籠窟戦
ウイングモルフのウモの風分身によるダンジョンでの開幕戦は二時間で終了した。かなり粘ってくれたのではないだろうか。
「ウモくん、お疲れ様」
ムムは、無事に帰ってきてくれてありがとう、の気持ちを込めて戻ってきたウモのもふもふな羽を撫でてあげた。魔力操作で精神を大分すり減らしたのか、ヘロヘロである。けれど、やり遂げたことをアピールするかよように羽を大きく広げた。
「ふへへっ、ゆっくり休んで。あとは私達が頑張るから」
ウモは疲労でしばらくは戦えない。
アピールが可愛くて変な笑い声を漏らしたムムは次のプランに移ることにした。
「ツト」
「任せなさい」
第二プランはツトが発案したもの。
ダンジョン経営では素晴らしい手腕を見せてくれているので期待が持てるだろう。
第三回村人会議では言葉を発せずに時間稼ぎの方法を考えてくれていた。こうなることを見越していたようだ。
「頼んだものは用意できた?」
「うん、言われたように設置してきたよ」
ツトがあれで何をするかはわからないが、もしかしたら三日持つかもしれない。
「じゃあ見届けてくるわ」
「気を付けてね」
「ヘマはしないわ」
ムムは期待を胸に見送ったのだが、
「なんなのあいつら!?」
ものの数分で帰ってきた。
聞くまでもなく大失敗だったようだ。シケボモに第三プランを実行するようお願いしてから訊ねる。
「えっと、何してきたの?」
「宝探し」
「え?」
まさかの答えが返ってきた。
たしかにムムは壁に銀貨を埋めるよう頼まれた。それも壁を削らないと取れないが、きちんと見えるように、と複雑な注文で。一つだけはサービスで取りやすくもした。
まさかそれが宝探しだとは。ムムは考えもしていなかった。
「あいつら捕まえるんでしょ? だったらお金も戻ってくるだろうからばら蒔いたのよ」
皆お金が大好きだから夢中になってお金を集めるだろう、と。
「それなのにあいつらすぐ諦めて先へ進んだのよ!? 信じられない! お金に対する敬意も執着も足りないし、あんなんじゃ、金持ちにはなれないじゃない!」
「あ、うん……」
ということで第四プランへ。
シケボモの結果は語らずともいいだろう。
四人目の刺客はムムだ。
「ふっふっふっ」
ダンジョンマスターとしての意地を見せるよ、と、意気込んでトバズ盗賊団を迎え撃った。
ムムが仕掛けたのは物理的封鎖。
村に捨ててあった廃材をこっそりワープさせてあったので、通路一杯に詰め込んだのだ。
ただ、この策には魔力の流れを阻害してしまうという大きな欠点を抱えていた。ダンジョンは血液のように魔力が張り巡らされていないと崩壊してしまう。メインルートとなれば尚更だ。
ならば、と、ムムは上にある程度の隙間をつくって最低限の流れを確保した。これでダンジョンはほぼ不自由なく機能する。ギリギリのラインを見極められるダンジョンマスターならではの裏技だ。
「あー! ズルい!」
その隙間から突破されてしまったわけだが。
廃材を無造作に積み上げただけなので、登るための足場は十分にあり、多少の時間はかかったが乗り越えられてしまった。
記録三十分。
「その様子じゃ、凡ミスでもしたようじゃの。まだ若いんじゃし、そんなこともあろうて。なに、その分はワシがどうにかしてやるわい。年の功ってやつじゃな。それに、この封印の縄も用意してもらったんじゃ。百人力よ」
五番手村長、記録二十分。
搦め手だったが力任せに破られる。若い力を侮った結果であろう。
終わった後はしょんぼりと薬湯に浸かっていた。テンとマツによる心のケアが望まれる。
「次は俺か。自信はないが……」
六番手ラギリ、記録四十分。
簡単な策ながら最大限の効果が出るも、これが限界でもあった。
「お母さんに任せなさい。この縄でふん縛ってやるわ」
七番手ミミ、記録一時間。
大打撃を与えて捕まえるまで後一歩なところまで追い詰めたのだが、敵リーダーの機転により失敗。欲をかかず、時間稼ぎに終止すればよかったと後悔することに。
「次は――」
etc. etc. etc.
結局、一番成果を出したのはマツであった。
亀裂の部屋にラモビフトを待たせておき、発見されたら亀裂へ逃げ込こませた。
これにトバズ盗賊団はそちらに戦力が隠されているかもしれないと勘違いし、慎重に降りていくも、ただの亀裂。行き止まりなのである。
しかも下に行くにつれて狭くなっており、体が挟まって身動きが取れなくなる者も出た。全員が脱出するのに四時間以上かかり、休憩を余儀なくされたのだ。
マツとラモビフトのお手柄である。
ちなみにラモビフトは亀裂の底に排水のため用意してあった穴へ逃げ込んで、距離がとれたところでワープさせた後、もふもふ。
マツもわしゃわしゃと撫でながら褒めた。
「と、皆のアイデアで頑張ったけど一日半しか持たなかったね」
「防衛の為に準備していたもの全て打ち破られるとはな」
こういう日が来ることに備えていた罠や、即席のそれまで全てクリアされてしまった。
ここまで早いとはムムにとってもラギリにとっても驚きである。
「仕方ねぇよ、相手が強すぎだ」
シケボモに至っては諦めの境地に達しているようだ。しかし、カナィド村の皆を守ることは諦めてないらしく、武器を持った手には力が入り、目には闘志が燃えている。
今、三人は薬湯に繋がる通路で待ち構えていた。ここなら一度に戦える人数にも限りがあるので少人数でも戦いになる。
さらに味方への誤射を恐れて弓矢や遠距離魔法も使えないだろう。
「私も微力ながら力を貸しましょう」
「ありがとう!助かるよ!」
そこにサーソが加わった。弓を持っていることから援護射撃してくれるようだ。こちらは数が少ないので誤射も気にしなくて済むである。
さらに魔力と精神力を回復させたウイングモルフのウモも参戦するので現状望める最高戦力がここに揃った。
「その前に一ついいですか?」
「ん?」
サーソはムム達の頭の上を睨んで怖い顔をしている。
なにか変なものが、と、触ってみるともふっとした感触がした。
「あっ」
「頭の上のラモビフトは降ろしてあげた方がいいのではないでしょうか」
「忘れてた」
慣れとは怖いものである。ずっとラモビフトを頭に乗せていたのだ。
ムムはもちろんのこと、シケボモやラギリもバツが悪そうにしながら薬湯の方へラモビフトを逃がした。
これで準備は万端。体も軽くなった。
そこへ通路の向こうにトバズ盗賊団の姿が見えてくる。
「誰も死なせないから!」
戦闘は間もなく始まる。
強い決意を胸にムム達は挑むのだった。




