッドはその後、補助電脳ガードに頼んで何度も何度もその映像を見返した。
2
それから二週間が過ぎた。
クリッドは相も変わらずアペンドの側で、インヘリットの剣舞を見ていた。
ユーズレスは研究所でメンテナンスのために一週間の休眠期に入った。
クリッドには、電子レンジと湯煎の仕方を教えて自分で好きな冷凍食品を食べるように指導した。
ちなみにだが、悪魔は基本的に飲食の必要はないようだが。
一度味をしめてしまった悪魔は元には戻れないようだ。
「感謝します。頂きます」
いい意味でいえば、飲食とはアペンドへの繋がりであり崇高な行為なのであろう。
以前のように「ウンメェー」とは言わずに、噛み締めるように食していた。
ユーズレスと補助電脳ガードはちょっぴり寂しかった。
3
一週間後
『ビィー、ビィー、クリーンアップが終了しました。十番目の子、ユーズレスのプログラムを再起動します』
補助電脳ガードがアナウンスし、ユーズレスは目覚めた。
『一週間振りの調子はどうですか』
(体感的には、シャットダウンしてから直ぐに再起動した感覚だからなぁ)
『今回は、定期点検と電脳のバクについての調査だったので、過度のアップデートはありませんでしたから』
(統合したオール兄さんの件か? )
『検査の結果、明確なバグはありませんでした』
(……そうか)
『……気になりますか』
(確かに声が聴こえた気がしたんだ)
今回の定期点検は、クリッドとの戦闘で鉄骨竜であるオールのデーターを調べるものだった。
鉄骨竜自体は、魔界の炎でほとんど原型がなかったので調べようがなかった。
ユーズレスの電脳も調べたが、十年前に統合されたオールの意識のようなプログラムは見付からなかった。
『結局、なぜ鉄骨竜の残骸が《転移》してきたのかは分からずじまいでした』
補助電脳ガードがアナウンスした。
もう一つ、シャットダウンしたアペンドがほんの僅かだがクリッドに反応した事象については、《鑑定》の結果、アペンドのペンダントによる《干渉》が発現したと仮定した。
だが、《演算》の結果、時のペンダントはその時既に効力を失っていたらしい。
何故、アペンドが最後に動くことが出来たのか……
この二つの事象については、人類の叡知を誇る秘密の部屋由来のビックデーターでも分からなかった。
キカイノココロ
ユーズレスはいつか自分も、そんな日が、何物にも代えがたい大切な何かを探し出すことが出来るかと思考した。
それと同時に、オールとアペンドはまるで物語の英雄みたいだなと、少し羨ましかった。
ユーズレスと補助電脳ガードがアペンドを見た。
ケーブルに繋がれた動かないアペンドは、とても満足そうに見えた。
それと同時に、二人はクリッドがいないことに気付いた。
毎週不定期の更新で申し訳ありません。
次でラスト予定です。