第25話:【第5便】特選ステーキ五種盛り_5
「今週、当たりだったなぁ」
いや、今週、ではない。今週も、か。
そんなことを思いながら、段ボールに残った封筒を取り出して、テーブルの上に広げる。いつものアンケートだ。
これで五回目。私の意見が、少しでも参考になっているならば嬉しい。
黒いペンを取って、いつもどおり欄を埋めていく。自分でも、手慣れてきたなと思った。
「相変わらず、味については『とても良い』以外にないよね。むしろ、今後ダメなやつってあるの?」
それくらい、この項目は決まっていた。今まで食べた四品、どれも全部美味しかったのだ。五回目の今日だって美味しかった。
私は別に、特段料理が好き、というわけではない。だから、料理の腕に自信があるわけでもない。
となると、素材のおかげなのだ。素材が良いから、毎回美味しくいただけるし、アンケート結果も変わらない。
「えーっと、自由な感想が毎回一番悩むんだけど……」
少し考えてから、こう書いた。
「全部美味しかったです! やわらかくて、ジューシーで、付属のセットもレストランみたいでした。香りも最高で、焼いている時間がとにかく幸せでした」
もうひとつ、悩む項目がある。
「次回の配送で希望する食材・部位などがありましたらご記入ください、ね」
既に、食べたいものを届けてもらっている気もしている。しかし、折角聞かれているのだからと、ここはまた正直に書いておいた。
「ま、基本的に好き嫌いないし。ゲテモノ以外は何でも食べてみたいよね」
ペン先が止まる。はぁ、と笑って軽く息をつく。
今回は、かなり豪華だった。今までももちろんそうだったが、懸賞で当たったとはいえ、毎回無料なのは驚きしかない。
そのお陰で、私は月に一回特別な贅沢ができるし、この日のために仕事も頑張れる。
至れり尽くせりのお届け物だ。
「ほんと、いい懸賞だったなぁ」
流石に、もうこの懸賞は募集していないらしい。
SNSのどこを探しても、同じものは見つからなかった。
それもまた、私が選ばれた人間のような気がして、誇らしかった。
しっかりと、今回のステーキをSNSにアップする。
タグは『#当選品』『#夜ご飯』『#お肉』だ。写真は少し加工して、より美味しそうに。
アンケートを書き終えて少し休憩した後、肉の余韻に浸りながら、ゆっくりとお風呂に入る。
ワインとサワーでアルコールが心配だったが、そんなことはなかった。
「ふぅ」
湯船に浸かり、一息吐いて目を閉じる。
先ほどの肉の味が、舌の上で蘇る。どの部位も、もれなく美味しかった。
「あの謎のおまけ、あれだけで販売とかしてるのかな?」
あのパックは、かなりお得だと思う。結局、最後まで食べても、どの部位が入っているのかはわからなかった。
でも、どの部位も個性的で、もっと食べたいと思ったのだ。
「おまけ分しかとれないなら、ちょっと残念かも」
……と思ったが、まだメインが五パックも残っている。毎日食べても、五日間お肉が楽しめるのだ。
丁寧に髪の毛を洗い、気持ちを切り替える。
もう後は眠るだけだ。
まだまだ、あのお肉のことを考えたい。
「はー、幸せ」
お風呂から上がり、動画を見る。友達に教えてもらった、ホラー映画。
私は割と耐性があるのか、スプラッターも気にならない。
肉を食べた後だって、血まみれの中身が見えたとしても、問題ないのだ。
「あの子がこういうの好きだって、初めて知ったなぁ。意外」
夜は独り言が増える。なぜかはわからない。この静けさが、言葉を生むのかもしれない。
妙に詩人になったり、難しいことを考えてみたり。
そういえば、あの人と一緒にいた時は、そんな時間も愛おしかったっけ。
顔なんて、見たくもないほど嫌いになってしまったけれど。
どこかでごみのように捨てられていたって、ざまぁみろとしか思えないけれど。
「……うわっ!」
司会の端で、何かが動いた気がした。思わず叫んで、そちらを見る。が、何もない。
「もう、神経質だな」
ホラー映画を見ていたからか。ちょっとしたことに敏感になっている。
そういうものを、信じているわけでもないのに。
だけれど、急に寒気がして、気持ち悪くて寝室に向かう。
「食べ過ぎ?」
ベッドに潜り込み、毛布を引き寄せる。焼いた肉の香りが、まだ髪に残っている気がした。
目を閉じると、焼き目のついたハラミがふわりと瞼の裏に浮かんだ。金色の油の線。焦げた香ばしさ。あの味。
寝る前の習慣、お風呂の前にアップしておいた、肉の写真の反応を見る。時間帯的にも注目を浴びたのか、いつもより反応が多い。
『部位は全然わからないけど、全部美味しそう!』
『いい匂いが画面のこちら側まで漂ってくる気がする』
『これは米も進むし酒も進みそう』
『最高の週末。やっぱり肉は正義』
そうだそうだ、羨ましかろう。
少し拡散もされた結果、フォロワー外にも届いている。
やっぱり、みんな肉が好きなのだ。
「美味しかったなぁ」
小さく呟いたあと、私はゆっくり息を吐いた。冷蔵庫がガタガタと、氷を作る小さな音を鳴らす。
その音を子守唄みたいに聞きながら、私は眠りについた。




