第89話
「うりゃああああああ!」
「どりゃああああああ!」
人気のない場所で俺と陽介は叫びあっていた。
俺たちは自分のビーストを召喚し合って、俺のフェンリルと陽介のミノタウロスが激しいぶつかり合いをしていた。
「フェェェェェン!」
「ミノォォォォォ!」
フェンリルが爪による素早い斬撃を繰り出したと思ったら、ミノタウロスの大きい拳が襲い掛かってくる。
一方が攻めたと思ったら、もう一方がさらに攻めてくるというデットヒートなバトルが繰り広げられていた。
「そこだぁ! フェンリル!」
俺は自分があみ出したフェンリルの必殺技、爪交斬を繰り出すように指示を出した。
交差される爪がミノタウロスの胸板を削ろうとしたが、その前にミノタウロスが両手を合わせてガードしてきたのだ。
「ちぃ……そう簡単には通らないか……」
ミノタウロスは攻撃力も高いが防御もなかなかのものだ。
フェンリルの攻撃はそう簡単に通すことはできなさそうだ。
「ならばこっちもいくぜ!」
陽介の合図でミノタウロスは腕をぐるぐると回し始めた。
なにか大技が出るような予感がしてきた。
「まさかお前もなにか必殺技を!?」
「その通り! お前のビーストだけが必殺技を持っていると思うなよ! こんなこともあろうかと、俺も必殺技を考えておいたのさ!」
何度も回転するミノタウロスの腕。そして十分にチャージが溜まったのか、ミノタウロスはフェンリルに向かって一気に接近してきたのだ。
「くらえ必殺! マッスルムキムキダイナマイトズビズバアメイジングデストロイダイナマイトナッコォォォォォォ!」
「ネーミングセンスが小学生以下な件!」
ダイナマイトって二回言っているし、あと最後のところはたぶん「ナックル」というところをあえて「ナッコォォォ」と言うという、陽介ならではの変なところでこだわりがあるとみた。
それに長々しいネーミングのわりに繰り出されてきたのはただのパンチだ。
余裕でその攻撃を回避したフェンリルは素早くカウンター攻撃をして、勝利を収めた。
「そ、そんな! マッスルバキバキバイオレンスバリバリ……以下略! が破られるなんて」
「さっきと名前全然違うぞ。マッスルのところしか合ってないじゃないか」
あと後半端折たしな。
◆
「だぁぁぁぁくっそー! もうちょいだったのによー!」
「いやどこら辺がもうちょいなんだよ」
日陰に当たりながら腰を掛けている俺と陽介。
俺たちがさっきまで戦っていたのはあくまで模擬戦なのだ。
俺たちは来るべき時のためにお互いのビーストを戦わせてビーストを強くしていたのだ。
ビーストはRPGのキャラクターのように、使用すればするほどビースト自身の強さも上昇するシステムらしい。
なので俺たちはあえてフェンリルとミノタウロスを戦わせて、お互いのレベルアップに望んでいたのだ。
しかし……
「全然だめだ……」
今のままではダメなのは明白だった。
今でも十分強いと思うが、それだけでは足りない。
今のステータスではアイツを倒すことは不可能だろう。
遠藤真久。
蜥蜴のビースト・サラマンダーの使い手である男なのだが、そいつが驚くほどの強さを持っているのだ。
俺たちのビーストを一撃で強制退場してしまうほどの強い攻撃力を持っているのだ。
あの強さは我欲のためにビーストの力を振るい続けた結果なのだろう。
しかし相手がどれだけ強かろうと俺たちはあいつに勝たなければならなかった。
今でもあいつはビーストの力で法では裁けない殺人を繰り返しているに違いない。
これ以上の被害を出さないためにも、同じビースト使いである俺たちが解決しないといけないのだ。
俺たちが必ず、遠藤のビーストを回収する。
そのために自身のビーストをレベルアップさせているのだが、これがなかなかうまくいかない。
「早く強くならねぇと……」
強くなりたい。
そう思った時にふとチェックの言葉を思い出した。
なんでもビーストを一瞬でパワーアップさせることができるアイテムがあるそうなのだ。
アドバンスカード。
それさえあればビーストを一気に強くするらしいのだが、それがどこにあるのかは一切不明である。
切羽詰まっているこの状態。もうそのアイテムに頼るしか遠藤に勝つ術はないようだ。
「一体どこにあるんだろうなぁ……」
寝っ転がっていると、知っている顔が目に入ってびっくりした。
「うわっ! なんだよ聖来か……」
「なんだよとはなんだよ。それよりも聞け、またビースト事件だ」
「!」
嫁嫁クラブという高学歴ニートが作った怪しげな施設を叩き壊して数日が経ったっていうのに、また新しい敵が現れたようだ。
「こうなりゃ実戦でフェンリルを強くするしかなさそうだな。よし、行くか!」




