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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
二章 ダンジョン準備
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地の入口

 無事ゴールに辿り着いた一行。三艘を回収し筏から降りると、息を切らすジョンの前にテンが仁王立ちした。擬音にすればむん。なにやら胸を張っている。


 ムムは可愛いさに悶えたが、ジョンは不機嫌そうにした。


「なんだ?」

「ムムおねーちゃんはあきらめて!」

「そのことか……」


 二人はネブサ舟競争で賭けをしていた。テンが勝ったのでジョンはムムとの結婚を諦める約束である。


「あ、そういえばそんな話もあったね」


 当の本人はすっかり忘れていたわけだが。

 そもそもジョンとは結婚はおろか付き合うつもりも無かった。仮に向こうが勝っても袖にしただろう。


 そうとは考えもしないジョンは思案していた。

 約束を反故にするのは簡単だ。

 しかし、男として約束したのだから破るわけにはいかない。ジョンはすっぱりと諦めることにした。今回は。


「ダンジョンキラーと名高い俺と、ダンジョンマスターであるあいつが結ばれないのは悲劇的ながら運命なんだろうしな。約束は守ろう」


 浸るような言い訳も添えて。


「ねぇ、それよりさ」

「おい、それよりってなんだ。それよりって」


 ジョンの恋心のくだりを、それより、で片付けたマカ。周囲を見回す彼女には、もっと重要そうなことが気になっていた。


「ここどこなの? たしか、ゴール地点ってスタートじゃなかった?」

「ありゃ、本当だね。ここどこ?」


 いつものダンジョンと雰囲気が違うことに、言われてようやく気づいたムムである。


 空気が淀んでいて息苦しく、さらに少し熱い。薄暗くもあり、鋭い岩なんかが突き出ていて下手に歩いて転べば怪我するかもしれない。

 さらに壁を黒い液体が伝っている。


 サーソはその黒い液体に近づいて顔をしかめた。


「これもマグマだ。多少冷えているのだがまだまだ熱い。触らないようにね」


 サーソの忠告にムム達は首を縦に振る。

 特に戦闘力のないマカ、テン、マツの三人は要注意だ。うっかり触っただけでも取り返しがつかない怪我をしかねない。

 天使のような柔肌に火傷の痕が残ってしまうなんて考えただけでムムは膝が震えた。


「にしても、どういうことだ? お前、ダンジョンマスターなんだろ。何か知らないのかよ」

「知らないよー」


 マグマなんて危険物を設置した記憶はない。ジョンは信じてない視線を寄越すが心外であった。

 村の至宝を害する物なんて置くはずないでしょ、である。


 だが、ふと一つの可能性に思い至った。


「まさか、拡張しているうちに変なとこを掘り当てちゃったとか――」

「ムムおねーちゃん、チャクマさんかてんしちょーさんじゃない?」

「それだ!」


 ムムは即座に自分の考えを投げ捨てた。

 マツの言う通り、チャクマか天使長が怪しい。この趣味からすれば間違いなくチャクマだ、と。


「正解だ。ガキんちょ共」

「何者だ!」


 突如現れたるは黒き羽をもつ若い悪魔。醜悪な顔をさらに歪めるように笑っている。

 サーソを筆頭にムムとジョンの三人は警戒体制をとった。


「ここはチャクマ様のダンジョン。地のダンジョン出張所だ。お前らはこの先へ進むことなくハラワタを貪られぇ!?」


 悪魔は喉を貫かれ、さらに頭をマグマに叩きつけられて無惨な姿となった。奇襲による即死である。

 やったのは勿論ダンジョンキラーことジョンで、つまらなさそうに槍を引き抜いた。


「ザコい」

「ちょっと子供がいるんだからグロいのは止めてよ!」

「む……」


 それに抗議したのはムムだ。

 倒すのはいい。向こうも殺る気だったのだから、ジョンがやらなければムムが倒しただろう。


 しかしだ。マグマ焼きにする光景を子供に見せるのは如何なものか。


 サーソは咄嗟にマカの、ムムは丁度近くにいたマツの目を塞ぎはした。しかし痛恨。突然すぎてテンの目を塞ぐのは間に合わなかった。物理的に手が足りないのだから当たり前である。


 グロい光景を見させてしまった。悔やんでも悔やみきれない。


「あれー? まっくらだよー?」


 いや、見ていなかった。テンの目もまた小さな手で塞がれていたのだ。

 その持ち主はマツ。ムムに塞がれる直前に察知して塞いでいた。


「お手柄よ、マツ!」

「えへへー」


 さすがはライバルである。頼りになる、とムムは照れるマツを抱き締めた。

 そのおかげで手が外れたわけだが、マツは目を瞑って防御。本当に良くできた子である。


「……お前らはそうして後ろにいろ。このダンジョンは俺が潰すから」

「待て、王より手出し無用の御触れが出されていたはずだろう」


 サーソの指摘にジョンは首を横に振った。


「手出しを禁止されたのはカナィドのダンジョンで、地のダンジョンは含まれてないからセーフだ」

「たしかにそうだけれど……」


 地のダンジョンは三大ダンジョンとして危険視されているのだから、討伐は推奨されている。ジョンの言い分は正しい。


 ここが本当に地のダンジョンであるならば、だが。


 ここはカナィド村のダンジョンで、乗っ取られたものだ。この先に待っているだろうダンジョンコアはムムの命と繋がっている物のはず。

 攻略され、コアを破壊されてしまえばムムや家族、そして魔物達が死ぬだろう。


 絶対に、それは避けねばならない。かといって、このまま手をこまねき立ち尽くす訳にもいかないかった。

 口に出してないがテン達はちょっと苦しそうにしている。やはり、この環境は辛いのだ。


 戻れれば一番なのだが、後ろの水路はもはやマグマの雨で埋め尽くされていた。いつの間にかどしゃ降りになっていたらしい。ジョンでもあれは厳しいだろう。


 もはや前に進むしかなかった。

 テン達の安全を確保し、チャクマからコアを取り戻し、ジョンからコアを守りきる。

 難しそうだけどやるよ、と、決意したムムは懐からあるものを取り出した。


「ダンジョンコアか!」

「ダミーコアだよっ! 止めてッ、攻撃すんなっ!」


 いち早く反応してきたジョンから守るように、ムムはダミーコアを抱えて背中を向ける。

 このダミーコアには多くの魔力が詰まっているのだ。壊されてはたまらない。


「そのダミーコアって……」

「そうだよ、サーソさんが持ってきてくれたやつ」


 と言っても元はムムのダンジョンで作成されたもの。特別な手順を踏み、ギルドマスターに町まで持って帰ってもらっていた。


 その目的は魔力だ。ダミーコアには魔力を溜め込める性質がある。それを利用してダンジョンの入口で通行料を頂いているが気付いたのだ。集めるのはダンジョンの外でもいいと。


 要望書に書き、それが承認して、ギルドが冒険者から魔力を集め、ようやく届けられたわけだ。


 届いてすぐ宿泊施設を第一階層に移動させたり、VIPルームを作ったり、他にも色々使ってしまったがまだまだ残っている。


 コアを乗っ取られた今、生命線はこのダミーコア。これが尽きればムムはただか弱い女の子に戻ってしまう。

 絶対に魔力の無駄使いは出来ない。


「のどかわいた……」

「あっ、今出すね!」


 テンの呟きに反応したムムはコップ一つを作成し、綺麗な水を何度も召喚して注ぎ足し皆に振る舞ったのだった。






 一方その頃、村長とツトは王様達を真新しいVIPルームへと案内していた。

 王様から見れば中堅商人の自宅程度。しかし、村人からすれば村長宅を越える最強のお部屋である。


 村長達はここで到着したばかりの王様御一行をもてなしていた。


「あ~らよっ、ほ~らよっ、よ~いしょっ」


 歓迎のための舞、シケボモの腹踊りである。彼が冒険者時代、一時期大流行した芸だった。腹に墨で描かれた顔が変化する様を見せられた王様は無表情。

 というか、娘のマカが気になりすぎて見てもいなかった。


「あの子は無事なのかい?」

「えぇ、元気にしてますよ。ジョン君とダンジョンマスターが一緒ですのでご安心ください」


 ミミとのこのやり取りは何度目だろうか。そして何度聞いても安心できそうになかった。

 キラーとマスターが一緒にいるなんて特別強力な魔法の発動準備が完了したようなものだ。

 王様はため息をついた。


「どうか、何も起きずにいてくれよ。痛っ」


 心配する王が心の声を漏らすと、隣にいた王妃に太ももをつねられた王であった。

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