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エピローグ 5


エミリア・グルドニア

五百年前に賢き竜ライドレーを討伐した『聖なる騎士』のパーティーメンバーであり、アートレイの妻である。

自身は《延命》の光を副次的に浴びて意図せずに、若さと長命を手に入れた。

出身は東の海ウェンリーゼであり、かつてはユーズレスのマスターであった。

五百年間、グルドニア王国の影として歴代の王妃の教育係を務める。


フォロー・ギモゼウス

かつて栄えたエリティエール魔法大国の宰相である。五百年前に《転移》により、時代を超えてやってきた大賢者。術により、長き時を生きて、エリティエール王家の血族を見守っている。

現在は、リトナー魔法国の宰相、魔法学院の学院長を兼務している。


木人

木人族最後の生き残りで、幾万の時を生きる謎多き魔女。

古代文明の不老不死の研究による成功例、本人は自分を失敗作といっている。


三者三様の、時の理から外れたもの達がこの場に集まった。


「……」


フォローは驚きのあまり開いた口が塞がらない。

『影猫のベール』は、強い認識阻害の効果がある。クホート迷宮の初回攻略時のみドロップする唯一無二の迷宮品である。

大賢者の称号を持つフォローですら、気付くことが出来なかった。


「……」

エミリアも、出てきたのはいいが言葉に詰まる。


「ああ、そういえば最初に言っておくよ。私は、もうすぐ死んじまうから。そこんとこよろしくねぇー」

木人が物凄く軽いノリで言った。


「「えっ! 」」

不意をつかれた二人の声が同調した。


ニヤリ


木人はたいそう不敵に笑った。


「キャウーン」

ホクトが寂しそうに泣いた。


2

「ああ、あんまりにも場が白けちまったから話題提供したんだけど、とりあえず、まあ、仲直りとは難しいかもしれないけどねぇ。私の心残りみたいなもんだから、ちょっとお互い歩みよってもらえないかねぇ。アーモンド殿の子に至っては、グルドニアとエリティエール王家の御子だからねぇ。ある意味二人とも親戚みたいなものだろうしねぇ」

木人が二人を交互に見ながらいう。


「いや、木人様、それよりも、」

「フォロー、久しぶりにエミリアに会えたんだ。まずは、誤解を解くところからだねぇ。エミリアも話は聞いてたんだから、まぁ、フォローも被害者っていえばそうだしねぇ」

フォローが木人に声をかけるが、木人は強引に話を戻す。


「フォロー先生……」

「……エミリア」

二人が目を合わせる。


フォローは勇気を振り絞りエミリアを見た。久方ぶりに見たエミリアは、似ていた。ラザアに似ているのだ。


ブロンドの髪に透き通った深海の淀みのない青を掬いとったような瞳は、フォローの心を癒すような、全てを許すような慈愛に満ちた視線であった。


「……すまなかった」

フォローは頭を下げた。

頭の中は空っぽだった。本当にその謝罪は、フォローの心からの言葉だった。

そこに賢者の姿はなかった。ただ、ただ許しを乞う老人であった。


「……先生、私は、いえ、私達は、当時は先生の話を聞きませんでした。レイが、あのレイが大猿になってしまって……私は絶望したのです。アートレイは、有無をいわずに、私はあの時アートレイを止めることが出来なかった。いや、止めなかった。それが、エリティエールは滅び、アートレイは獣となり帰って来なかった。残ったのは、大猿のレイに、二人の息子による後継者争いは、他の貴族を巻き込みました。自分のこと、国のことで頭がいっぱいでした。いつか、アートレイをレイを元に戻すことを夢見て……」

エミリアはフォローにいった。

しかし、その言葉からは非難の声ではなかった。


「……辛い思いをさせた」

「……アートレイがやったこと、申し訳ありませんでした。私が謝罪したところで元に戻るわけではありませんが」


エミリアがフォローに跪き首を差し出すかのように頭を下げた。


「私の首でエリティエール皆様の価値と同等等と、おこがましいことは申しません。先生にならば、首を跳ねられようが、死神すら嫌う地獄の業火に永劫焼かれる覚悟があります。どうか、憎しみの連鎖は私達の代で終わりにして頂きたく存じます」

「エミリア……ワシは」


ガン!

木人がエミリアの頭を杯で小突いた。


「いったぁ~い! 」

エミリアが痛みを訴えた。


「全く、酒が不味くなるねぇ! エミリア、フォローは別にあんたに対しては何もないよ! フォローもフォローで何を縮こまってるんだい。お互いにお見合いでもあるまいし、まどろっこしいたらありゃしない」


「木人様、もしかして結構酔ってます? 」

フォローが木人を見る。

テーブルにあった蒸留酒はすでに、数本が空になっていた。


「ひどいですー、木人様いきなり」

エミリアが多少幼さを覗かせた。


「うるさいねぇ! 《回復》ほら、これで文句ないだろう。二人とも、いいから、この酒を飲みな! ほら! エミリア! あんたの故郷のウェンリーゼの酒だよ」


木人が杯に蒸留酒を注いだ。


「ほれ、乾杯だよ! 乾杯! 仲直りの乾杯だよ! フォロー! あんた! 宰相なんだから気の効いた一言でもいいなよ! 」


「えー! あの、許すも何も私まだ何も言ってないんですが『ガン! 』痛っ! 」

木人の攻撃がフォローを襲った。


「全く! 女々しくて仕方ないね! ジジイはダメだ! エミリア! あんたが音頭取りな! 」


「えっ! 私もその『ガン! 』やらせて頂きます。痛いよぅ」


三人は乾杯した。

三者三様の長命たる宴は、酔っぱらいの古来からなる【パワハラ】なる極悪魔法で旧交を深めた。


「キャン、キャン」

エミリアに撫でられながらホクトが嬉しそうに鳴いた。



更新が遅くてすみません。

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