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クロスタイム・マジプロ!第2部~セイレイの炎~  作者: 異星人
第3章 過去を乗り越えて、未来を抱きしめて
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第七話 ≪Seventh Fire。パラレルワールド(1)≫

あなたが傷つけない世界があるなら、僕は何度も時間を繰り返す。




第七話 ≪Seventh Fire。パラレルワールド≫




神の手に、世界中のマジプロのアイテムが集った。自分が与えた力を没収した神は、その力を使い、世界線を渡して、時間を巻き戻して、新たな未来・パラレルワールドへ。


(どうか、この世界線ではー。)


神が全力を尽くして生霊を消し、過去をなかったものにする理由は一つ。


(君が幸せになるように。)



「はっ!」


目覚めたみかさは、あたりを見回した。そばでいたはずの仲間が、友達がいない。


「おい、愛子…?」


みかさは手で何かを付いて立ち上がった。


「ウィルヘルミーナ…?」


『長いから面倒』って、一度も呼んだことない名前も呼んだ。


「愛香さん…?くっ!」


よろめいたみかさは何かを掴んだ。


「ここは…。」


みかさはやっと、自分が掴んでる物を見た。みかさが捕まってるのは、ベッドの周りを囲んでる突っ張り棒。


「なっ!?」


起き上がったみかさは今まで寝ていたベッドをみた。それは、女の子なら誰もがあこがれるような、天蓋付きのかわいいお姫様系ベッド。付いてるレースカーテンを見ると、みかさは総毛立つ気分を感じた。


「どうしたんだ、みかさ!」


1階から聞こえてくる声で、みかさの足が固まった。それは、もう二度と聞くことのない、いや、聞きたくない人の声。


「大丈夫か?」


酒臭い記憶とは違い、元気そうな顔。上から目線ではなく、優しく思いやる視線。彼はみかさにだんだん近づいてきた。


「父、ちゃん…。」


もう死んでいるはずの父が。



「どこっか、ここ…?」


見たことのない部屋。買ったことのない服。鞄についてるのは、オランダ語の教科書だち。


「…落ち着いて、最初から考えてみるっす。」


先までウィルヘルミーナは銀河の町にいた。それは間違いのない真実。だとしたら、彼女に与えられた可能性は二つ。


一つ。先、フレームエンプレスと愛香の戦いで、何らかの理由で巻き込まれた。今のは倒れたウィルヘルミーナが見てる夢、それとも幻。


一つ。ありえないが、今のは現実。戦いの後で現れた神の力で、違う世界に連れられた。


「夢…のはずっす。」


いくら何でも神は味方。勝手な真似をするわけない。


「なら、早く目覚めたいっすよ…。」


驚きと慌てを隠し、ウィルヘルミーナは1階に降りた。ドアの隣の瑠璃の窓、向かい合ったのは静かな場所。誰もが楽しく遊んでる、幸せな庭。


「O, mijn schatje!」


後ろから聞こえてくる優しい声。懐かしいぬくもりにウィルヘルミーナは振り向いた。


「Goedemorgen!」


『おはよう』と優しく抱きしめてくれる母を、ウィルヘルミーナはそっと押した。


「ママ、自分は友達を探してるっす。」


急いで聞いてみたが、母の反応はー。


「友達…?」


首を傾げる母を見ると、胸から締め付けを感じる。怖くて怖くてしょうがない。


(もしかして、みんなに何かあったら…。)


いや、最初からウィルヘルミーナという人間に『お友達』なんかなかったというならー。


(自分、また独りぼっちにー。)


足がぶるぶる震えた。その震えが肩へと向かう前、母は拍手をして、優しく笑った。


「ああ、フロールチェさんのこと?」

「…誰?」

「それより、珍しいね。ミナンが日本語使うなんて。」

「ちょっと…。待ってよ…。」


先から気にしていたこと。でも、気づいてないこと。その違和感全部を『なぜ?』というならー。


「ねえ、もしママの故郷に興味できた?」


ここは銀河の町ではなく、オランダだから。



「みかさ、震えてるのではー。」

「来るな!」


みかさは思いっきり叫んだ。


「来るなって言ってるだろう!」


幼いころから言わなかった分、強い思いをのせて。


みかさの父は事故でピアノを弾かなくなった。壊れた夢を取り戻すため、みかさに音楽を教えた。


なのに、今の父の腕は壊れてない。それって、父はまだピアノを弾けるってわけ。


(体の傷がねえ…。)


父に殴られた傷が消えた。最初からなかったように、さっぱり。


(父から負った傷も、辛い過ぎて自ら掻きむしった後も…。)


自分の体で打ち込んだ傷の後さえ全部、全部なくなった。


「大丈夫か?悪い夢でもみたのではないか?」


ギターの代わり、家族写真で飾られた壁。五線紙のない机。普通な少女の部屋。怒ってない、優しい父。


それは、小さなみかさが夢見ていたすべて。


「どけ…。」


そう、それは『幼い』みかさの夢。今のみかさには、もっと大切な想い出が、大切なみんながー。


「どけって言ってるだろう!」

「みかさ、待てー!」


全力て走った。父に野球バットで殴られて、外へ逃げ出した夜も、こんな切望は抱いてなかった。


(忘れられたくねえ…。)


誰かの記憶から、存在を消されたくない。


(みんなともう一度合いたい…!)


みかさは走り続けた。町を出て、森にたどり着くまで。


(この森を抜ければ、銀河の町がー。)


願いを描き、少女は走る。思いを届けたい人があるから。だけど大丈夫。森の向こうに行けばー。


「くっ…!」


走っていたみかさは、何かにぶつかり、倒れてしまった。


「これって、結界…?」


ここは神によって作られた世界。彼の望み以上は進めない。人間ってそう、神に作られた世界から踊る人形。


「けんな…。」


悔しさで、みかさは歯を食いしばった。


「ふざけんなよ!」


みかさは結界を叩いた。


「開けろ、開けるんだ!」


手が赤くなるまで。


「なんでこんなことすんだ。この糞神…!」


腫れ上がって、痛みさえ感じなくなるまで。


「ったく、なんで無駄なことをすんだよ。」


舌を鳴らす音が聞こえる。この世で、他人を自由に馬鹿にするやつは一人しかない。


「手前ー!」


みかさは振り向き、空を見上げた。幼い姿の神が、腕組みをしていた。


「父に愛されていいだろう?なら、ずっとここにいれば?」



ウィルヘルミーナの母は日本人。父とは出張先で出会い、結婚。故郷である銀河の町へ引っ越してきた。


「だからっ!」


もし、親が日本に行かず、オランダで住んだら。ウィルヘルミーナは父の故郷、オランダで育てられたはず。


「なぜ日本じゃなく、オランダで住んでる!」

「もう、ミナン。落ち着いて!」


どうしても落ち着けない。友達と紡いできた時間が、重ねてきた絆が、全部なかったことになった。


最悪の場合、彼女らがウィルヘルミーナのことを忘れてしまったというならー。


「なぜだよ!パパもママも、『銀河の町は安全だ』ってー。」


ふと、頭をよぎる答え:フレームエンプレスの存在が消える。愛香の父も母も死なない。愛香の父が生霊を作らない。最初から、愛香を戦士にしない。


(愛香さんが、デリュージョンにならない…。)


それって、つまりー。


(銀河の町も、カゲから安全じゃない…。)


親が母の故郷、銀河の町へ来たのは、安全のため。でも、もし銀河の町が安全ではないって言うなら、彼らが日本で住む意味がない。銀河の町はー。


「…っ!」


頭が痛い。世界がくるくるする。銀河の町のことを、その景色を思い出せばならないというように。


「ミナン!」


足から力が抜いて、座り込んだ。父がウィルヘルミーナに走ってきた。母に支えられながらも、父に心配してもらいながらも、周りのことなんか見えないぐらい、ウィルヘルミーナの願いは一つ。


(帰らなきゃ…。)


体がぶるぶる震える。


(みんなも、自分のこと、忘れてしまう…。)


怖い。怖くて仕方ない。どうすればいいかわからない。


「ねえ、ミナン、待って!」


庭を通り過ぎるウィルヘルミーナを、少女らが見つめた。彼女らは首を傾げながらそわそわ話した。


「…っ!」


突然に腕を捕まえたウィルヘルミーナが、少女の手を振り払った。少女は少し驚いたが、すぐニコニコ声をかけた。


「Wilhelmina, Waar ga je naartoe?」

「放して…。」

「Laten we spelen!」

「放せよ!」


でも、少女たちはますます増えてく。彼女らの手が、ウィルヘルミーナは掴む。


「いいじゃねえか。」

「神様…?」


耳に慣れた声が聞こえてきた。顔を上げたウィルヘルミーナは、幼い姿の紙を呆然と見つめた。


「ここなら、みんなと仲良くなれるんだ。」


見てるのに見ないふり。でもちゃんと、こっそりと見つめてる瞳。


「誰もお前を『おかしい』とおもってねえ。」


胸の傷を振る、残酷な運命の人。


「このままここで住めば?」

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