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持つ者に、持たざる者の気持ちなど、一生わからんよ。

「メェ~」

「うわっ! 声が大きい。静かにしろ」


 召喚した瞬間、牛サイズの羊が俺に近付いて嬉しそうに鳴く。

 内緒で作業しようとしてるのに……。

 俺は周囲を見渡して誰もいないのを確認し、安堵す――。


「羊ちゃん!」


 上か!

 早くもシルに見つかってしまった。

 というか普段シルとはトイレ以外、ほぼ一緒だから、シルに気が付かれずに何かをするとか土台無理な話だ。


 シルが空から急降下して、そのまま羊に飛びつく。いや、羊毛に頭から埋まった。

 もふもふ大好きだからな。


「メェ~?」


 羊が体の違和感を覚えて、声をあげた。

 一体だけではシルが邪魔で作業にならない。


 他の子も出して、シルの相手をさせておこう。

 残りのシープも召喚していく。


「羊ちゃんも顔が全然違うね。こっちの子は可愛いけど、あっちの子は凛々しいよ。いったいどの子をくれるの?」

「えっ? くれるの?」


「『Dランク冒険者以上の実力をつけた者』に羊ちゃんをくれるって……魔法のカードがCランクを証明してるよ!」

「あ……」


 言ったわ。

 志穂と美穂に発破をかけるために言っただけだ。


「もしかして、忘れてたの?」

「忘れてました」


「最近忘れっぽいよ?」

「すみません」


【キュア】を使っても、物忘れには効果がないだろうな……。


「用もないのに、何で羊ちゃんを出したの?」

「それは……羊毛を刈るためです」


 嘘は言ってない。

 羊毛を刈った後が重要なだけで……。


「私もやってみたい! 手伝うよ!」

「ありがとう」


 まさかの戦力アップ。

 羊たちに【クリーン】をかけて、羊毛を槍でスパスパ切っていく。

 シルの上半身が埋まる厚みがあれば、毛皮で攻撃を防げるな……。


 作業をしていると羊たちの鳴き声を聞いてファーナムも手伝いにやってきた。


「糸を紡いで、服を作るんですか?」


 切った羊毛を手に取り、品質チェックをしている。


「でも、この羊毛は引っ張ったらすぐに切れてしまうため、残念ですが服作りには適しませんね」

「作るのは服じゃない」


 ファーナムは奴隷時代に色々な知識と技術を取得したようだ。

 ここはファーナムの手を借りる。


「では、私はこれを染色しておきますね」

「任せた!」


 白色の羊毛のままでは使いにくいので、ちょうど色を付けたかった。しかし、全知全能さんはスキルや魔法の知識は豊富でも、知恵袋系の知ってたらお得な情報を知らない。


 ファーナムが羊毛を桶に入れて運んで行った。


「俺様は『柿』の方が好きだな」


 入れ違いでマーニレがやって来たけど、俺たちの作業を手伝う気はないようだ。ブドウの実を丸ごと食べながら見ている。


「そのブドウ……中身だけ食べるんだぞ。種はきちんと出せよ」

「それでガリガリして変なのか……」


 俺がブドウの食べ方を実演しながら三人で休憩に入った。


 七体のうち五体の毛を刈ったし、もういいだろう。


 モンスターボックスを操作。新たな機能でテイムモンスターを生贄にする事で、別のテイムモンスターに経験値を与える事ができるようになった。


 時間があればテイムモンスターに疑似戦闘をさせて強くするのだが、今回のように体当たりしか攻撃手段を持たないシープでは逆に殺される恐れがある。


 その生贄機能で西領で大量にテイムしたモンスターをシープに食べさせた。

 結果シープたちはワイルドシープに進化。


 羊毛はカットした後でも進化すると再生されるようだな……。

 品質が全然違うし、悪質な羊毛は五体分もあれば充分だ。


 ワイルドシープ。

 俺が見てもわかるぐらい(いか)つい顔立ちになった。体格も二割増し。

 きっとコイツに体当たりされたら車でも吹き飛ぶ。


 さらにクルンッとカールした角が正面を向いており、猪同様に突進の際に武器として使える。

 これでやっと疑似モンスターを相手にできるな。


 夜は久しぶりにお風呂だ。


「ストップ、ストーップ!」

「どうせ、シルの戦闘形態を見たから別々にお風呂に入れって言うんだろ?」


 志穂がゆっくり頷いた。


「シルに殺されるぞ。それにもうシルが先手を打った」

「先手ですか……?」

「鍛練で勝ったご褒美にシロウ独占権を貰ったの!」


「あげてません。今後も今まで通りの生活をする事にした。もともと俺はシルの戦闘形態を知っていたしな」

「えっ? あれを見ても……平気なの?」


 みんなシルの能力『誘惑』の影響を受けすぎだ。


 実は俺も戦闘中の『私を見て♪』の瞬間だけはシルから目が離せなくなり、気が付いた時には術中にはまった後だった。


 すぐに解けたためマーニレに対処できたが、マーニレの奇策が上をいっただけだ。


「志穂や美穂がどうしても大浴場での入浴を嫌がるなら、俺たちだけ別のお風呂でもいいぞ?」


 完全な妥協案だ。

 今さらシルと一緒にお風呂に入らないという選択肢はない。


 これで根本的な解決かどうかは不明だが、翼と和哉の馬鹿コンビが暴走しないように、これからは俺たちだけ別のお風呂を利用する事になった。


 逆にシルが暴走しないか不安を覚えたのは俺だけだろうな……。


 翌日。

 午前中のゴンザス主催の鍛練に参加していない俺は朝から大忙しだった。


「ロリコン、樽に水をくれ」

「さっきあげただろ」

「もう全部柿に与えた」


「お前なぁ、水をあげすぎたら根腐れを起こすぞ」

「もう俺様の背丈を超えたから大丈夫だろ。それに一時間に与える水の量はきちんと決めてる」


 一時間の量じゃなく、一日の量だと思うが……。

 そんな頻度よく水をあげるもんじゃないんだけどな。


 果樹園担当にしたし、失敗したらもう一度種から始めよう。


 俺は樽に【ウォーター】で水を入れた。


「ところでロリコンは真剣に何を作ってるんだ? それは羊毛のカスだろ?」

「これはな、こうやって使うんだよ」

「ふーん」


 マーニレに呆れられながら俺の計画は進行する。


「やっと完成だ!」


 昼過ぎ、俺はついに念願のアレを手に入れた……。


「どうだ?」

「シロウ、似合わないよ?」

「旦那様……。羊毛の染色はそのためだったんですね」


 協力者二人が批判的だ。


「アニキ、それで街に行くんですか?」

「何のために、羊を購入したと思ってるんだ。この日のためだろ!」

「アニキってそこまで気にしてたんですね……」


 持つ者に、持たざる者の気持ちなど、一生わからんよ。


「さて、準備が出来たし、街に買い物に行くぞ!」

「わーい!」

「何かあったら困るんで、俺もお供します」


「ロリコン、お土産よろしく。俺様はファーナムと真面目に勉強してるぞ」


 態度に進歩が見られませんが?


「いいものが見つかったらな」


 俺はマーニレに適当に返事をしておいた。

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