プロローグ
イリア・ソルフリートは、自殺志願者である。
池の様子を見に行ったり、首を吊れそうな丈夫な木を探している間は、心が一段と軽くなる。死ねるかもしれないという期待に胸が高鳴り、ずっと真っ暗だった世界が急に輝きを取り戻したような気さえした。
木漏れ日が降り注ぐ大樹の下で、小さな動物たちが身体を温めながら眠っている。近くには川も流れており、数か月探したこの場所で人生を終えるのは悪くないかもしれないと心から思った。
木の幹にロープをくくりつけると、渇いた喉からイリアは無理やり笑い声を絞り出す。昔、母が笑う人ほど幸せを呼ぶとよく言っていたが、確かにイリアはやけに心が楽になったような気がした。
青白く痩せ細った身体を奮い立たせ、ロープを首にかける。伸びっぱなしの黒髪が頬にかかるのも構わず、足場にしていた小さな岩を魔法で砕いた。途端に身体が落下し、首元にロープが深く食い込む。魔力を使い果たした身体は、そのまま宙にぶらんと垂れ下がった。こんな時でも身体は生きたいと叫んでいることが、イリアにはひどく滑稽に思えた。
──あともう少し。あともう少しで、イリアは救われるのだ。
視界は明滅し、音はだんだん遠くなっていった。恐怖と悦楽で全身に肌が立つ。光がやけに眩しく感じられ、イリアはますます高揚した。
次の瞬間、身体が地面に叩きつけられた。強い痛みを堪えながら首元から外れたロープを確認すると、魔法で焼かれたような痕跡が残っていた。興奮が解け、全身に痛みが押し寄せてくる。
──自殺は、何者かの手によって見事失敗した。




