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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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不治の病

 一週間ほどで痛みも収まり、ムムの体は元気になった。しかし全てが元通りとは行かないわけで。


 籠を拾いに行った後は日課だった山菜採りに赴くこともなく、ボーッと村を眺めていることが多くなった。


「よう、ムム、まだ調子悪いんか」

「いーや、元気だよー」


 窓から外を眺めていると時おり村人が声をかけてくれる。彼らからみてもムムの様子がおかしいのだ。


 ムムは悪いなと思いつつもどうにも気力が湧いてこなかった。

 自分が産まれたカナィド村。天使な旦那様と結ばれ、死ぬまで過ごすはずの村だった。


 だが、もはや叶わぬ夢。ムムはこの村を出なければならない。さもなくばこの村は滅びるだろう。

 そんなのは絶対に嫌だった。


 結論は出ているし、納得もしている。ただ、まだ行動に移せないでいた。

 踏ん切りがつかない。未練が断ち切れない。

 ムムはこの村が大好きだ。離れたくなかった。


 思わず涙が溢れる。


「あれ……」

「おいおい、本当に大丈夫なんかよぉ」

「あは、ホコリが目に入っちゃっただけだよ。体は治ってるから安心して」


 嘘は半分しかついていない。目にホコリは入ってないが、体は治っている。心が不治の病なだけで。

 それも恋の病よりも厄介なヤツだ。


 涙を拭い、心配する村人に仕事しろと発破をかけ見送ってから、赤い石を見つめた。相変わらず真っ赤である。


 これを捨てられたらどんなに楽になるだろうか。これだけ苦しむなら、いっそ砕いてしまおうか。


 ムムは神妙な顔で赤い石を持ち上げた。

 このまま床に叩きつけてしまえばなにもかも終わる。


 この石も、そしてムムの命も。


 石が拒絶するように震えたが些細な抵抗だ。

 いや、震えているのはムムの手。恐怖からくる震えだった。


「こんな意思弱いつもりなかったのになぁ」


 まだ死にたくない。それもまた素直な願いだ。


 ムムは傍らに赤い石を置き、ため息をつく。

 明るさの塊のような彼女をこうまで苦しめるその石の正体とは――


「おま、それダンジョンコアじゃねぇか?」

「そう、ダンジョンコアなの……え!?」


 そう、この石の正体はダンジョンコア。

 ただの石にしか見えないが魔物の一種である。分類するなら寄生型の魔物。強い魔物や知的生物にとり憑いて、成長していく化物だ。


 ムムは選ばれてしまった。見初められてしまった。

 魂まで侵食されてしまった彼女はもはやヒトに非ず。コアが壊れるその時までダンジョンを守り続ける主、ダンジョンマスターとして生き続けることを宿命づけられてしまった。


 そして見つかってしまった。


 そもそも隠そうとしてなかったのだが。

 ムムは村人の中にダンジョンコアを知っているヒトはいないだろうと決めつけていたのだ。


「おいおい、スゲぇじゃんか! 売りゃあ一生暮らしてけんぞ!」


 突如現れた目を金にして窓にかぶり付く彼の名前はシケボモ。元冒険者である。

 年齢からくる体力の衰えで引退したとのこと。出身は他の村だがすでに無くなっており、ふらっと立ち寄ったこの村に居着いた男である。


「凱旋パレードでしか見たことねぇけど間違いないよな! 魔力も凄そうだ! 凄っげぇ!」


 シケボモは子供のようにはしゃいでいた。内心は金にまみれているので子供らしくはないのだが。


「どこで手に入れたんだよ!?」

「えーと、これはですね……」

「大きさからして出来たてのダンジョン見つけたんだな!? くぅ~、運がいい。羨ましいぜ!」


 一人で盛り上がっているシケボモをよそに、ムムは焦っていた。


 ダンジョンやダンジョンマスターとは討伐対象の魔物であり、コアを手に入れることは多くの冒険者の目標の一つでもある。


 これが討伐済みのコアなら問題はない。売って村のために金を使えばいい。


 だが、そうはいかない。

 このコアは生きているのだ。ムムを取り込み、マスターとして仕立てあげ、より成長しようとしている。


 もし、シケボモがそれに気づいてしまったらどうするのか。ムムにはそれが恐かった。

 彼は村に溶け込んでいるが、村への愛着はそれほどでもないはずだ。


 コアを売れば文字通り白金長者。一生遊んで暮らせるだろう。

 ムムの命ごとコアを奪取する可能性は否定しきれない。


「なるほど」

「え、なにがなるほどなにょ!?」


 シケボモが納得したように頷いた。

 まさかバレてしまったのか。

 ムムは焦って声が上擦った上に噛んだ。


 明らかな動揺を見せた彼女の態度に確信を深めたのか、シケボモは得意げだ。


「お前さんが元気がないのはそれが理由だったんだろ?」


 あぁ、終わった。全部、バレてる。だったら、これ以上誤魔化しても意味ないよね。

 元々、半分は諦めていたのだ。本当は嫌で恐くても、これが運命。おかげでやっと覚悟が決まったとムムは顔をあげた。


 ――お母さん、お父さん、テン君、マツちゃん、村の皆、ごめんね。


 でも、せめて最後はカッコよく。


「そうです。なんでか私がダン――」

「やっぱりかぁ。ダンジョンコアは確かに金になるが、なりすぎるんだよな。下手に売ろうとすりゃあ金目当てなヤツに襲われかねない。そのせいで悩んでたんだな」


 水くせぇな、と、シケボモは笑った。


「よし、俺の信用できるツテを紹介してやる! まずは村長に話を通してくるな!」


 なんだか勘違いしてくれているようだった。

 決意が明後日の方向に飛んでいって呆然とするムムを残し、シケボモは走っていった。


 助かったわけではないだろう。そのツテとやらに売るまでがタイムリミットになったわけだ。


 ムムは決断を迫られる。

 今すぐ村を出て逃げるか、残って余生を過ごすか。


 ムムが選んだ未来とは――

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