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6 好きこそ物の上手なれ

ギィ、ギィ、ギィ、ギィ


アペンドが地下五階の研究所で、機械オイルを飲みながら自分のメンテナンスをしている。


(アペンド、手伝おうか)

『……ユーズ、あり……とう』

ユーズレスがアペンドの整備を手伝う。


アペンドは七十年前の機械人形で、ボディはさらに旧式のブリキと大差がないものである。見えない部分や関節機構の隙間等で、サビが酷い。


旧式のパーツなので、もう替えがないのである。


『アペンド、見る限りメンテナンスが必要に見受けられます。一旦、シャットダウンしてはいかがですか』

補助電脳ガードがアペンドを気遣う。


『……やめ……とく、ア……プデート、イヤ……ダ』

アペンドが拒否した。

大幅な整備をするには一端シャットダウン状態にしなければならない。


アペンドは電脳も旧式なために、何かの新しいプログラムを行う際はアップデートではなく、外部メモリーを用いていた。


一旦、電脳をシャットダウンしてしまうと、強制的なアップデートが発生してしまう。その場合は、アペンドのような旧式だと強制的にメモリーが初期化してしまう可能性が高いのである。


ユフト師も存命の時は、騙し騙しメンテナンスをしていたがボディを入れ替えるブラックボックスの移植は、アペンド自身が拒否していた。


『まだ、まだ、クリ……ドの世話……たい、今、ハンコウキ……そのうち……オチツク』


アペンドはクリッドに甘かった。

アペンドは存在意義である『機械は人の幸せのために』に忠実なだけだった。


そこで今、アペンドが選択したことは傍にいて見守ることだ。


正直な話、ユーズレスと補助電脳ガードは舎弟であるクリッドに、一発かましてやろうかと思っていた。


しかし、アペンドから言わせると『……余計、ハンコウする、……ジブン……に、自信ナクナル……』


また、ユーズレス自身もユフト師から、好きに稼働しろといった手紙を読んで、クリッドを叱ったところで何をして良いか分からなかった。


ユーズレスは、ユーズレスで怖かった。

機嫌を損ねたクリッドが魔界に帰ってしまうのが、何せ、宇宙にいった人類が地上に住めるようになるまではまだ、五千年もの時間がかかるのだから……



2

七年目


「メエェェェェ! 勉強するメエェェェェ! ママー! 図書館にカプチーノ、絵はネコちゃんね! 糖分も欲しいから! キャラメルポップコーンもよろしくー! 」


クリッドが久しぶりに部屋から出た。


『クリッド! 』

(クリッド! )

『……クリ……ド』

機械人形達は感激した。

古来でいう引きこもりで、ゲームばかりしていたクリッドがいきなり部屋から出てきたのだ。


しかも、図書館に行くというのだ。


「生物を勉強しなきゃいけないメエェェェェ! 」

『(生物? )』

ユーズレスと補助電脳ガードは何故いきなり生物学を勉強したいか分からなかった。


『……これ、ズカン』

アペンドが生物図鑑を持ってくる。


「さすが、ママだメェ! これと、解剖学に生理学の資料と、運動学……あと、空想の生き物達の伝承や古今東西の神話、逸話等も必要メェェェ」

クリッドは、紙とペンを出して何やら書き込んでいった。


ユーズレス達は、図書館から資料を検索した。電子での資料は、ユーズレスがダウンロードしてから、紙媒体に印刷した。


「やってやるメエェェェェ! やるならやるなら本格的にやるメエェェェェ! ママー! ウインナーコーヒーのクリームトリプルに、あんみつと、モンブランに、フライドポテト、熱々のやつよろしくメエェェェェ! 」

『……り』

アペンドは、嬉しそうに身体に悪そうなオヤツを調理し始めた。


クリッドは半年間、図書館に引きこもった。

本の虫だった。


よっぽど集中していたのか、飽きたのかは分からないが、メロンクリームソーダは頼まなかった。


ちゃんと風呂にも入った。

アペンドに引きずられながらであった。

クリッドはユーズレスにコンピューターの扱いを教えて欲しいといった。


補助電脳ガードが先生になって教えた。

始めは人差し指で、キーボードをポチポチしていたクリッドであったが、三ヶ月もすると、手元を見ないで神速でのキーボード捌きをマスターした。


それから半年が経った。

「ああ、だいたい理解しました」

【好きこそ物の上手なれ】

好きなことに取り組むことで、より上達が早くなるといった古代語がある。


今や、クリッドの知識はヴァリラート時代の生物学の権威である教授クラスに匹敵する知識を得た。


『お疲れ様です』

(凄いぞクリッド! 生物学と聞いた時はびっくりしたが、次は政治学でもどうだ)


「ああ、ユーズ兄上大丈夫です。ゲームに必要な知識は得ましたので」


『(『エッ! 』)』

アペンドを含めた、三体の機械人形達の時が止まった。


「はい、『迷宮クエスト』で迷宮を作ろうのクエストがあるのですが、何度やっても他国の冒険者パーティーに攻略されて、報酬を持っていかれて困っていたのです。現存の魔獣や迷宮主ではダメなので、一からオーダーメイドで造ろうと思いまして、徹底的に勉強したのです。ポイントはいっぱい使いますが、私の考えた最強魔獣が出来上がりそうです! 皆様の手助けがあってのこと! 深謝致します! ではでは、また部屋に行かなくて行けないので、ママー! カップ麺トンコツ味に、爆裂黒炭酸よろしくメエェェェェー! 」

クリッドはプログラミングしたデーターを取り出して、部屋に去っていった。


『……』

(……)

ユーズレスと補助電脳ガードは言葉が出なかった。


『……カップ……麺、お湯……沸かす』

アペンドだけは、通常運転だった。


クリッドは理想郷を造っているようだった。

だが、得てして終りは突然やってきた。


ギィ、ギィ、ギィ

機械のサビた音をユーズレスと補助電脳ガードは聞き逃さなかった。






今日も読んで頂きありがとうございます。

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『機械人形(ゴーレム)は夢をみる~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)』 https://ncode.syosetu.com/n1447id/
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