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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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決戦

 五対三十。いや、ダンジョンもカウントすれば六体三十と村で戦った時よりも戦力は増えている。単純計算で倍。だが、焼け石に水だ。


 トバズ盗賊団もそう思っているらしい。攻撃してこずに話しかけてきた。


「どうやら悪あがきは終わったようだな」

「まだまだあるかもよ?」


 ムムがおどけるとリーダー格の男は余裕ぶった表情でやれやれと首を横に振った。ムムはそれなりに顔に出てしまうので虚勢だとまるわかりなのだ。


「降伏すれば楽に裁いてやる」

「はっ、どうだか。裁くつったって首ちょんぱするつもりだろ?」


 会話に割って入ってきたシケボモの言葉を男は否定しなかった。


「大体なぁ、そんな大所帯で弱っちい俺らをいたぶるなんて、どっちが悪だよ」

「今さら何を言うかと思えば」


 これにはムムも相手に同感であった。シケボモのどこが弱っちいのだろうか。冒険者を引退しているくせに現役と張り合っているし、見た目だって線が太いだろう、と。


 シケボモは少しでも会話を引き伸ばして時間を稼ごうとしているのだが、ムムは全く気付いていなかった。


 だが、変に気付いても挙動不審になるだけだから逆によかったであろう。


 シケボモの言葉でなにやら考え込んでいたリーダー格の男は「いいだろう」と呟いてから振り向き、叫んだ。


「おい! 三名志願しろ! この戦闘は四対四で行う。他の者は手を出すな。万が一破った場合は救騎士失格として我トバズが直々に裁く」


 すると、すぐ三人が前に出た。

 臆病な男の仲間の三人だ。

 その表情は憤怒に歪んでいる。


 ムムとしては戦いたくない。けれど避けられぬ戦いだった。


「要求通り人数を合わせてやったぞ」


 要求などしていないが人数が減ったのは幸いだ。さらにムムかウモを人数にカウントしていないらしく、数的には有利となった。

 だが、懸念は残っている。


「俺らが買ったら奥のやつらが攻めてくるんじゃないか?」

「負けたら退くと騎士の名に誓ってやろう」


 ラギリがそれを抜け目なく指摘すると、トバズは剣を切っ先を天に向けて立てて宣言した。

 彼らが騎士であると思い込んでいる限り約束が破られることはない。


「さあ、やろうか」


 トバズを含めた四人が武器を構えた。全員前衛らしい。そして構えが同じだった。


「ちょい待――」

「私トバズがお前らを討つ!」


 シケボモが更なる会話の引き伸ばしを試みるが失敗。

 相手が一斉に突撃してきた。


 もはや戦るしかない。

 ウモが風分身を作り出し、一番強そうなトバズにぶつける。

 残る三人の対応はシケボモとウモ本体とムムだ。


「ふむぁぁ!」


 ムムは背中に担いでいた巨大な盾を構える。

 専守防衛。倒す必要はない。

 相手の攻撃を全部耐えきってしまえばいいという思想の元、コアで作成した盾なのだ。重量はかなりのものだがダンジョンマスターの怪力により苦にはならない。


「ぬふぅん!」


 変な息は漏れるが。


「さっさと裁かれろや! おらおらぁ!」

「へあっ! とりゃあっ! ぐふぅ!」

「煩ぇぞ! 黙ろ!」

「むりゃあっ!」


 ムムは振るわれる剣を全てを弾く。

 男はそこを突破すべく攻撃の回転数をあげ、手数を増やしていった。


 それこそがムムの仕掛けた罠だとも知らずに。


 ――やった!


「なに!?」


 突然、からんと銀色の刃が床に落ちる。男の手元に残るは半ばから折れた剣。彼の使っていたそれは早々に折れる代物ではない。新品に近かったので尚更だ。

 だが、現実には折れてしまったわけで。男は唖然とした。


 一方で、狙い通りに事が運んだムムは得意気だ。

 そのタネは盾の表面に隠されている。実は尖ったデコボコであり、そこに何度も剣をぶつけたことでヒビが入り、折れた。

 もちろん、見た目でバレないようウモの幻覚魔法でカモフラージュしている。


「ちぇぇぇぇいっ!」


 ムムは盾をぶつけるように体当たりをかまして吹き飛ばした。


 壁際まで転がった男は立ち上がろうとしたが、顔面に凶悪そうな盾のデコボコが至近距離にある。


「私の勝ちだね、騎士さん?」

「くっ、殺せ!」


 ムムがにっこり笑うと、心までは蹂躙されてたまるかとばかりに男は悔しげに叫んだ。


「いや、殺さないから」


 ――人をなんだと思っているのさ。


 ムムは優しいダンジョンマスターを目指しているのだ。不要な殺生はしない。


「負けを認めたんだからそのままでいてよね」


 男は忌々しげに見上げるが、もう戦う意思はないようだった。

 騎士としての誓いは守ってくれるらしい。


「よし、じゃあ他の皆の援護しに、うひょっ!?」


 ムムの横を男が転がっていった。


「よっしゃあ!」

「ばかなっ」


 転がっていたのは敵の一人。

 サーソの援護を受けたシケボモが勝利したのだ。


 さらにウモに至ってはムムよりも早く相手を倒していた。


 残すはトバズ一人だけ。

 だが、彼だけは別格だった。


「騎士が敗北するとは情けない」


 ウモの風分身をいともたやすく真っ二つにしていた。無傷である上、疲れた様子もない。


「あれ? あっさり?」


 過去の二度はかなり苦戦していたはずだ。あれはなんだったのか。


「二度戦っているのもあるが、偽物だとわかっていたからな。対策も取りやすい。それに他の戦闘に気をとられて若干操作がおざなりだった」


 ということらしい。説明してくれたのは余裕の現れであろう。


「なるほど、次に活かすよ」

「次があると思うか」

「うわー、強そう……」


 改めて対峙するとトバズが発するプレッシャーは尋常ではなかった。


「おいおい、ビビってんのか?」

「回復は任せてください」

「連携していきましょう」

「みんな……」


 そう、ムムには頼れる仲間がいる。

 一致団結すればどんな相手にだって――




「これで終わりだ」


 ムムの首筋に刃が添えられた。

 シケボモもラギリもサーソもウモださえも彼の凶刃の餌食となり、冷たい岩肌に寝そべっている。


 途中までは互角だった。いや、優勢ですらあったのだ。

 でもそれは相手が切り札である魔法を解禁するまでの話。


 魔法を発動した途端から一方的だった。勝負にすらならなかった。

 おそらくは身体強化の魔法である。姿を追えなくなり、シケボモが真っ先に沈み、そこから仲間が次々とやられていく。


 ムムの盾さえも軽く真っ二つにされてしまった。その結果が急所に突きつけられた剣なのである。


 この状況ではダンジョンコアの力は使えない。

 ギルドからの援軍もまだ到着しない。


 もはや現状を打開する術は残されていなかった。

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