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今日日の不良はカードからビーストを召喚するんだぜ?  作者: スカッシュ
第2章 己を鍛え続ける者、井下陽介登場! 編
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第10話

「誰か助けてよぅ……」

 子供のころの記憶。

 家族とみんなで旅行に出かけた時の記憶だ。

 山の中を走っている途中、大きな地震が発生した。

 崖が崩れて車は何回転もしながら地面へと落ちていく。

 幸い命は助かったが、父と母と妹はいくら呼び掛けても返事がない。

 そこから出ようにも出られなかった。当時10歳の自分の力では半壊している車から脱出することなんて不可能だった。

 なんどもドアを叩いて脱出を試みても車のドアはびくともしない。

 意識が朦朧としてきた。何時間も飲み食いしていないから体力がなくなってきているんだ。

 このまま誰かが助けに来てくれるのを待つのか? でもこんな山奥に助けに来てくれるなんて思えない。

 もうダメだ。このまま自分も死んでしまうんだ……と思ったその時、車全体に大きく揺れた。

 なんども叩いてもビクともしなかったあの車のドアを力づくで引っぺがして、自分を外へ出してくれた恩人がそこにいた。

 視界が歪んでいてどんな顔をしていたのか、どんな姿なのかはまったく覚えていない。

 ただ一つだけ言えることがあった。

「すげぇ筋肉だ……」

 助けてくれたその人物は、丸太のような太い腕をしていた。

 これが「筋肉」に対して大きな憧れと希望を抱くきっかけになったのは違いない。


 ◆

 

 ここは南高。

 俺、矢崎永一が通っている高校だ。

 朝もぼちぼち登校しながら「ああ、今日もたいくつな授業が始まるんだな」とげんなりしている。

 ところが今日はもっとげんなりしてしまうことがあった。

「ほら。カバンの中身を見せなさい」

 校門前で生徒会の生徒が他の生徒のカバンの中身を見ようとしている。

 プライベートの侵害? 否、持ち物検査である。

「やべーな。今日もグラビア雑誌持ってきちまったよ」

 こんなものを持っていると知れたら絶対に注意されてしまうだろう。そうなると後々面倒になるのでなんとかここは切り抜けたい。

「ん?」

 よく見ると持ち物検査を受けている生徒の姿に見覚えがあった。

「ちょっと君! なんだいこれは!」

「なにって? ダンベルっス」

「学校にこんなものは必要ないだろ!」

「何言ってんスか! ダンベルは筋トレに欠かせないグッズの一つ! 俺にとっては必要なものなんスよ!」

 生徒会の奴らと言い争っている男のことは知っていた。

 井下陽介。

 身長は俺よりも高い。一八〇cm以上はあるだろう。これだけの高身長を持っていれば一目で目立つからこの南校で知らない奴はいないだろう。

 身長も特徴の一つだが、それ以上にすごいのはあいつの筋肉だ。

 制服越しだからわかりにくいと思うが、あいつは脱いだらすごい。

 体育の授業の時少し見たことがあるが、腹筋はバキバキに割れているし胸筋は発達しているし、腕も太い。

 これだけのマッスルボディを持ちながら井下はどこの部活にも所属していない。完全なる体育会系スタイルをしているというのに野球部にもサッカー部にもボクシング部にも所属していないという。

 うわさで聞いた話だが、なんでも筋トレ以外には興味がないらしい。

 日々自分の肉体を磨き続けたいのだろうが、そんなあいつにも弱点というものがある。

「君! ダンベルだけじゃないくて他にも学校には必要のないもばかりじゃないか!」

「何言ってんスか! グリップもプロテインも俺には必要なものッスよ!」

「ここは学校なんだから教科書やノートを持って来なさい!」

「そんなもの俺の筋肉には必要ねーぜ!」

「学校はトレーニングジムじゃなぁぁぁい!」

 井下陽介の弱点、それはとてつもなく頭が悪いアンポンタンなのだ。


 ◆


 そんなアホな井下の持ち物検査を受けている姿を見てしまったその日の昼休み。

 俺は屋上で、売店で買った焼きそばパンを食べながら過ごしていた。

 本当ならナポリタンをパンで挟んだナポリタンパンとかがあったら絶対に買うのだろうがそんな都合のいいパンはうちの購買にはない。だから焼きそばパンで辛抱しているのだ。

 すると「よう」と聞き覚えのある声がしたので振り向いてみると一匹のウサギの姿が見えた。

「チェックか」

「ビースト探し手伝ってくれるんじゃねーのかよ」

「あのなぁ、俺にも学校生活ってものがあって平日は迂闊に行動できねーんだよ」

「この間はクラーケンのところに行っていたじゃねーか」

「あれはほら……学校って気分じゃなかったんだよ」

 なんとも見苦しい言い訳なんだ。自分で言って自分で心苦しくなる。

「てゆーかさ」と俺はチェックに聞きたいことがあったことを思い出した。

「ビーストカードってそもそもなんなんだ?」

 十年前、俺はビーストカードの力で父親を殺した。あの力がなかったら俺は一生あの暴君の如き男に暴力を振るい続けられていたかもしれない。

 あの摩訶不思議なカードの力によって助けられたわけだが、俺はそのカードの根本っていうのを知らなかった。

「神の贈り物、とでもいうべきか」

 チェックが語りだした。

「俺の上司、つまり神は不幸な目にあっている人間を放っておけなかったんだ。イジメ、虐待、差別などといった理不尽で劣悪な生き方をしている人間を見て見ぬふりできなかった。だけど神が直接地上へ降りて人間たちを助けることは禁じられていた。だから神は自分の代わりになる存在を地上にばらまいたんだ」

「それがビーストカード……」

「ビーストカードの力はお前も知っての通りだ。人間の常識をはるかに超えたその力によって不幸な人間を救おうと神は考えていた。でもそれは間違いだった」

「間違い?」

「どんなにひ弱な人間でも、大それた力を持っちまうと圧倒的権力を得たものだと勘違いをしちまう。ビーストカードを、自分自身を守るための力ではなく、他人を屈服させる力に使っちまうのさ」

 チェックの言い分はまったくだった。

 この間戦った吉岡も昔はイジメを受けていた。そんな不幸な自分に助けるようにビーストカードが吉岡の前に現れた。

 結果、吉岡はイジメられることはなくなったが、逆にイジメる側になってしまった。

 チェックの言っている「間違い」の意味すごく理解できた。

「もしかしたら他にもビーストの力でよからぬことをしている連中がいるかもしれねぇ。そこで俺は本来地上に降りることができない神に代わって地上に散ったビーストカードを回収しに地上にやってきたってわけさ」

「地上にやってきたっていうか、ようするに神様の使いっぱしりにされてるだけじゃね?」

「それな!」

 ビシッ! とチェックは白くて小さな手をこっちに向けてきた。

「そうなんだよ! 自分の思いつきでビーストカードを地上にばらまいたっていうのに、いざ事情が変わったら俺に後始末を押し付けてきやがったんだぜ!? マジ信じられねぇよあのクソ上司!」

 ていうか神の使いが「それな!」という現代言葉を使っていたことに俺は少し驚いていた。

「まぁ心配すんなよチェック。俺もビーストカード集めに協力してやっからよ」

「お前、別に神の使いの手伝いなんかしても報酬なんてでねーぞ」

「んなもんいらねーよ。俺は自分が『これだ!』って思ったことに一生懸命やるだけだ」

「……本当に変わった人間だな、エーイチは」

 チェックと会話をしていると、大きな人影が見えた。

「よう」

「……ああ」

 俺の目の前に現れたのは、手にいっぱいの売店のパンを持っていた井下陽介だった。

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