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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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プロローグ

「食える、食える、食えない、食える……かも」


 とあるドを越えた田舎のさらに山奥で一人の少女は山菜積みに勤しんでいた。

 手際よく引きちぎるような採取。


「あっ、真っ二つに割れた。ま、いっか」


 ガサツ系女子である。

 失敗しても気にせず背中の籠へぽい投げだ。


 それから暫く採取を続け、背負った手作りの、もちろん母親製の、籠がいっぱいなったところで少女は立ち上がり汗をぬぐった。

 かなりの量を採っており、背中からずっしりとした重さを感じるはずだが、少女の足腰はモノともしていない。見た目は華奢な村娘だが溢れんばかりの野生力を兼ね備えているのである。


 化粧の代わりに泥をつけているので女子力はゼロだが。


 それでも彼女は村一番の美少女であった。美人コンテストがあればミス・カナィド村に慣れるだろう。二位は五才のマツだ。


 この少女は十五才なのでライバルとしてはいささか年が離れているが、他に年頃の女の子はおらず、マツは利発な子なので少女のライバルとしては相応しいだろう。


 それに本当のライバルでもある。


 少女には夢があった。彼女の住む村、カナィド村には天使がいる。名前はテン、年は五才。絶世の美少年である。

 少女の美貌は所詮村レベル、聖王都では中の下ぐらいだが彼は違う。上の上、将来有望なイケメンなのである。


 辺鄙な村に舞い降りた天使。そんなテンと結婚することこそ少女の夢だった。


「ぐへへへ」


 そんなテンのことを思い出してニヤける少女の元に運命が訪れる。


「…………!」


 木の枝が折れたような音がした瞬間、少女は息を殺して隠れた。


 この世界には魔物というヒトに害なす生き物がいる。この山にもそんな魔物がいるのだが幸いにも強くはない。


 だからと言って正面から戦えば怪我をしかねないのでやり過ごした方がいいので少女は隠れたのだ。

 肌に傷がついてはテンに申し訳ないという思いもある。


 息を潜め、音がした方をじっと見つめていると白くてしわくちゃなそれは現れた。


「あいたたた……全く、今日は厄日じゃわい」


 老人だ。真っ白なマントを纏った老人が息を乱しながらやって来たのだ。


「大丈夫ですか!?」


 見知らぬ老人だったが少女は籠を投げ捨て飛び出した。この山は楽に登れる山ではない。ガサツでも優しい彼女が心配するのは当然だろう。


 父親から常日頃言われていた「変な場所で出会ったヒトは賊と思え」という忠告も忘れ、手を差し伸べると――


「おぉ、お主、ちょうどよかった」

「え?」


 白いマントの下から取り出した真っ赤なやや大きな石を乗せられてしまう。


 少女が分岐点を進んだのはこの瞬間だろう。触れただけでわかったその石の危険性。もし、過去をやり直せるならやり直したかった。


 だが、後悔してももう遅い。

 虚ろな光が溢れだし、少女の体を飲み込んだ。


「いやぁぁぁぁぁっッッ!」


 山にかん高い悲鳴が木霊する。

 そこには痛みしかなかった。神経を直に引っ掻かれるような突き抜けた痛みだ。身体中が喉以上の悲鳴をあげている。


 思考が塗りつぶされるほどの痛みが駆け巡っていたというのに、少女は全てを理解していた。


 ――ああ、私、ヒトじゃなくなっちゃった。もうテン君と結婚できないよ。


 少女の悲観的な考えは正しい。

 愛するあの少年と結ばれることは未来永劫絶対になくなってしまった。


 このお話は、ヒトを辞め生涯独身を貫くことになる少女、ムムのお話である。


 ちなみに、この老人と出会わなくてもムムは生涯独身であった。

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