第105話
「ば、馬鹿野郎!」
陽介が叫んだ時には眞城は屋上から姿を消していた。
「マジかよ!」
急いで駆けつけたとしても絶対に間に合わないことはわかっている。
だが両足は眞城がいたところへと向かっていく。
高渕が落下していく眞城に向かって手を伸ばしているが、当然その手には眞城の手は握られていない。
「聖来!」
「わかってらぁ!」
聖来はヨルムンガンドを召喚して、その長い体で眞城を救い出そうとする。
それでも全然届かない。眞城が地面に激突するまであとわずかだ。
「くっ!」
俺は思わず目を思い切り瞑った。
眞城が無残な姿になっている姿を見たくなかったからだ。
「え、ちょ……どういうこと?」
目の前が真っ暗になっている時に、それは聞こえた。
声の主は副会長の須藤静城だということははっきりしているが、一体何が「どういうこと」なのだろうか?
副会長の視線は校庭に向けられている。
つまり眞城が地面に激突しているであろう場所を見ているはずだ。
あまり想像したくないがそこには血だらけになり、ありえない方向に骨が折れている眞城の姿が……
「な!?」
恐る恐る下を見下ろすと、地面にはいるはずの眞城の姿がいなかった。
「一体どこにいったんだ?」
もしかして自殺に見せかけてビーストの力で逃げ出した?
いや、あいつのビーストは陽介が倒したから召喚することはできないはず。
「まさかあいつは一瞬で別の場所に瞬間移動することができる超能力者だったのか!?」
「んなわけねーだろ」
今回のMVPである陽介がまたアホなことを言っている。それに対して聖来がクールにツッコミを入れるが、確かに瞬間移動のような出来事であることは違いない。
「む? あそこだ!」
高渕が指をさした先には見たことがある姿があった。
それは虎だった。
虎の背中には気を失っている状態の眞城の姿が確認できた。
「あの虎……あの時の!」
あれは俺たちが初めて遠藤真久と対峙した時に現れたビーストだ。
圧倒的なスピードで遠藤のビーストであるサラマンダーを翻弄したのだ。
あの時のビーストにまた遭遇することになるとは……
「会長! 早く降りて眞城さんの安否を!」
「そ、そうだな!」
高渕と須藤に続いて俺たちも眞城の元へと向かった。
◆
それは本当に偶然だった。
偶然東高の近くを通っていたら、屋上から生徒が飛び降りたではないか。
反射的にビーストを召喚して彼女を助け、静かにグランドの片隅にその身を静かに置いた。
「あっちだ!」
いけない。誰かがこっちにやってくる。
私は素早く身を隠した。
飛び降りた生徒の元に駆け寄ってきたのは複数の生徒。
中には東高とは関係のない生徒もいるが……よく見たら彼らはあの時の少年たちではないか!
「おい大丈夫か! おい!」
「たしかこういう時は……そうだ! ラットトゥラットだ!」
「マウストゥマウスって言いたいのかお前……」
炎を操るビーストとの戦いに巻き込まれていた三人の少年少女が倒れている彼女に集まる。
「須藤くん。救急車の手配を」
「それはもう完了しています。あとは眞城さんのご両親に連絡を……」
東高の制服を着ている二人は慌てる様子はないようだ。
「なんとかなりそうだな……」
「ん? 誰かいるのか?」
小声で胸をなでおろしたのがいけなかったのか、背が高くて体つきのいい少年が私の気配に気づいたようだ。
「んー気のせいか? んでよ、ラットトゥラットは誰がやるんだよ」
「やらねーよ。それは溺れた時にするやつだよ」
口調の悪い女子が呆れた顔でツッコミを入れる。
どうやらこっちに気づかれずに済んだようだ。
すると遠くから救急車のサイレンの音が聞こえる。
後は救急隊が何とかしてくれるだろう。
こうして私は彼らに気づかれないように東高を後にした。




