第87話
「おかしい……」
岩井のビーストであるオークを倒したというのに、周りの女たちの洗脳が解けないのだ。
こういうのは大体洗脳している原因である存在をどうにかすることで丸く収まるのが定番……だと思っていたが、現実はそうはいかなかった。
「洗脳を解くには、なにか条件が必要なんじゃないのか?」
高渕の言葉に俺はふと思い出す。
初めてこの施設を訪れた時のことだ。
この施設の前にはデカイ体の女が門番のごとく立ちふさがっていた。
おそらくその女も岩井のオークによって洗脳され、用心棒的な役割を任されていたのだろう。
そこへ現れたのは陽介だ。
陽介は女のムキムキなボディに夢中になり、それに対し女も筋肉について語り始めた。
つまり……
「オークの洗脳を解く鍵は……『興味』なのか?」
強い興味を持つと意識はそちらへとシフトしてしまうのかもしれない。
「あとお前とそこのそいつ、えーと……細川だっけ? お前ら二人がオークの洗脳にかかったときは俺が殴ったら元に戻ったよな」
「ああ。もしかしたら強い衝撃でも洗脳は解けるのかもしれないな」
「あー……でも女を殴るのは気が引けるぜ」
「なら私がやってやろうか?」と聖来がバキバキと両手を鳴らしていた。
「やめろよ。お前が殴ったらこいつら全員脳内出血になるだろ」
「お前は私をなんだと思っているんだ!」
代わりに俺が一発殴られてしまった。
「暴力での解決なんてナンセンスだ。ここは穏便な解決が望ましい」
「平和的だねぇ……だったらどうするんだ……ん?」
俺はとある女に注目していた。
その女は鼻の穴から血を流しながら何かを見ていた。
言っておくがその女というのは副会長ではない。洗脳されていた女の一人だ。
「何を見てんだ?」
俺もそっちに視線を移すと……未だにイチャイチャしている陽介と岩井の姿があった。
「お前なかなか見込みがあるな? 俺と一緒に鍛えないか?」
「や、やらないかだって? そんな、僕にはとても……」
「男は度胸! やってやれないことはないんだぜ? そら! まずはスクワットからだ!」
「はぁ……はぁ……こ、これはキツイ!」
「へっへっへ。これでお前のふくらはぎもパンパンになっていくぜ!」
そんな二人のガチホモ(?)なやり取りを見ていると、だんだん気持ちが悪くなり、また口の奥から何かが飛び出そうになった。
「きゅ~……」
副会長はというと鼻血を吹き出しながら気絶して倒れている。本当に成績優秀な東高の生徒なのかと疑ってしまうほどのポンコツっぷりだ。
「はっ! 私はいったいなにを!」
すると陽介と岩井のやり取りを見ていた女の洗脳が解けてしまった。
「こ、ここは一体?」
「なんでこんなところにいるの?」
「どこなのよここは~!」
そして徐々に洗脳が解けていくではないか。そしてその洗脳が解けた女たちはそろって鼻血を出している。
「もしかして……」と高渕が何かに気づいたようだ。
「彼女たちは彼らのやりとりを見ていて興味がそっちに行った。だから洗脳が解けたのかもしれないな」
「それじゃあなにか? 女はみんなBLが好きだってことなのか?」
「それは知らん」
生成優秀の生徒会長様も知らないことがあるらしい。
「まぁ何はともあれ一件落着ってことでいいんじゃねぇのか、エーイチよ」
俺の足元にいたチェックが腕を組みながらそう言った。
「ところでそのウサギは一体なにものなんだ?」
そう言えば高渕たちはチェックの存在は初めてだったな。
「ああ、こいつは――」
と、俺がチェックについて語ろうとした時、女たちが一ヵ所に集まっていた。
「ちょっとあんた! よくも私たちをおもちゃにしてくれたわね!」
「ぼんやりとだけど、覚えているんだから!」
「覚悟しなさいよ! このクズ男!」
どうやら洗脳が解けた女たちが岩井に復讐しようとしているようだ。
「どきなさい!」
「どわっ!」
突き飛ばされる陽介。その時強く頭を打ったのか、ガチホモ洗脳が解けたようだ。
そして一瞬で女たちに囲まれた岩井は筋トレを止めて顔面蒼白になる。それによりガチホモ洗脳も解けたようだ。
「ま、待ってくれよレディたち……僕の言い分も――」
「「「「「知るかぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
こうして、高学歴ニートの歪んだ欲望が生み出した施設、嫁嫁クラブは壊滅した。




