お爺ちゃんと風呂上がりアイス
タマちゃんとオセロで遊んでいる時に母親に呼ばれたので、食事の支度を手伝う為にキッチンにダッシュ。
うちでは、ごはんよーと呼ばれてカウント60以内に駆けつけないとご飯抜きなのだ。
これは、前にゲームに夢中になって生返事を続け怒られて以来、鉄のルールとなっている。
ちなみにオセロは1勝1敗の3戦目だったので、引き分けとする事にした。
今日の晩ご飯メニューは、豚汁と豆腐のソテーに肉味噌を乗せた物。最近母親は豆腐料理が多いが、これは豆腐料理のレシピ本を最近買ったかららしい。
俺がテーブルを拭いている間に、タマちゃんがご飯を四人分どんどんよそって運ぶ。
箸と豚汁のお椀を二人で運び、ついでに自分とタマちゃん用の納豆を冷蔵庫から出して持っていく。俺が両親用にお茶を入れて、タマちゃんが俺達の席に牛乳を置く。数日の間に役割分担もしっかり定着していた。
タマちゃんも、うちにきた最初の数日は来客用の食器を使っていたのだが、母親が可愛いキツネのイラスト付きのを買ってきたので昨日から専用のお茶碗になっている。
もう完全に家族として溶け込んでいるなぁ。
「頂きます」
「ます!」
「はい召し上がれ」
「うむ、頂こう」
さっそく、タマちゃんが豚汁の中の人参を箸でつまんで俺の豚汁に移動させてくる。
人参嫌いじゃないからいいんだけどさ。好き嫌いするなっていうべきなんだろうか。
「こら。好き嫌いせずに食べなさい」
そんな事考えてたら、お爺さんが代わりに叱ってくれた。
「えー」
「タマちゃん?バランス良く栄養取った方が美容にもいいのよ」
嫌がるタマちゃんに母親が追撃。
さすがは女の子というべきか、こういえば嫌々ながら食べる。でも既に俺のお椀に移動させた分は回収しない。まぁ、そこは追求せずに食べといてやるか。
母親には、ご飯食べながら牛乳飲むのは気持ち悪いって言われるんだけど、何が気持ち悪いんだかわからない。
だって小学生の時の給食だと、ちらし寿司でも焼きそばでも、飲み物は牛乳だったわけだし。
「この肉味噌は少し味が濃いのぅ」
お爺さんが納豆に手を伸ばしながら言う。俺もそうおもったけど、ご飯とか豆腐に乗せて食べる分には濃い目でいいんじゃないかな。
「あら、じゃあ次に作る時はすこし薄目で作らなきゃ。でもお父さんが濃い目が好きだからついついそうなっちゃうのよね」
「味付けが濃くなると身体にも良くないぞ」
お爺さんに言われて、母親もそうね―気を付けなきゃ等と返してる。
……?
……なんか違和感。
郊外に一軒家を買った為に通勤時間2時間の父親は、大抵晩ご飯の時間には居ない。
俺は一人っ子で、最近うちに来たタマちゃんを入れても4人の家族。
今食事をしているのは4人。あれ、あってるな。いいのか。
納豆をご飯に掛けようと思ったら、用意したはずなのに無い。
隣でタマちゃんが混ぜ始めたのを見てみると…挽き割りだな。俺のじゃない。
しかたないので、キッチンに行ってお爺さんが味が濃いと言った肉味噌の余ってた分をご飯に載せて食べる。
うん、旨い。
食べ終わった食器を流しに運び、タマちゃんと風呂に入る。
初日は母親と入っていたタマちゃんだが、次の日からは俺と一緒に入ろうとしてくるので、キツネモードのみ許可すると言い含めてある。
人化モードで風呂に乱入とかされると、ちょっと…困る。男の子と大して変わらないぺたーんとは言え、目のやり場に困る事は変わらないし。
ふわふわのぬいぐるみみたいな姿になり、シャンプーハットをかぶったタマちゃんにお湯を掛けてシャンプーを泡立てる。キツネモードだと短い手足が背中に届かないらしくて、人化しない代わりに洗ってあげる約束をしている。
キツネと人間の骨格が明らかに違うんだけど、妖怪の骨格ってどういう仕組みなんだろ?変身する一瞬で骨が伸びているのだろうか?
タマちゃんに聞いてみても
「見上げ入道さんなんか大きさ何十倍にもなるし。子泣きじじいさんはもっとしつりょうほぞんの法則が乱れてるよ」
とか、さらなる謎を提示されてしまった。案外、物理法則ってあいまいなのかもしれない。
背中と尻尾を泡だらけにして洗い終えたので、おけに汲んだお湯で一気に流す。
「きゃーー!」
滝のようにお湯を掛けられるのが楽しいらしくて、タマちゃんはいつも歓声をあげる。濡れると毛皮がぺしゃんこになるので、プルプルって身体を震わせて水を飛ばすしぐさが子犬みたいでちょっと面白い。
「ありがとー。純もせなか洗ってあげるよ」
「またくすぐろうとするからダーメ」
「えー、いいじゃん」
隙あらばイタズラしようとする子狐を抱えて湯船に放り込み、タオルで背中を洗う。
タマちゃんはキャッキャと騒ぎながら潜ったり浮かんだり。
結局構って貰えれば楽しいらしい。だんだんわかってきた。
風呂からあがると、ちょうど父親が返ってきた所だった。珍しく早い!
「お父さんお帰りなさい。ねぇ純?あなたお父さんの分のお豆腐食べちゃった?」
「食べてないよ?」
「貴方最後にキッチンに行ったじゃない?その時、お父さんの分まだあった?」
母親が奇妙な事を聞いてきた。あるはずないじゃないか。あれ?
スーツを置いた父親が食卓につくが、豆腐が無い。豚汁は…まぁ汁モノだから少し余ってたけど、ご飯をよそった茶碗も来客用。
「あれ、今日これだけ?」
父親が不満そうな声をあげると、パジャマに着替えたタマちゃんが飛び込んできた」
「ママさん、アイス食べていい?」
「いいわよ~。抹茶のは取っておいてね」
「はぁい」
パジャマに着替えたタマちゃんが、風呂上がりのアイスを食べようと冷蔵庫をバタバタしている。
「アイスないよー?」
「お父さんの分のおかずも無いのよ」
「まぁ、豚汁だけでも良いけどさ?」
さっきの食卓を思い出す。
今日のメニューは、豚汁と…これはある。豆腐ソテーに肉味噌を乗せた物…の肉味噌は俺が食べちゃった。納豆が無かったから。
俺とタマちゃんが並んで座ってて、母親が正面に居て、その横の席にはお爺さんがいて……
「さっきのお爺さん、だれ?」
母親の頭の上にハテナマークが浮かんだ。
「お爺さんって?」
「タマちゃん、さっきいたお爺さん、誰か知ってる?」
うちは3人家族+タマちゃんで4人。食卓に4人いた。
普通にご飯食べてたけど、あれ誰だか知らないぞ。するとタマちゃんが目からカッと光を放射しながら叫んだ。
「ぼくのアイス食べたの、あのぬらりひょんか!」
「ぬらりひょん?」
「パパさんの分のごはん食べてた妖怪」
全員無言。あれ妖怪だったのか……
ぬらりひょんというのは、つかみどころがなくひょうひょうとした態度で他人の家に上がり込み、飯を食って行く妖怪らしい。
父親が豚汁と婆ちゃんの漬物の最後の残りでご飯食べながら教えてくれた。
父親は納豆食べたかったらしいけど、挽き割り納豆の最後の一個はタマちゃんが食べちゃったので、もう冷蔵庫に無かった。
我が家に置いては、妖怪って言うのはとっておいた食べ物を食べてしまうというモノらしい。
純君は両親をパパママと呼んでいたのを同級生にからかわれて以来、父親・母親と呼んでいます。
両親はお互いをお父さんお母さんと呼んでいますが、これは純君がそう呼びやすくする為で、以前はパパママと呼び合っていました。
タマちゃんはなんとなくパパさんママさんと呼んでいます。