第90話
今回発生したビースト事件は連続盗難事件である。
財布やバッグ、腕時計など、金目のものが次々に盗まれてしまうということらしい。
そして盗まれた人たちの共通点として、体が痺れて動けなくなったとのことだ。
おそらく相手の体を動けなくする能力を持ったビーストの力を使い、盗みを働いているのだろう。
「確かにビーストっぽい事件だよな。でもよ、犯人の顔はわかっていねーのかよ」
「それが被害にあった連中は怪しいマスクをしていて何者かはわからなかったらしい」
「怪しいマスクをつけて盗みを働くとはな……まるで怪盗だな、オイ」
まぁ怪盗っていったら城とか美術館とかに忍び込んで金品財宝を盗むイメージが強いから、今回の悪党は怪盗というよりもシンプルに泥棒という表現が妥当だろう。
「んで? どうやってそいつを捕まえるんだ?」
陽介から出た質問の答えはもう出ている。
「オトリ作戦だ」
「オドリ? なるほど! 謎のダンスで相手を油断させるんだな!」
「ちげーよ!」
アホの陽介の尻にキックを入れた後、俺は作戦の説明を始めた。
「まず俺たちの誰かが高価そうなものを身につけてそこらへんを歩くんだ。そしたら向こうからやってくるだろ? その時残り二人のメンバーで懲らしめるって寸法よ」
「なるほど、罠を張るんだな!」
「けどよ」と聖来が何か言い始めた。
「高価そうなものなんて、お前ら持っているのかよ?」
「…………」
これには俺も声が出なくなってしまう。
一介の高校生である俺たちがやれ大金やら高級バッグやらを持っているはずがない。
そんなものを身につけているのは金持ち高校生ぐらいだ。
「そうか、そこが盲点だったな……俺の宝物なんてグラビア雑誌ぐらいしかないし……」
「俺は自宅にあるダンベルが唯一の宝だな」
「くだらねー……」
げんなりとする聖来に俺は「お前は何か持っているのかよ」と聞いてみる。
「んなもん私だって持ってねーよ。そうなると誰かから借りるしかねぇんじゃねぇのか?」
「そんな簡単に高価なものを貸してくれる心の広い人間なんているか?」
それに俺たちはビースト使いを捕まえようとしている。
それはつまりビーストの存在を知っている人間でないと、あまり進んで協力してくれなさそうな気がする。
「んじゃさ、アイツに頼んでみるってのはどうだ?」
「アイツって?」
「ほら、ジコチュー兄貴の妹だよ」
「いや誰だよそいつ……ああ」
彼女ならもしかしたら協力してくれるかもしれない。
◆
「わかりました。それでは少し待っていてください」
俺たちは以前来たことのある家の前に立っていた。
そこは象のビースト・ガネーシャの使い手である男の家だった。
俺と陽介でそいつと戦うことになったのだが、相手の強力な能力の前になす術がなかった。
そんな時に聖来がビースト使いに覚醒し、逆転勝利を得たのだ。
そしてこの家にはもう一人ビースト使いがいた。
彼女の名は、中林明咲。
ガネーシャの使い手であったクソ兄貴の妹で、そいつとは違い、彼女は真面目な性格な少女である。
彼女は馬のビースト・ユニコーンの使い手で、どんな傷も瞬く間に治してしまう能力を持っているのだ。
俺も何度か彼女のユニコーンの力で怪我を治してもらったことがあるので、ビースト同士のバトルが日常となっている俺たちの頼れる回復係になっているのだ。
そんな彼女はなんと高価なものを持っているのでは? と思って彼女の家にやってきた
のだ。
そしたら本当に何か持っているらしく、目的を説明したら喜んで了承してくれたのだ。
ちなみにクソ兄貴は未だに行方不明であり、中林は兄に怯えることのない生活を幸せに
送っている。
「でもなんか悪いよな? ビーストを回収するためとは言え、ブランド物を借りるなんて
さ?」
陽介の言うことはごもっともで、もし汚したり壊したりして価値が下がってしまったら、
中林に申し訳がない。
「お待たせしました」
しばらくすると、中林が戻ってきた。
「これを使ってください」
彼女の手に持っていたのは腕時計だった。
見るからに高価っぽい見た目の腕時計であり、使い古された様子はなく、新品同然だった。
「おいおい本当にいいのかよ?」
聖来も俺たちと同じような心配をしていて、再度中林に確認を取っている。
「いいんです。それ、私のじゃないので」
「お前のじゃない? それじゃあ親父さんかお袋さんのものなのか? だったらなおさら
勝手に持っていっちゃヤバイんじゃ……」
「いえ、それは兄のなんです。父が兄のご機嫌を取るために誕生日に買ったものなんですけ
ど、箱から開けただけで腕につけることなく飾ってあったやつなんです。今はもう兄はいな
いも同然なので勝手に持って行っても問題ないですよ?」
「「「ならいいなっ!」」」
俺も陽介も聖来も全く同じ気持ちだった。




