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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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汚い

 トバズが正面から斬り結び、素手のムムが隙をついて馬鹿力で殴り付ける。即席なので息のあった連携とはならない。

 それでもムムの一撃は意識を刈り取るであろう剛腕。相手にすれば神経を磨り減らされるであろう。


 さらに、身体強化で苛烈さを増したトバズの剣を受けなければならないのだから、並の実力では五分と持たないはずだ。


「強い……」


 にも拘らず、二人は劣勢であった。

 それも都会で不自由なく暮らしてそうなヒョロヒョロ相手にだ。

 ひらりひらり避けられ、お返しとばかりに短剣で斬りつけてくる。


「というか、あんた達の剣使ってるよね。仲間だったの?」

「抜かせ。悪に与するトバズ救騎士ではないわ」


 そうは言っても今もウゴヨクはトバズ盗賊団が先程披露した剣技で斬りつけてきている。

 正面から受け止めるトバズが不愉快そうにしているから、やはり彼らの剣技なのだろう。


「どこで覚えたかは知らんが正義の剣を汚すな!」

「お気に召さないか?」


 文句を言われたウゴヨクはご機嫌な様子だ。嫌がる姿を見て喜んでいるらしい。


「おっと、お前にどーん!」

「ぐむっぁ!」


 裏拳がムムの頬を捉える。思いつきで適当に放ったような一撃なのに重い。踏ん張ろうとしたムムを簡単に吹っ飛ばした。


 行き先は、戦闘の邪魔にならないよう控えていたトバズ盗賊団だった。彼らは飛んできたムムを受け止めようとしない。嫌っているのだから無情とは言えないだろう。


「ひょわぉ!?」

「ぐおっ!」


 二つに割れた集団の中を進んだムムは、そのまま気絶して横たわっていた男に突っ込んだ。意識がないので回避行動をとれなかったのだ。


「痛てて……ごめんね」

「ん、あぁ、ムムか」


 それはラギリであった。

 斬られはしたが、意識を失っていただけらしい。起きてすぐ痛む箇所に持っていた傷薬を塗り出した。


「状況はどうなっている?」

「それは後で! 皆の治療もお願いね!」


 会話をする時間はない。

 ムムはすぐに戻ってウゴヨクに殴りかかった。


 それを去なしたウゴヨクは何故か三歩退いた。


「頑丈だなぁ。いたぶるのも飽きてきたからそろそろ終わりにしてやるよ」


 構えが変わった。まるで松明を持つような構えだ。


「血迷ったか!」


 それは明らかに戦いに向かない構えであり、好機と見たトバズは一気に勝負に出た。魔力を注ぎ込み、かけていた身体強化の出力をあげる。


 ムムの人間離れな動体視力でもギリギリ追えるスピードだった。


大地柱アースニードル

「ぐっ!?」


 そんなトバズを地面から生えてきた石の柱が貫いた。いや、かすっただけで直撃は避けていた。


「無詠唱魔法か!」

「まだまだぁ! 大地散弾アースショット大地散弾アースショット大地散弾アースショットぉぁ! 」


 弾く。弾く。弾く。

 至近距離からの岩の礫を剣一本で対処した。


 そんなトバズの首に刃先が迫る。

 軽業師のように回転しながらジャンプしたウゴヨクが、逆さまの状態から首を狙ったのだ。


「ちぃっ!」

「クケケケ、殺せたと思ったのに惜しかったなぁ」


 真上からの奇襲に反応が遅れたトバズは首の皮を斬られてしまう。


 だが、その技を見て一番驚いていたのはサーソの治療をしながら戦いの行方を見ていたラギリであった。


「今のはゾトの得意な暗殺技じゃ……」


 それにさっきの魔法にも見覚えがあった。


「ラギリかぁ! なら、これも見せてやるよ! クケケケーっ!」


 ウゴヨクは遠くにいた呟きが聞こえてたのか、そちらへ向き直り、短剣を地面へ叩きつける。そこから衝撃波が発生し、地面を砕きながらラギリ達へと迫った。


「それはアイツの!?」

「そうだよ。俺が全部奪ってやったんだ。痛快だったなぁ……金至る道はお前で揃うからさっさとくらって死ね」


 物思いに耽ったかと思えばウゴヨクは舌舐めずりをしてラギリを見た。

 衝撃波はラギリやトバズ盗賊団を直撃するコースだ。


「させん!」


 だが、これをトバズが黙って通すはずがなかった。衝撃波に追い付き、剣を思いっきり突き刺す。激しい激突音と共に剣が折れて宙を舞うが、衝撃波は相殺されたようだ。


「剣を寄越せ!」

「はい!」


 団員が投げた剣をキャッチして、再び襲いかかった。


「おっかないねぇ。それで何が『剣を寄越せ』だって」


 ウゴヨクは同時攻撃を狙っていたムムを蹴り飛ばしながら戯けて似てない物真似をする。

 あからさまな挑発だがプライドの高いトバズには効果覿面であった。


「借り物の力で意気がる悪が!」

「借り物?」


 ムムは引っ掛かりを覚えた。

 だが、今は攻撃を合わせて――


「ばぁーか」


 トバズが剣ごと斬り裂かれる。


 身体強化の出力を最大まで高めたのだが、怒りで行動が単調になってしまった。ウゴヨクはそこに更なる単調な振り降ろしをお見舞いしたのだ。

 単純な筋力比べでは圧倒的にウゴヨクに分がある。挑発に乗った時点で勝負は決まっていた。


「トバズさん!」

「うぅ……」


 駆け寄ったムムが抱き起こすと、トバズは痛みに呻いた。戦闘続行は不可能そうである。


 それでもムムは諦めない。

 村の皆の命が懸かっている以上、そして希望が残っているなら最後まで足掻くつもりだった。


「あいつの力の源は何!?」


 おそらく、トバズは掴んでいるのだ。

 ――借り物の力。確かに彼はそう口にした。

 そしてウゴヨクも奪ったと言っている。


 これはダンジョンのような物のことを指しているのだろうとムムは考えたのだ。

 それを封じればまだ勝機はある、と。


「あの魔剣だ……」


 トバズが示したのはウゴヨクの持つ短剣。それこそがムムにおけるダンジョンコアだった。


「おや、こいつが気になるのかい?」


 視線に気付いたウゴヨクは短剣を見せびらかすように振り回す。


「こいつはな、ウシゴ家に伝わる家宝“強欲の短剣”さ。これで殺した奴の力を奪えるんだ。力、魔力、技術、知識、ぜぇんぶだぁ。弱点はその力をこの短剣に奪われちまうことだが、まぁ、殺し続ければいいだけだ」


 なぜだか、弱点まで語ってくれた。


「それに、この短剣にはもう一つ必殺技があんだ」


 背筋がぞわりとした。

 その必殺技とやらを使うつもりなのかもしれない。

 ムムの本能がそれだけは阻止しろと訴えかける。


 だが、遅すぎた。


全解放フリー


 ダンジョンが揺れた。空気も震えた。全てがウゴヨクの放つ純粋な力によって蹂躙されていく。


「この剣に宿った力を全て解放した。今の俺は通常の一万倍の力がある」


 それは人間に耐えられる力ではないのだが、ウゴヨクにとっては些細なデメリットだ。


「村の連中はここに全員集まっているんだろ? まとめて消し飛ばしてやる」


 狂ったように笑う。いや、事実、彼は狂ってしまったのだ。

 魔剣を使い続け、知能や理性の一部を失い、精神のバランスはおかしくなってしまった。

 魔剣の力を解放したことで、さらに加速している。


 もはや彼に残されたのはカナィド村を滅ぼすという執念のみ。その後のことはなにも考えていない。考えられない。

 そもそも、魔剣を解放してしまった彼も終わりと共に吸収されてしまう運命なのである。


「終焉だ」


 短剣を掲げた。文字通り最後の一撃。


 そんな時、それはやってきた。


「あの、どういう状況で?」


 行方不明となっていた臆病な男だった。

 なぜか体は汚物まみれである。


 ウゴヨクはそんな彼を一瞥すると、泡を吹いて倒れ、そして短剣に吸収された。


 全員が「えっ?」である。


 いち早く我に返ったトバズが痛む体に鞭打って落ちている短剣を殴り付けてへし折った。こんな悪な代物はこの世に必要ないとの判断だ。


 短剣は断末魔のように魔力を放出してから、その力の全てを失い、ただのガラクタとなる。


「こりゃ、無理……」


 そしてムムが倒れた。

 なにやら力がみなぎるのを感じた途端に強烈な臭気も感じ取ったのだ。悶絶する間もないほど臭い。


 実はウゴヨクを倒したのもこれであった。一万倍と自称した強化は鼻まで及んでおり、しかも鼻に関して言えば一万倍を軽く凌駕する強化率であった。


 そんな鼻で汚物の臭いを嗅いだらどうなるか。


 結果はご覧した通り、意識を失って強化は解除、そして魔剣の効果により吸収されてしまった。


 事態を把握できずオロオロする臆病な男こそがウゴヨクとダンジョンマスターを撃破したのである。

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