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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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察知

 最初に異変を察知したのはムムであった。


「あれ? なんかあっちの方から……」


 ――ぐぎゅるるる。


 もうすぐお昼の時間だったのでお腹も異変を察知したのだろう。

 盛大に主張してくれた。


 しかし、これしきのことで恥ずかしがるムムではない。そもそも恋愛対象ではない相手に腹の虫の音色を聞かせたからってなんであろうか。


 ムムは平然と言葉を続ける。


「な、な、んか、あっ、ちに? け、気配、ある、よ、ね……」

「ムム、あんた動揺しすぎ。ほらこれ」


 強がりお疲れさまであった。ムムは乙女なのだ。

 ミミはそんな我が子にあらかじめ用意していたそれを差し出した。


「こっ、これはっ! 濡れ雑穀握り!」


 殺菌作用のある葉っぱにくるまれていた茶がかった黄色い粒々を握り固めたもの。

 それはムムの大好物の一つであった。


「いっただ――」


 ――きます、を言う前からかぶりついた。

 もう、待てなかったのだ。


 噛んだ瞬間にほろりと雑穀がほどけて口の中に広がる。しかも、ただの雑穀ではない。山で採ったキノコから煮出したダシを吸わせた雑穀なのである。噛むたび噛むたび、水気を帯びた旨味が舌を転がっていく。


「シャダケ《キノコ》のエキスで染められたギッコ《雑穀》とワワワ《雑穀》が混ざりあって……くぅ、たまらん」

「俺らも堪らんのだけど」

「あぁ」


 ムムがとても美味しそうに食べるのだ。シケボモもラギリもつられて空腹を自覚してしまう。

 ちらりとミミを見ると手には別の濡れ雑穀握りがあったが、あんたらの分は用意してないよ、と睨み返された。

 自分の分は自分で用意しろ、である。


「まぁ、いい時間だし一旦戻るか」

「まっふぇ《待って》」


 シケボモが仕方ないので戻ろうとしたのだが、むぎゅむぎゅ幸せそうに噛み締めていたムムがそれを止めた。


「ふぉうしたの《どうしたの?》」


 同じくむぎゅむぎゅしていたミミが訊ねる。やはり親子なのだろう、その食べ姿はそっくりだ。


「あふぉへ《あのね》」

「飲み込んでから喋ってくれ」

「ふぇっ!?」


 ラギリの心無い言葉に、ムムは目を見開いた。

 濡れ雑穀握りとは舌を旨味で洗ってくれる極上の料理である。それを少し堪能しただけで――


「ムムねーちゃんだ!」

「んぐっ、テン、おはよー」


 飲み込んだ。

 天使の御前である。躊躇などなかった。


「どこ行くの?」

「だんじょん、いこーとしてた!」

「そっかそっかー」


 テンがダンジョンに行くのはもはや日課。今日も遊びに来てくれるようだ。


「ムムねーちゃんも、いっしょにいこ」


 上目使いで体を揺すってくる無計算ながら、あざと可愛い。

 これは二つ返事で了承したかったのだが――


「ごめんね、私たちは用事があるから先にお母さんと一緒に行っててくれる?」

「うー、わかった……」

「ムム?」

「お願い」


 それを見てしまったからには断るしかなかった。

 ミミが普段とは違う我が子の行動を訝しがったが、ムムが目を見てお願いすると、それ以上はなにも言わずにテンを連れていってくれた。


 ムムはダンジョンマスターとなって五感が研ぎ澄まされている。ご飯がより美味しくなった一方で、聞こえ過ぎたり見え過ぎたりもしてしまう。寝るときには耳栓が必要となったぐらいである。


 そのせいで朝の目覚めが悪くなったが、今回はその五感の強化がプラスに働いた。


 村から他の村へ続く道の脇に広がる森。そこを歩く怪しい集団をムムは見つけたのだ。

 先程から僅かながら感じていた異変の正体はそれなのだろう。大方、歩く音を無意識に拾っていたのだ。


 そこで問題なのは彼らが道ではなく森を進んでいるということ。それもコソコソ隠れるように。


 村に入りたいなら堂々と来ればいい。そうせず隠れているということは、村に何らかの危害を加えるつもりだろう。

 話し合いで帰ってくれるなら嬉しいところだが望み薄である。


「シケボモ、ラギリ」

「あぁ」

「来てるな」


 二人もムムの視線を追って彼らを見つけていた。


「ちょっくら席はずすぜ」


 シケボモはちょうど近くに自分の家があったので戻り、すぐに戻ってきた。

 さっきのラフなものから、冒険者時代に使っていた武器防具へと姿を変えたのだ。


「ほらよ」

「おっと」


 さらに、ラギリに剣を投げた。


「使えるだろ?」

「専門は治療なんですがね」

「念のためだ」


 この村で最低限の戦闘力を有する者は両手で足りる人数しかいない。

 相手の出方次第であるが、ラギリも戦うことになるだろう。念のためなんて嘘っぱちだ。


「ムム、そっちはまだか」

「黙ってて」


 ムムは目を瞑り、集中力を高めていた。これはまだ練習中で成功率は低いが、ダンジョンまでは距離があるので走るわけにはいかない。


 ――よし、一発で決める!


「届け! マジックソナー!」


 ムムは体から魔力の波を発生させた。その行き先はダンジョンコアなのだが、道中にいるであろうウイングモルフも受け取ってくれるだろう。

 本命はそっち。この波を感じ取ったならば、とある行動を取るよう仕事を頼んであった。


 ――届いて!


「グォォォォォォォォッ!」


 ムムの願いが通じたように村に爆音を轟いた。


 これはウイングモルフの起こした烈風。村全体に向けた緊急事態を告げる合図だった。

 これで村人達はダンジョンへと避難を始めてくれるはずである。


 ただ、あの音は相手にも聞こえていたわけで。


「野郎共! 気付かれたようだ! 一気に制圧しろ! 邪魔するやつは全員裁け!」


 森から集団が飛び出してきた。

 御揃いの防具を着た彼らはなぜか血まみれであったが、全速力で村へとなだれ込もうとしている。


「あいつらはトバズ盗賊団だ!」

「だれが盗賊団だァ!」

「裁くぞッ!」


 御揃いの防具を見て彼らの正体を看破したラギリが叫ぶと、敵の走る速度が増した。かなりご立腹のようだ。


「あのっ、話を聞いてっ」

「そんな時間はない!」


 やはり話し合いは無理であった。


「交渉決裂ってやつかな。さぁ、時間稼ぎと行きますか」


 シケボモが剣を抜いた。


「無理はしちゃダメだよ」

「わかってるさ」


 三対三十。


 数の差は歴然だがムムがいる。

 コアから離れているため、使える能力はかなり限られてしまうが、二層まで達したダンジョンのマスターがいるのである。


「みんなを守りきる!」

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