13 アペンドが見る夢は
1
アペンドの電脳内
それは、秘密の部屋の応接室だった。
「やあ、アペンド待っていたよ」
「遅かったわねアペンド」
アペンドの目の前にはかつての主であったユフト師と、アリスがいた。
『えっ! ユー坊? それに、フェアバンデ様? アリス様……』
「いやねぇ! アペンド、私のことはアリスでいいっていったじゃないのよ」
アペンドにいう。
アリスはハタチであるが、その容姿と仕草からは幼さが見られる。
『畏れ多きことであります。アリス様』
「アペンド、遠慮せずにコイツがいいっていってるんだから...…いてっ」
「ユフトは、本当に一言多いわね。私と木人様以外の生命体には、コミュ力低い癖に……」
ユフト師の後頭部を衝撃が襲う。
意識の外からの攻撃であったが、幸いにも攻撃力が低かったためにダメージはほとんどないようだ。
『ああ、あの……アリス様、それいうとユー坊が』
「どうせ、私は、オッサンになっても、機械としか話せないさ。ブツブツブツブツブツブツ」
ユフト師はいつの間にか体育座りになって、地面にブツブツ言っていた。
どうやら、アリスの言霊は物理防御をすり抜けてユフト師の精神にダメージを与えたようだ。
『あっ! 気がつきませんでした。ただいま、お茶を持って参ります』
アペンドは戦略的撤退をした。
2
「うーん! 流石、私のアペンドだ。アペンドが淹れてくれたコーヒーは、香り、味ともに申し分ない」
ユフト師はアペンドのコーヒーで精神を回復した。
「こっちのミルクティーも最高よ。香りが全然違うわ」
チャポン、チャポン、チャポン
アリスはミルクティーの香りを楽しみながら、角砂糖を次々に投入していく。
「アリス、全く君の味覚がどうなっているか……見ているこっちが胸焼けしそうだよ」
「うるさいわね! 私は黒くて苦い液体を平気で飲んでる。あんたが信じられないけどね。だいたい、淑女の飲み方にケチつけるなんて紳士とは程遠いわね。このキカイオタクは」
「最高の褒め言葉だね」
「はぁー、それだから、モテないのよ! ユフトは」
「それを、いったら君だって、似たり寄ったりじゃないか」
『……』
見慣れた光景のためアペンドは何もいわない。
(これは、夢だろうか)
(最後に電脳が起こしたバグ)
(でも……居心地がいいなぁ)
アペンドが思考した。
アペンドは、非科学的な妄想ではあるがもしかしたら、最後に神様がアペンドにご褒美をくれたのではないかと……
「「アペンド! どう思う」」
『……どんぐりの背比べですね』
アペンドがエメラルド色の瞳を点滅させながらいった。
3
アペンドは二人と話をした。
話の内容は、他愛もないものであったが穏やかな一時であった。
メエェェェェ
メエェェェェ
何処から動物の鳴き声がする。
とても悲しそうな声だ。
アペンドが後ろを振り返る。
だが、そこには誰もいない。
「どうしたんだいアペンド」
ユフト師がアペンドに聞く。
『いえ、あの、なんだか鳴き声が聴こえた気がして……』
「私には何も聴こえないけど」
どうやらアリスとユフト師には聴こえないようだ。
「ちなみに、アペンド、その飲み物は誰の分かな? 」
『えっ! 』
アペンドが自分の手元を見る。
シュワ、シュワ、シュワ
そこにはミルク氷菓たっぷりのメロンクリームソーダがあった。
「メロンクリームソーダじゃないの、懐かしいわね! 子どもの時に楽しみにしてたわ」
「今でも、子どもみたいな、ブッ」
再びユフト師の後頭部に衝撃が走る。
「まぁ、いいわ! アペンド、このメロンクリームソーダ私が貰っていいかしら」
『えっ! あっ! ……はい』
アペンドは何故か歯切れが悪い。
メエェェェェ
メエェェェェ
鳴き声はなりやまない。
「ありがとう。アペンド、アイス爆盛りじゃないのよ! 美味しそう」
アリスがメロンクリームソーダに手を伸ばす。
メエェェェェ
メエェェェェ
何処からか聴こえてくる鳴き声は、先よりも鮮明にアペンドの聴覚センサーを刺激する。
『アリス様! やっぱり、その』
「どうしたんだいアペンド、先から落ち着かないけど」
「アイス溶けちゃうから、もう食べちゃうわよ」
アリスがスプーンでメロンクリームソーダを掬おうとする。
『それは! クリッドのメロンクリームソーダだからダメですー! ! 』
アペンドがアリスからメロンクリームソーダを取り上げた。
『申し訳ありません。アリス様、このメロンクリームソーダは、私の、私の……』
「アペンドの大切な人なのね」
アリスが分かってるわよと言った。
「アペンド、私の最後を看取ってくれたのは、君とデクスだった」
ユフト師がアペンドにいった。
『ユー坊』
「アペンド、君はあの時、私と永眠したいといってくれた。だから、私はグランドマスターとして君の受け入れを拒否した。だが、ずっと引っ掛かっていた。君に残りの時間を有意義に過ごして欲しかったが、それは間違いだったんじゃないかと……だが、君は新たなマスターを見つけた。そして、少ない時間だが、幸せなひとときを過ごせたようだ」
ユフト師がアペンドに寄り添いながらいう。
ユフト師がアペンドの胸に手を当てた。
「アペンド、君はもう自由だ」
ユフト師はアペンドを解き放つ。
『ユー坊……温かい、本機のブラックボックスボックスがじんわりと温かいです』
その時、アペンドの首飾りが光を帯びた。
今日も読んで頂きありがとうございます。
アペンドの首飾りは、アリスから過去に貰ったものです。作画に記載されています。