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もう一〇日だ

「もう一〇日だ」

「えっ?」

「領主が『特級』を探してるって情報を聞いてから、もう一〇日が経つ。一〇日もかけて入手できない程、『特級』の素材を集めるのは難しいのか?」


「素材を常備している場合はありますが、素材はアイテムバッグに入れてても徐々に腐敗が進みます。ポーションはもっと足が早いので必要に応じて作成されます」


 俺はアイテムボックスに入れているため、時間の経過を気にしなくてもいいが、素材やポーションは時間とともに質が低下するのか……。

 それはかなり厄介だな。


「でも、一番の問題は他にあります」

「なんだ?」

「それを錬金できる錬金術師が国のお抱えになっているため、この街では作れない事ですね。位置的には北領の国より南領のリーカナ王国から取り寄せた方が五日は早い計算になります」


 国境を越えるルートは俺たちが通った道か……。

 俺たちは追っ手の目を逃れるために森を歩いてショートカットをしたが……。


 要所要所の村で馬を交換しながら進めば片道一日……二日程度で着くだろうな。


「俺が体力回復ポーションを持ち込んだらどうなる?」

「どうもなりません。ギルド長も(おっしゃ)っていた通り、それでポーションを出し渋られたら困ります。ただし、領主が後ろ盾という名目でアニキの行動を監視する可能性は否定できません」


「俺の行動を見張れる人間がいるとは思えないけどな……」

「そうだね。シロウは『第一級』の注目の的だもんね。監視できるのは魔族ぐらいだよ」


 そういうの本当に結構です。

 シルがたまに『一、二、三……』っと周囲を見渡してカウントするんだけど、気が付かないフリでいいかな。


「コックは相変わらず食いまくってるな……」

「アイツはああやって情報を集めてるんですよ」


 どうだか……。

 向こうもこちらに気が付いて近寄ってくる。


「隊長……街に入れるようになったんすね」


 コックが俺のカツラをチラッと見ただけでスルーした。


「アニキがこれから領主のところに『体力回復ポーション』を持ち込もうとしている。お前も止めてくれ」


「別にいいんじゃないですか? でも、俺の事は内緒にしてくださいね」

「誰かいるのか?」


「それは行ってからのお楽しみです。騒ぎを起こせばきっと会えるはずっすよ。くれぐれも俺の事は内緒で……」


 俺が騒ぎを起こす前提で話が進むのが納得いかないな。

 俺ってそんなに問題児か?


 それが最善策なら仕方ない。

 とても楽しそうな策じゃないか……。


 コックに領主の住む建物を教えてもらい歩き出す。

 気後れするほど大きい建物が見えてきた。


 俺たちの拠点は森にあるため安いが、領主の館は街の中心部にある。おまけに私兵が巡回しているぞ。


 俺は本当にここにケンカを売るのか?

 違う違う。俺が売るのは薬だ。


「アニキ、どうしますか?」

「どうするも何も薬を売り込みに行くだけだろ。正面から訪問する。ゴンザスは黙って、俺に任せておけ」


 数分後、俺は門番が呼んだ担当の男と作戦とは無関係で口論になっていた。


「そもそも紹介状も持たずに直接領主様のお屋敷を訪れる事が変なのだよ。それすらもわからないような冒険者が持ってきた薬など、怖くて使えないわ」


 この頑固男が薬の性能も確認せずに『誰の紹介だ?』、『なに? Cランク冒険者? Cランク冒険者では『特級』は入手できないから偽物だ。見る価値もない』、『乞食(こじき)じゃあるまいし、なんだねその服装は? 見窄(みすぼ)らしくて見るに堪えない』等々。


 口を開けば文句ばかり……。

 終いにはこちらが喋ってるのに『まだいたのか?』と話の腰を折りにくる。


 さすがの俺も頭にきて、売り言葉に買い言葉が出始めた。


「てめぇのような無能が担当だから、領主は『特級の体力回復ポーション』を入手できないんだよ!」

「アニキ、それはさすがにマズいですよ」


 ゴンザスが俺の体を掴んで、担当の男から遠ざける。


「離せ! 俺はまだ言い足りない!」

「落ち着いてください。このままではアニキが投獄されますよ」


「上等じゃねーか! 俺を捕らえられるもんならやってみろ!」


「何を騒いでいる!」


 凛と透き通った声が辺りに響く。

 その瞬間冷や水を頭からかぶったように、怒りがスッとひいた。


 この担当の男は、リーカナ王国の王、牧場の男に次いで嫌いだ。

 これで作戦が『仲良くなって相手に取り入れ』だったら、今頃は悲惨だったな。

『騒ぎを起こせ』だった事を心から感謝する。


 声のした方を向くと巡回中の女性兵士が部下を引き連れて、こちらにやってきた。後ろの奴より装備の質がいい。


「あれ……ミレアじゃないか?」

「えっ? 隊長……? 隊長がどうしてこちらに……」

「この女と知り合いなのか?」


 コックが言ってたのは、この女性か……。


「はい。俺が隊長をしていた頃の副隊長です。コックの許嫁(いいなずけ)でもあります」


 最後の部分だけは内緒話だ。

 コックは家出中だからな……。会うわけにはいかんのだろう。


 良家のボンボンなら、許嫁がいるぐらいは普通か……。

 グラビアアイドル並みの細身の美人だ。

 長い髪がラベンダー色でキレイ。


 おい、コック。何が不満だった?


 元副隊長だと他の領地で衛兵職に就けるのか……。


「この者は私の知り合いだ。私が責任を持つ。お前たちは持ち場に戻れ!」

「「「「はっ!」」」」


 部下に指示を出して下がらせた。

 統率が取れてて素晴らしい。


 担当の男が口を開こうとしたのを、ミレアが視線だけで黙らせた。

 出番のなくなった男は引き上げていく。


 あれ? コック? もしかして、この許嫁……怖い?


「ミレア程の腕前なら国に仕える事だって出来ただろ」


 もともと国に仕えていたんだから、領主の兵では、下がり過ぎだったのか……。


「隊長に受けた大恩を返そうと、こちらで働いていました」

「すまん、横から質問だ。どうしてここで働く事がゴンザスへの恩返しになるんだ?」


「えーっと、あなたは?」

「俺は……」

「この方は俺の体を治してくれた恩人だ。信用できる」


「そうでしたか……。このタイミングで隊長が現れたのも何かの縁かもしれませんね」

「何かあったのか? 知ってる事があれば話してくれ」


「実は隊長の息子が九年前に北領の孤児院に預けられたという情報を耳にしました。私は急いで孤児院を突き止め、身請けしようとしましたが……。その時にはすでに引き取り先が決まっていました」


「っという事は、まさか……」

「はい。ここの領主様には娘ばかりが生まれてしまい、血の繋がった息子は一人もいません。そこで孤児院から優秀な子供を迎え入れたようです」


 コックは街に残り……食べ歩きをしてたんじゃないのか?

 ミレアがここで働いてるのに、声をかけないとか、薄情にも程があるだろ……。


「ですが……。突然不治の病にかかり、それ以来日毎に衰弱しています。持ってあと数日でしょう。『特級の体力回復ポーション』を国に取りに行かせましたが、どうやら途中で邪魔が入ったようです」


「アニキ……」

「本当にゴンザスの子供なら全力で治療に当たるつもりだが……。例え元気になっても父親だと名乗りでる事は難しそうだぞ」


 それでもいいのか? っと視線を送る。


「構いません。今の俺にはたくさんの家族がいます。リー嬢との約束もあります」

「わかった。俺が必ず治す。さっそく案内してくれ」


「こちらです」


 ミレアに案内されて入った部屋には病床に伏せっている青年がいた。

 目を凝らすと一瞬だけチリッと抵抗がある。


「シロウ、待って!」


 後ろを付いてきたシルが急に大きな声を出す。


「大丈夫だ。もうステータスを見た。この青年を蝕む原因はわかったぞ」

「その原因とは何なのだ? 坊ちゃんは何の御病気にかかっているんだ?」


「状態異常《宿り木》だ」

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