21 神誓薬
ブックマークありがとうございます。
少し話が戻ります。
1
『神誓薬』
神の一部を材料とした地上では生成することのできない神の薬。
あらゆる病気、欠損、呪いを治す。身体より魂が抜け切る前であれば蘇生も可能。人の手では再現不可能な薬であり、大迷宮深層攻略の報酬としてドロップすることがある。
伝説の薬といわれており、現在確認されている数は、指で数える程度である。
2
パンドラの迷宮攻略後のウェンリーゼ
「これは、相当の交渉材料になるでしょう」
リーセルスが神誓薬を見ながら言う。
「だが、本物なのか……偽物の可能性もあるぞ。実際、ボールが海王神祭典で服用したのは偽物だったからな」
アルパインが胡散臭いという。
『一部訂正致しますが、主であったボールマン様は偽誓薬と認識して服用されました。効果としては、一時的な若返りと共にあらゆる病気の影響を受けませんでした。主の名誉のために一部の報告をしたことを終了致します』
記憶を引き継いだ新型ハイケンがアルパインの言葉を一部訂正する。
「ああん、そんなんで、いったわけじゃねぇ。だいたいその、パンドラの迷宮にいたチルドなんちゃらは信用できるのか」
『正式名称はユーズレスシリーズ七番目の子、チルドデクスです。ユーズお兄さんと本機の兄弟機になります。機械は、ニンゲンに嘘をつくことはできるようにプログラムされていないことの一部の報告を終了致します』
「けっ、なんだかな」
「伯父様、木人様の《鑑定》で本物だとおっしゃっております。私も未だに信じられませんが」
「そうだな。だが、そのチルドデスクって奴は気に食わねぇ! 俺はパンドラの迷宮は踏破していないからいう資格はないが、ボールに、シロ、ジョー、おやっさんは踏破しているはずだ! だったら、なんでその時にこの薬を渡さなかったんだ。これがあれば、海蛇相手にあいつらは……死ななくてもすんだんじゃ……」
『失礼ながら、デスクではなくデクスであることの一部の報告をしたことを終了致します』
「うるせぇ! んっなの、どっちでもいいわ! 」
アルパインの涙腺が漏れる。彼はまだ仲間たちの死に整理がついていないのだろう。
「まったく、なんだい。女々しい男だねぇ。いいかい、察するに坊たちがパンドラの迷宮を攻略したのは薬が目的じゃなかったんだろうさ」
木人は部外者であるが割って入った。
「じゃあ、なんだってんだ」
「人工魔石製作炉の……知識かしら」
ラザアがいう。
「察しが良いね。さすが、領主様だよ。そこのむさ苦しいクマよりずっと話がわかるね」
「ク……クマだと」
「確かに、今では一般的な人工魔石であるけど、生成できるのはウェンリーゼのみ。それだけではなくて、この十五年で産業が一気に飛躍した……正直なところ十五年で百年近くの発展を遂げた。不自然なまでに……」
「詳細については、私は分からないけどね。ああ、そうそう領主様や。あんたは、ディックの杖のマスターだ。パンドラの迷宮だったら領主部屋に隠してあるエレベーターで最下層までいけるよ。時間ができたら、デスクに会うといいよ」
「なんで、ラザアだけ特別なんだよ」
「それは、私には分からないよ。ただ、一つ言えるのは資格があるとしか言えないね。パンドラの迷宮のマスター権限とでも言っておこうかね」
「どういうことですか? 御父様がマスター権限を持っていたとか」
「それも含めて、話を聞くといいよ。シャッドダウンしているけど、ユーズも領主様に会いたいだろうしね。まずは、査問会に出産が先だけどねぇ」
「話を戻しましょう。まず、薬は本物だった。後は使い道ですね。アーモンド様とラギサキさんの分で二本の神誓薬です」
「リーセルス、ラギサキ殿の分はカウントしてはいけませんわ。あくまで、ラギサキの所属は獣国なのよ」
「奥方様、そのようなことラギサキは全く気にしません。どうぞ、お納めください」
「ラギサキ殿、これは貴方が手に入れたものです。他人の成果を搾取するような真似は、領主として出来かねます。そんな情けないことは出来ません」
「ですが、奥様」
「流石は、ラザア様でございます。尊い、ジュエルは、ジュエルはラザア様の高貴なるお心を全身で浴びて……もう、もう、あっ」
ジュエルはオーバーヒートした。
ジュエルは鼻血を出した。
「皆さま方、その、いつもの持病なので治らない病気なのでどうぞ、お気になさらず、ほほ……ほほほほ」
マロンがジュエルを回収した。
「はぁー、お嬢ちゃんの病気は神誓薬でも治らなそうだね」
「キャン、キャン」
「ホウ、ホウ」
「クルルゥゥゥ」
動物たちも木人に同意した。
「さて、どうしましょうね。この薬を交渉材料にするには誰をターゲットにするか、王室、六大貴族、他国も視野に入れねばなりませんね」
リーセルスがどうすれば最大限の利益を得ることが出来るかと問う。
「お待ちを! ラザア様の出産に向けて保険として取っておく必要がありますわ」
ジュエルが復活した。
「大いに賛成ですわ」
珍しくマロンも同意した。
「しかし、ここには国内でも有数の《回復》の使い手で神殿特級医術士のジュエルがいるし、マロンも産婆として多くの子を取り上げているわ。心配し過ぎではないかしら」
ラザアがあなた達を信用しているから大丈夫よという。
「今回のマナバーンでの王都のスタンピートもどきにケチ付けてるのは、軍部のルビー公爵家だろう。そこと交渉するのが、一番話が早いんじゃないか」
アルパインが一番簡単でいいのではという。
「恐らくですが、今回の本命はルビー公爵家ではなさそうです。現ルビー公爵であるオスマン様は、非常に手堅い御方です。ある意味では、弱気ともいえますが正直このような査問会など仕掛けてくる御方ではありません」
「じゃあ、誰が黒幕なんだ」
「王都奪還の際に、表立っては病死となりましたが、粛清された家が六大貴族ではルビー公爵家とサファイア公爵家です。サファイア家の当主マゼンタ・サファイア、赤狐といわれている曲者ですよ。まあ、化かし合いは苦手ではありませんがね」
「ボールがいってたな。王都には魔物がいるとな。人種の皮を被った魔物がな……お前さんもその一人のようだな」
「ご冗談を……」
「……その、盛り上がっているところ申し訳ないんだが」
「如何いたしましたかアーモンド様」
魔物リーセルスがアーモンドに聞く。
「非常に言いづらいんだが、その、薬の使い道は決まってるんだ」
「確かにこの薬はアーモンドが貰ったんだからね。やっぱり私たちの子供にかしら」
「王都の貴族ですか」
ラザアとリーセルスがアーモンドに問う。
「……母上につかいたいんだ」
「「「!!! 」」」
会議場を沈黙が包んだ。
「流石は、ご主人様です」
ラギサキが尻尾をブンブンと振った。
「「「ニャース」」」
ブーツの中の猫たちも鳴いた。
「……」
「……」
リーセルスとラザアはなんで気が付かなかったのかと、顔から火が出るほど恥ずかしかった。