俺に変なところはあるか?
森の中のモンスターを退治しつつ、街へ向かう。
戦闘をしているのは旧斧を装備したゴンザスだ。この森のモンスター程度なら『火炎の斧』がなくても問題ない。
「いよいよか……」
俺は周りの視線にビクビク怯えながら門番の列に並ぶ。
うーん。あと四組だな……。
「シル、俺に変なところはあるか?」
「あるよ」
ある一点を見つめてシルが言う。
「そこ以外で……」
「種族?」
可愛く首を傾げて答えるシルが恨めしい。
種族は召喚者を表す『勇者』なので、一応まだ『人間』だ。
「もういいです……」
「アニキ、俺たちの番ですよ」
早いな。
それぞれギルド証を掲げ、門番にみせる。
門番の男はランクとギルドマーク、顔を確認した。
「……よし。三人とも通っていいぞ」
思いの外、簡単に審査をパスできたな。
これでもう俺に怖いモノはない!
ギルド証をポケットに仕舞い、歩き出す。
「ちょっと待て」
えっ?
門番の前を通過した後に、声をかけられた。
ヤバい。もしかしてバレたか?
「そういえば……見ない顔だな……」
森には住んでいたが、実際に最寄りの街を利用するのは初めてだ。
怪しい行動をして、ステータスチェックをされても終わる……。
門番が近付いてきた。
俺はこっそりシルを背中に隠す。
「『特級の体力回復ポーション』は持ってないか?」
ビビった。
その話、コックがしてたわ。
この辺りの領主が探してるんだっけ?
まだ手に入れられていなかったのか……。
「持っていません」
「そうか……。新顔には聞く決まりになってるんだ。時間を取らせたな。もう行っていいぞ」
「……はい」
俺の中では初めて人として街に入れた。
感無量だ。
「おい、おっさん。ちょっと面貸せや」
えっ? また?
街に入ると街を出ようと門番の列に並ぶ男に突然声をかけられた。
振り返って顔を確認する。
「俺は『おっさん』なんて名前じゃないですよ……」
「カツラをかぶって変装してるつもりだろうが、カツラが取れてんぞ?」
「ふっふっふ。その手には引っかからない。きちんと樹液で頭皮にベッタリとくっ付けた。どんなに風が吹こうとも飛ぶことはない!」
モンスターの皮に黒く染色した羊毛を敷き詰めてカツラを作った。
天然パーマみたいに大変な事になっているが、門番の目を欺く事に成功した。
今後も改良に改良を重ねていく所存だ。
「おっさん、カツラって認めてるんじゃねーか……」
「俺は『おっさん』ではない。俺の名は二郎。四郎という名前でも決してないぞ」
「誰も『四郎』とは言ってねーかんな」
うっ……。さすが、翼だ。
誘導尋問もお手の物か……。
それに俺の完璧な変装を見破るとは……。
「どうして魔族のシルさんが堂々と街に入れてるんだ? あと師匠までおっさんに付き合って……」
「私の名前は――」
「どうせ『ジル』とか言うんだろ?」
シルが珍しくポカーンッとしている。
「翼、すげーな……」
「んじゃ師匠は『ゴンザズ』あたりか?」
ぐぬぬ。
俺が必死に考えた偽名なのに、翼には名乗らずに看破されてしまった。
「で? どうやって街に入ったんだ?」
「昨日まで滞在していた街でギルド証を発行してもらいました」
翼に気付かれる前に、もっと冒険者『二郎』を満喫したかったのに……。迂闊だった。
俺は翼にギルド証をみせる。
「はぁ? 何でいきなりCランクなんだよ。コックだってズルはできないって言ってただろうが……」
「街を救ったお礼にギルド長自らギルド証を作ってくれたんですよ」
「街を救った? そんな話、聞いてねーぞ?」
ゴンザス……まだ説明してなかったのに……。
「西領に行ったら、モンスターの群れが街を攻めててな。俺はモンスターを五〇〇体ぐらいと魔王を……マーニレを倒した」
ほぼテイムだが……。
「私はマー君のところの四天王を二人倒したよ!」
「俺はSランクのギガンテスを一体だけ……」
「……信じらんねー、コイツら」
「Cランクというのは本来、承認が必要でおいそれと発行できませんよ」
「まぁ、三人の実力を考えたらCランクのギルド証なんて飾りみたいなもんだけどよ……。でも、納得いかねー。俺たち一週間も頑張ってやっとランクが一個上がったのに……」
ギルド証があれば門番の審査が緩くなる。
ギルドランクが高ければなおさらだ。
Cランクと言うのは、軽度の犯罪歴があろうが、他の面で必ず貢献できるというランク。
そもそも冒険者が荒くれ者の集まりなため、多少の犯罪歴には目を瞑らないと、大多数が姿を消す事になる。
「俺たちの事は内緒にしてくれたまえ、翼君。行くぞ、ジル、ゴンザズ」
「はーい」「はい」
「なにが『翼君』だ。拠点に帰ったら説教だかんな!」
めっちゃ怒ってる。
翼たちが門番の列に並び直そうと踵を返した。
「そうだ、翼」
「なんだよ。お互いに街の中では関わらないんじゃないのかよ」
「あ、ごめん」
急ぎの用事があって話しかけたら、翼の機嫌がさらに悪くなった。
「入口で門番が声をかけてる『特級の体力回復ポーション』って報酬額はいくらだ?」
「はぁ? マジで目立つからやめろよ……」
俺の生活を考えたら、目立つ行動は控えるべきだ。
でも、俺は西領の街で『爺さん』に魔法のカードを貰って『自由』を手に入れた。
これは御守りだが、こそこそ生活するための保険の御守りじゃない。
自由気ままな生活を保証するための御守りとして使うべきだ。
「そろそろ手遅れになるだろ?」
小説の中ではティリアから『特級の体力回復ポーションの買取があった』という描写はなかった。
ティリアを救うイベントをしてからティリアに街での食料の買い出しをさせるまでの間に、そのイベントは消えた事を示唆している。
最終的にこの街の近くに拠点を設けるが、小説の俺はティリアの体力を気遣い、村で道草を食って、到着がもう少しだけ遅れる。
だから、タイミング的にギリギリのはず……。
「あー、面倒くせーな。もう『救う』って決めた目じゃねーかよ。報酬は金貨一〇〇枚だ」
翼は俺が知りたかった情報を事前に調べていた。
金貨一〇〇枚。
緊急のために値がつり上がったと思われるけど、相場よりどれほど高いのかはわからない。
「アニキ……止めはしませんが、俺もツバサと同意見です。金貨一〇〇枚の報酬は魅力的ですが、リスクが高すぎます」
「何かあったら西領の街でゴンザスが『赤斧モドキ』でも背負って生活すればいいさ」
ゴンザスが呆れた。




