三層はもふもふ
第三階層。ここはパラダイスである。
ムムがウキウキしながら階段を降り、最初の部屋へと足を踏み入れると――
「フンフンフンッ!」
可愛らしいラモビフト達が鼻息合唱で歓迎してくれた。さらに、もふもふな体を足に擦り付けてくれ、至れり尽くせりである。
「幸せぇ~」
「俺はこの時を夢見て生きてきたんだ……」
「二人とも大袈裟だな」
そう言うラギリも表情は緩んでいた。
彼もまた、もふもふフリークなのだ。
ここは触れ合い広場。一年前にもあったラモビフトと触れ合える広場よりもパワーアップしている。
まず最初にあげられるのは広さだろう。
天候が快晴に固定された草原エリアは村の敷地の半分ぐらいの広さがある。さらには森林エリア、小川エリア、山エリア等も同規模で存在していた。
そこにはラモビフトを始めとした様々なモフい魔物達が生活しており、彼らが嫌がらなければ自由に触れ合っていい。さらに、好物が販売されているので献上も可能だ。
餌付けではない。献上である。
三人は早速おばちゃんから野菜を買った。
色とりどりの野菜は綺麗に並べてあり、いかにも美味しそうだ。ムムは思わず口に運んだ。
「うん、新鮮!」
「食っちゃだめだろ!?」
「えー?」
これはもふもふ達のご飯だ。人間やダンジョンマスター用ではないぞ。
でも、おいしいよ。
ムムとオクビがそんなやり取りしていると、もしゃもしゃタイムだー、とばかりに群がっていたモフ達が足を小突いて催促を始めた。
瞬時にデレッとする二人。特にオクビが気持ち悪い。
「はわわ、ラモビフトちゅわん達ぃー! どうぞー」
赤ちゃんをあやそうとして泣かすぐらいの声色で野菜を差し出した。
先にこっそり野菜を献上していたラギリが思わず落としてしまったぐらいである。
そんな落ちた野菜でも食べてくれるモフ達。
けれど、気持ち悪さのせいか、オクビが差し出す野菜を食べようとしない。戸惑うばかりだ。
目で追っているので食べたいのだろう。それでも一定の距離を保ち、絶対に食べようとはしなかった。
オクビからしたら由々しき事態である。
「まさか、俺の愛が足りない? そっ、そんなはずはない! ラモビフトちゅわぁぁぁんっ、あげゆーーー!」
「さっきからなに言ってんの?」
ムムは呆れていた。
はっきり言って彼の目は節穴だ。
どこをどう見たらラモビフトに見えるのか。
「その子達、ラモビフトじゃないんだけど」
「は? いやいやいや、保護欲掻き立てるお顔、垂れてプリティなお耳、リズミカルな鼻息、程よいサイズ感……どこをどう見たってラモビフトだろっ」
「はぁぁ?」
言われてなお見分けがつかないとかダメダメである。ムムはますます呆れた。
「その子達、ラモビフターだよ」
「ラモビフター? ラモビフトじゃないのか?」
ムムは勉強不足だね、と、一匹のラモビフターを抱き抱えた。
その際、野菜のかごを置いてしまったためしたにいる子らに瞬く間に召し上がられてしまったが。
元々献上する予定だったものが早まっただけだと、すぐに気持ちを切り替えたムムは抱えたラモビフターを頭に乗せた。
「ほら、ラモビフターでしょ?」
ここまですればわかってくれるはず。
ムムは得意気だった。
「……は?」
もちろんオクビはぽかーんである。
ラモビフトが頭に乗っかているだけにしか見えなかった。
それはそうだろう。世界がいくら広いとは言え、頭に乗せただけで判別できるのはムムだけ。
超人なら鍛えれば出来るようになるかもしれないが、少なくとも常人のオクビには不可能な芸当だった。
そもそもラモビフターは世間的に知名度の低い魔物だ。
レア種というわけではない。ラモビフトの上位種なので、外の世界でも普通に見かけることはあるだろう。
上位種とあってその能力は凄まじく、カンストしている可愛さを除いた全てのパラメーターが一割ほど高い。
ムムは知らないことだが、ラモビフトはギルドの区分ではランク10、魔物としては最弱クラスとされている。対して、ラモビフターは圧巻のランク10だ。
とある魔物学者は言う。
『強くはなってるけど誤差じゃね?』
ぶっちゃけ、よほどのモフ好きか、魔物学者か、うんちくマニアでもない限り、ラモビフターのことを知ることはないないだろう。
見た目は変わらず、特殊能力が増えたりもしてないので、区別するだけ無駄。よって、一般には浸透していないし、冒険者ギルドでも同一扱いしているところが殆どだった。
けれど、それは素人の話。
上級者であり玄人であり達人であるムムからすればその違いは一目瞭然だった。
ただ、それを言葉にするのは難しい。
ラモビフトやラモビフターの素晴らしさを表現するには、いかなる言葉であろうと、どうしても足りなのだ。ムムは自らの語彙力を嘆いた。
加えて言えば、ラモ達にはそれぞれに違った個性がある。一概に表してしてしまうなんて出来るはずがなかった。
「でも、あえて挑戦する!」
完璧には表現できないだろう。
それでも欠片ほど伝わってくれればいい。
そんな思いでムムは両手に毛玉ゴーレムのモフーレムを召喚した。
ムムは一番得意する言語でそれを繰り出す。
「右がラモビフターちゃん抜け毛を集めて作ったモフーレムで、左がラモビフトちゃんの抜毛のモフーレムだぁぁぁぁっ!」
左から右へ繋いだワンツー。
最近毎日している訓練の賜物か、冴え渡るコンビネーションがオクビを打ちつける。
そう、これこそムムが選んだ言語、肉体言語だった。
その結果はもちろん、
「わかるかぁぁぁぁぁっ!?」
オクビがラモ達に見上げられながら広場を飛んでいく。
だが、その表情は満ち足りたものだった。
「ラモビフトとラモビフターの違いはわかんねぇけど、つかモフーレムってのも意味わかんねぇけど、モフモフは至高ってだけはわかったぜ」




