第七話 ≪Seventh Fire。パラレルワールド(1)≫
あなたが傷つけない世界があるなら、僕は何度も時間を繰り返す。
第七話 ≪Seventh Fire。パラレルワールド≫
神の手に、世界中のマジプロのアイテムが集った。自分が与えた力を没収した神は、その力を使い、世界線を渡して、時間を巻き戻して、新たな未来・パラレルワールドへ。
(どうか、この世界線ではー。)
神が全力を尽くして生霊を消し、過去をなかったものにする理由は一つ。
(君が幸せになるように。)
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「はっ!」
目覚めたみかさは、あたりを見回した。そばでいたはずの仲間が、友達がいない。
「おい、愛子…?」
みかさは手で何かを付いて立ち上がった。
「ウィルヘルミーナ…?」
『長いから面倒』って、一度も呼んだことない名前も呼んだ。
「愛香さん…?くっ!」
よろめいたみかさは何かを掴んだ。
「ここは…。」
みかさはやっと、自分が掴んでる物を見た。みかさが捕まってるのは、ベッドの周りを囲んでる突っ張り棒。
「なっ!?」
起き上がったみかさは今まで寝ていたベッドをみた。それは、女の子なら誰もがあこがれるような、天蓋付きのかわいいお姫様系ベッド。付いてるレースカーテンを見ると、みかさは総毛立つ気分を感じた。
「どうしたんだ、みかさ!」
1階から聞こえてくる声で、みかさの足が固まった。それは、もう二度と聞くことのない、いや、聞きたくない人の声。
「大丈夫か?」
酒臭い記憶とは違い、元気そうな顔。上から目線ではなく、優しく思いやる視線。彼はみかさにだんだん近づいてきた。
「父、ちゃん…。」
もう死んでいるはずの父が。
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「どこっか、ここ…?」
見たことのない部屋。買ったことのない服。鞄についてるのは、オランダ語の教科書だち。
「…落ち着いて、最初から考えてみるっす。」
先までウィルヘルミーナは銀河の町にいた。それは間違いのない真実。だとしたら、彼女に与えられた可能性は二つ。
一つ。先、フレームエンプレスと愛香の戦いで、何らかの理由で巻き込まれた。今のは倒れたウィルヘルミーナが見てる夢、それとも幻。
一つ。ありえないが、今のは現実。戦いの後で現れた神の力で、違う世界に連れられた。
「夢…のはずっす。」
いくら何でも神は味方。勝手な真似をするわけない。
「なら、早く目覚めたいっすよ…。」
驚きと慌てを隠し、ウィルヘルミーナは1階に降りた。ドアの隣の瑠璃の窓、向かい合ったのは静かな場所。誰もが楽しく遊んでる、幸せな庭。
「O, mijn schatje!」
後ろから聞こえてくる優しい声。懐かしいぬくもりにウィルヘルミーナは振り向いた。
「Goedemorgen!」
『おはよう』と優しく抱きしめてくれる母を、ウィルヘルミーナはそっと押した。
「ママ、自分は友達を探してるっす。」
急いで聞いてみたが、母の反応はー。
「友達…?」
首を傾げる母を見ると、胸から締め付けを感じる。怖くて怖くてしょうがない。
(もしかして、みんなに何かあったら…。)
いや、最初からウィルヘルミーナという人間に『お友達』なんかなかったというならー。
(自分、また独りぼっちにー。)
足がぶるぶる震えた。その震えが肩へと向かう前、母は拍手をして、優しく笑った。
「ああ、フロールチェさんのこと?」
「…誰?」
「それより、珍しいね。ミナンが日本語使うなんて。」
「ちょっと…。待ってよ…。」
先から気にしていたこと。でも、気づいてないこと。その違和感全部を『なぜ?』というならー。
「ねえ、もしママの故郷に興味できた?」
ここは銀河の町ではなく、オランダだから。
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「みかさ、震えてるのではー。」
「来るな!」
みかさは思いっきり叫んだ。
「来るなって言ってるだろう!」
幼いころから言わなかった分、強い思いをのせて。
みかさの父は事故でピアノを弾かなくなった。壊れた夢を取り戻すため、みかさに音楽を教えた。
なのに、今の父の腕は壊れてない。それって、父はまだピアノを弾けるってわけ。
(体の傷がねえ…。)
父に殴られた傷が消えた。最初からなかったように、さっぱり。
(父から負った傷も、辛い過ぎて自ら掻きむしった後も…。)
自分の体で打ち込んだ傷の後さえ全部、全部なくなった。
「大丈夫か?悪い夢でもみたのではないか?」
ギターの代わり、家族写真で飾られた壁。五線紙のない机。普通な少女の部屋。怒ってない、優しい父。
それは、小さなみかさが夢見ていたすべて。
「どけ…。」
そう、それは『幼い』みかさの夢。今のみかさには、もっと大切な想い出が、大切なみんながー。
「どけって言ってるだろう!」
「みかさ、待てー!」
全力て走った。父に野球バットで殴られて、外へ逃げ出した夜も、こんな切望は抱いてなかった。
(忘れられたくねえ…。)
誰かの記憶から、存在を消されたくない。
(みんなともう一度合いたい…!)
みかさは走り続けた。町を出て、森にたどり着くまで。
(この森を抜ければ、銀河の町がー。)
願いを描き、少女は走る。思いを届けたい人があるから。だけど大丈夫。森の向こうに行けばー。
「くっ…!」
走っていたみかさは、何かにぶつかり、倒れてしまった。
「これって、結界…?」
ここは神によって作られた世界。彼の望み以上は進めない。人間ってそう、神に作られた世界から踊る人形。
「けんな…。」
悔しさで、みかさは歯を食いしばった。
「ふざけんなよ!」
みかさは結界を叩いた。
「開けろ、開けるんだ!」
手が赤くなるまで。
「なんでこんなことすんだ。この糞神…!」
腫れ上がって、痛みさえ感じなくなるまで。
「ったく、なんで無駄なことをすんだよ。」
舌を鳴らす音が聞こえる。この世で、他人を自由に馬鹿にするやつは一人しかない。
「手前ー!」
みかさは振り向き、空を見上げた。幼い姿の神が、腕組みをしていた。
「父に愛されていいだろう?なら、ずっとここにいれば?」
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ウィルヘルミーナの母は日本人。父とは出張先で出会い、結婚。故郷である銀河の町へ引っ越してきた。
「だからっ!」
もし、親が日本に行かず、オランダで住んだら。ウィルヘルミーナは父の故郷、オランダで育てられたはず。
「なぜ日本じゃなく、オランダで住んでる!」
「もう、ミナン。落ち着いて!」
どうしても落ち着けない。友達と紡いできた時間が、重ねてきた絆が、全部なかったことになった。
最悪の場合、彼女らがウィルヘルミーナのことを忘れてしまったというならー。
「なぜだよ!パパもママも、『銀河の町は安全だ』ってー。」
ふと、頭をよぎる答え:フレームエンプレスの存在が消える。愛香の父も母も死なない。愛香の父が生霊を作らない。最初から、愛香を戦士にしない。
(愛香さんが、デリュージョンにならない…。)
それって、つまりー。
(銀河の町も、カゲから安全じゃない…。)
親が母の故郷、銀河の町へ来たのは、安全のため。でも、もし銀河の町が安全ではないって言うなら、彼らが日本で住む意味がない。銀河の町はー。
「…っ!」
頭が痛い。世界がくるくるする。銀河の町のことを、その景色を思い出せばならないというように。
「ミナン!」
足から力が抜いて、座り込んだ。父がウィルヘルミーナに走ってきた。母に支えられながらも、父に心配してもらいながらも、周りのことなんか見えないぐらい、ウィルヘルミーナの願いは一つ。
(帰らなきゃ…。)
体がぶるぶる震える。
(みんなも、自分のこと、忘れてしまう…。)
怖い。怖くて仕方ない。どうすればいいかわからない。
「ねえ、ミナン、待って!」
庭を通り過ぎるウィルヘルミーナを、少女らが見つめた。彼女らは首を傾げながらそわそわ話した。
「…っ!」
突然に腕を捕まえたウィルヘルミーナが、少女の手を振り払った。少女は少し驚いたが、すぐニコニコ声をかけた。
「Wilhelmina, Waar ga je naartoe?」
「放して…。」
「Laten we spelen!」
「放せよ!」
でも、少女たちはますます増えてく。彼女らの手が、ウィルヘルミーナは掴む。
「いいじゃねえか。」
「神様…?」
耳に慣れた声が聞こえてきた。顔を上げたウィルヘルミーナは、幼い姿の紙を呆然と見つめた。
「ここなら、みんなと仲良くなれるんだ。」
見てるのに見ないふり。でもちゃんと、こっそりと見つめてる瞳。
「誰もお前を『おかしい』とおもってねえ。」
胸の傷を振る、残酷な運命の人。
「このままここで住めば?」




