捜索
ギルドの冒険者達も行方不明となった男の捜索を独自に始めていた。
善意からというよりはギルドからのダンジョン調査依頼の延長。依頼料も上増ししてもらうつもりであった。
彼女達が得意としているのは戦闘でなく調査で、専門家と言っていいだろう。ギルドからも信頼されており、今回の件にはうってつけの人材だった。特にリーダーのサーソは数々の難事件を解決している探偵でもある。
証拠隠滅されないよう、ムム達よりも先にあの家を調べていたと手際の良さだ。
もちろんカナィド村側にも配慮し、村長から許可を取り、ツトとウウを案内につけている。完全に好き勝手しているわけではなかった。
そんな彼女らは犯人像をある程度絞り込んでいた。
「あの家に不自然なことはなかった。不自然なぐらいにね」
「うんうん、逆にそれが事件の臭いをさせてる。犯人はかなりのやり手だよ」
「あと外部犯ぽいよね。ここの村人に出来るとは思えない」
既に村人の一人一人までチェックしており、その上で犯行は不可能と判断していたのだ。
それを聞いたツト達はホッと胸を撫で下ろす。しかし、それはつかの間だった。
「これは経験からくる勘のようなものだけど、頭はいいけど神経質で傲慢な人間の犯行だと思う。この村に怨みもあるかもね。社会的地位を貶めてから潰そうとしている感じ」
「わかるー」
「ぽいよねー」
「えっ」
ツトの脳裏にとある人物が思い浮かんだ。
――ウゴヨク。
頭がそれなりに良く、傲慢であり、この村に恨みを持っている。護衛役の女、ゾトを使えば密室の再現が可能かもしれない。
しかし、弱味を握っているので迂闊な行動は起こさないはず。だからこそ、村の人間を直接狙わなかったとも考えられた。
「だれか心当たりがあるようだね」
「……」
サーソに察知されてしまったらしい。ツトは内心失敗したなと舌打ちした。
「――という一件がありまして」
「ふぅむ、なるほどね。ありがとう、参考になったよ」
隠しても村の不利益になりそうだと判断したツトは一連の流れを話してしまった。さすがにムム関連は伏せているが。
「それと、この件は……」
吹聴されるのも困るので控えめに口止めを頼むと、
「わかってる。ここだけの話にしておく」
「情報は命だからね」
「私たちが漏らしたらたっぷりと保証を請求してくれていいからっ。ギルドに」
快く了承してくれた。仮に外に漏れてしまえば秘密が秘密でなくなり、ウゴヨクを縛る鎖が無くなってしまう。そうすればどんな暴挙に出るかはわからない。
それは彼女達もわかってくれていたのだ。
「さて、情報のピースは揃いつつある気はするけど決定的なものが欠けているね」
「犯人がウゴヨクだと思っていらっしゃるんですか?」
「否定はしないかな、っと、なんで村の真ん中に大穴開いてるの? 井戸じゃないよね。地盤沈下?」
柵で囲ってあるが危険極まりない。
サーソが覗き込めば、そこはかなり深い穴であった。落ちれば普通の人であれば最低でも大怪我、下手すればあの世行きだろう。
「そこは慰霊碑が設置されている部屋で、ダンジョンの一部なんですよ」
ここは元村長の家があった所。ウゴヨクを落とすためにムムがダンジョンパワーで地面をごっそり持っていった場所なのだ。もちろん彼女らには秘密である。
「そうなのか……。後で手を合わせに行かせてもらってもいいかな」
「はい、ラモちゃん達も喜びます」
「おや、ラモビフト達の慰霊碑なのか」
サーソは驚いた。てっきり、この村を作った開拓団の物だと思ったのだ。未知の地を切り開くのは困難であるから犠牲者は少なくないだろう。それを感謝し、忘れないようにするためだと。
しかし、それは違うという。
ここのラモビフトが可愛く癒してくれるのは認めるところだったが、なぜ慰霊碑を建てるに至ったのか疑問である。
だが、すぐに納得してしまった。
「はい、ウゴヨクの手にかかってしまったラモちゃん達です」
「あぁ……」
先程聞いた話にもその件はあった。
そこで犠牲になったラモビフトを慰めるためのものだったのだ。
「あんなに可愛いのにな。どうして、そんな非情なことを……」
「全くだよっ!」
「聞いただけなのにムカつくね!」
仲間の二人もぷりぷり怒っていた。
これはますます、お参りしなくてはならない。今すぐ行くべきであろう。
けれど、その前に一つ提案があった。
「この穴には縄網でも張り巡らせて危険を減らした方がいいんじゃないか?」
「あら、それはいいですね。今度提案してみます」
埋めるのは魔力を喰いすぎるので後回しにされていたが、網縄ならそこまでかからないはず。ナイスアイデアである。
「よし、それでは慰霊碑の所まで案内してくれないか」
「喜んで」
こうしてダンジョン入口のボロ小屋までやって来たのだが様子が少し違っていた。なんというか階段から昇ってくる空気が少し違うのだ。
ピリピリしているというか、威圧感を放って震えている感じである。
「む? 何か飛んでくる?」
ダンジョンは薄暗いがほのかに発光しているため奥が見通せる。
サーソの優れた視力は羽ばたく巨大な羽を捉えた。
「あれは薬湯にいたウイング・モルフか?」
「ん、それって……」
ツトは眉をひそめた。ウイングモルフは基本的に薬湯の守護者なのだ。
入口は管轄外なはずである。
だが、サーソの見間違いなどではなく本当にウイングモルフであった。
ツトが気付いたのは、聞きに徹して空気だったウウが叫ぶのと同時であった。
「耳を塞げ!」
――緊急事態の合図!
ウイングモルフはその羽をより高速で羽ばたかせ、そこにある空気を滅茶苦茶にかき乱す。そして前方へと発射する。
耳を塞いだ五人が横へ飛び退いた次の瞬間――
「グォォォォォォォォッ!」
烈風が村に爆音を轟かした。
それはさながらダンジョンの咆哮。
事件はツト達の知らないところで既に始まっていた。




