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神社への散歩

家に帰ってきた次の日。

早く試したい事があったので、朝早くから起き出した。

本当は旅の疲れをとる為にも、ゆっくり寝ていたかったのだけど。

あんまり疲れていなかったし。考えてみれば婆ちゃんの家で連泊してるし、帰りは電車だったもんな。


眼をショボショボさせてぐずっているタマちゃんを無理やり起こして、朝食を食べさせる。

舞原家では、朝食に限ってはセルフサービスと母親が主張するスタイルになっている。

味噌汁は母親が作っておいてくれて、ご飯も炊いてある、おかずは自分で適当に用意するきまりなのだ。

たぶん、父親と俺の出かける時間がズレているから、両方に準備するのが面倒だったからだと思う。

なので、いつも通りに朝ごはんの支度をする。

フライパンにベーコンを並べてから火にかけ、熱くなりながらベーコンの脂が出てきたあたりで卵を割りいれる。ベーコンも卵もカリカリじゃない方が好きなのでこう言う作り方にしている。

味噌汁を温めてよそい、漬物とご飯を食卓に並べると、顔を洗い終えてようやく目を覚ましたタマちゃんが冷蔵庫から出した納豆をかき混ぜていた。

……挽き割り派か。

冷蔵庫には父親用の挽き割り納豆と、俺専用小粒納豆があったのだが、タマちゃんはどうやら敵対派閥のようだ。ちなみに母親は納豆否定派。


「いただきます」

「ます」


手を合わせて語尾だけ発音したタマちゃんに、今日の予定を伝える。


「今日さ、近所の神社とか、お寺とか行ってみようと思うんだ」

「しぶいしゅみだね?」


納豆を混ぜる手を一瞬止めて、ニヤリと笑みを浮かべてワクワクした視線を寄こす。

なんでニヤリなんだ。タマちゃんお寺を見て回るの楽しみなのか?


「いや、趣味なんじゃなくってさ。俺が入れない場所とかあるのかな?って思って。タマちゃん苦手な場所とかある?キツネ的に」

「お菓子屋さんとか苦手かな~。動けなくなるよ」

「それ、動きたくなくなるダケでしょ。買って貰えるまで」


ばれたかと呟き、味噌汁かけご飯をかき込むタマちゃん。納豆は混ぜるだけなのか。


「婆ちゃん家でさ、お札は燃えたじゃない。ああいうお札って苦手だったりするの?」

「びっくりはする。でもそのていど」


きっちり半分にわけた目玉焼きを頬張った後は、ご飯を一粒残さずつまんで口に運んでいる。握り箸で良くあんな細かい動きが出来るな。

ついつい面白いのでタマちゃんの動きを観察していると、ご飯を食べ終わった後でニコニコしながら、混ぜまくった納豆を啜り込んだ。

え!ご飯にかけないで単体で行くんだ!そういう食べ方もあるのか……

いや、最後に食べるって事はデザート扱いなのか?


「純!早く食べて。純の心配してる事とかためしてあげるから」


タマちゃん観察が面白くて、ついつい見入ってしまった為、味噌汁はすっかり冷めてしまっていた。

仕方ないので、タマちゃんと同じようにご飯にかけて一気にかき込んだ。うおぉん、俺の胃袋は火力発電所だ。


手を繋ごうとしてくるタマちゃんの手を避けながら、お寺までダッシュ。

狐モードならともかく、人化状態で手を繋ぐのはちょっと恥ずかしい。そう言ったら目を輝かせて手を掴みに来たので、逃げ回っているうちに全力での追っかけっこになってしまった。


「ゴール!」


お寺の敷地内についた所で捕まった。

本堂の前まで来てみるが、プレッシャーを感じる事も見えない壁にぶつかることも無い。


「よし、じゃあ次はあっちの神社まで行ってみようか」

「じゃあ次、純がオニ!」


と叫んでタマちゃんがててててっと走りだした。

あれ?そういう遊びだっけ?よくわからないけど、全力で追い掛ける。

タマちゃんは、足全体を地面にパタパタ打ち付ける子供走りなので、全力で走ればすぐに差は縮まった。胴体にタックルするようにして抱えあげて捕獲成功。


「捕まえた!俺の勝ち!」

「おーろーしーてー」


楽しそうに足をバタバタさせさせるタマちゃんを肩に担ぎあげて、手をつなぎたかったタマちゃんの思う壺になってる事にようやく気が付いた。

悔しいので、担いだまま神社まで歩いてやった。

……いい筋トレになるかも。


神社の前でタマちゃんをおろし、並んで鳥居をくぐる。

うん、なんともない。

ふーっと大きく息を吐いた。

せっかく来たのでお参りもしていこう。前に婆ちゃんから教わったやり方で参拝する。

確か……手水(ちょうず)から柄杓で水をすくって、両手と口をゆすいでから柄杓の柄を洗って戻すとか、二回お辞儀してから二回手を叩いてまたお辞儀するとか。こんな感じだったかな。

鈴を鳴らすのはタマちゃんがやりたいというので、ガラガラと鳴らして貰う。


「えんむすび?」

「ちがうよ、確か火除けとかどっかに書いてあったよ。」

「じゃ、えんむすびのとこも行こう」

「タマちゃんは、縁結びよりオムスビのが好きなんじゃない?」

「それも好き。オカカの食べたい」


手を合わせながら片目を開けて聞いてくるタマちゃんに答えて振り向くと、いつのまにか後ろに人がいて笑ってた。

うわ、まぬけな会話を聞かれた!

なんだか古めかしいややこしそうな服を着てるから、この神社の宮司さんなのかな?

こんな小さな神社にも居るとは思わなかった。


「小さいのにちゃんと作法とか知ってて偉いね」

「祖母に教えて貰ったんです。意味とかわからないし、ちょっと間違ってたかもしれません」

「ぼくは純の見てまねしただけ」


正直、こういう風にする物って教えて貰っただけで、かなりうろ覚えなんだ。手水から見られてたらちょっと恥ずかしい。


「いや、形式を間違えた所で誰も怒ったりはしないよ。神を敬う気持ちから生まれた形式だからね」

「それならなおさら、半端に覚えたままじゃ良くないかもしれないですね。今度は父にちゃんと習ってまた来ます」

「そうだね、そうするといいよ」


ぺこりと二人で頭を下げて立ち去る。

なんかニコニコして優しそうな宮司さんだったな。せっかくだからちゃんとした参拝の方法を教えて貰っても良かったかも。


「ニコニコして優しそうな神様だったね。神様がわざわざ姿見せてくれるなんてめずらしいよね」


なんて事を、いつの間にか繋がれてた手をブンブン振りながらタマちゃんが言う。


「いや、今のは宮司さんだよ。神社の人。お寺で言う住職さんみたいな」

「違うよ、人間じゃ無かったよ?」

「え?」


思わず振り向いてみる。鳥居を出たばかりなのに、誰も見当たらなかった。

背中を向けている間に隠れたとか?いや、最初もいつの間にか後ろにいたけど、足音とかしなかったっけ。


「今の人、神様だったの?」

「うん」


タマちゃんに引っ張られるようにして、家まで歩いた。

手を繋いでなかったら座り込んでたかもしれない。それ位びっくりした。


とりあえず、父親に自慢してみよう。

で、ちゃんとした作法を教えて貰っておかなきゃ。



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