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ゴブリン退治の重要性か……。

『マキナが訪ねてきて、ゴンザスの妻がいる方角がわかった。とにかく俺たちはそこへ向かう。お前たちは鍛練を続けてろ。注意:人間はレベルアップしないとステータスが更新されません』

 四郎が残した置き手紙の内容です。

《勇者:斉藤翼》


「またゴブリンだってよ」

「登録したばかりで、まだFランクなんだから仕方ねーだろ」


 師匠主催の鍛練の後、午後からはコックと一緒に街の冒険者ギルドに顔を出す。

 シルさん、チェルツー、盗賊たちは街の外でモンスターを討伐しながら待ってくれている。


 ティリア姫はまだ体力作りの最中。平地、山地と俺たちに同行して最後まで休まずに自分の足で歩く事が鍛練内容だ。


 俺たちはみんなで倒したモンスターを冒険者ギルドに納品してクエストをクリアしている。

 そのため五人ではあり得ねー量のゴブリンを納品するもんだから、そっこーで受付嬢に目を付けられた。


 早くランクを上げて欲しいんだが、ランクに見合わない冒険者の育成は冒険者ギルドの本質と異なるそうだ。

 俺も和哉と同じ考えで、雑魚を千体倒すより超強いモンスターのトドメをもらって楽して経験値をもらうような生活がしたい。


 何が悲しくて毎日緑色の小学生サイズのモンスターを討伐しないとダメなのか……。

 その上、貰える報酬は微々たるもの。

 マジやってられん。

 こんな事なら冒険者になるんじゃなかった。


 コックの野郎は面倒なモンスター討伐には参加しない。

 そのまま街に残り、買い食いをする。いい気なもんだぜ。


 俺も好き勝手モンスターと戦いたい。


「今日もゴブリン退治です」


 街の外に出て、みんなのところへ行き、今日のクエストを発表した。

 ゴブリン、ゴブリン、またゴブリン。

 正直ゴブリン退治は一日で飽きた。


 それなのに、俺たち以外はゴブリン退治と聞いても嫌な顔をしない。


 薬草系の採集もクエストにはあるが、錬金術の材料は冒険者ギルドに納品せずにおっさんに渡すようにしている。

 早くランクを上げたい俺としては、採集クエストもこなしたいところだ。


「あんちゃんたちはゴブリン退治は嫌いか?」

「ええ、まぁ正直に言えば……」


 盗賊の一人が声をかけてきた。

 共同生活をしているし、一緒に鍛練をしている仲間だ。積極的に関わろうとはしていないが、最低限の付き合いはしている。


「ゴブリンはなぁ。繁殖力が高く、農作物の被害もすごいんよ。肉はマズくて食えないし、魔核は小さくて安い。金にならん仕事だが、誰かがやらなきゃいけねーんだ。俺たちはボスとの取り決めで、毎日一人三体は倒す事にしてるんよ」


 毎日一人三体か……。

 休みたい日もあるだろう。

 雨の日の戦闘は、晴れの日とは違い、視界が悪い。


「あんちゃんたちは勇者だから、強いモンスターと戦いたいだろうが、下々(しもじも)の事情も頭に入れておいてくれや」


 盗賊がそんな事を言う。


 考えてみたら、盗賊たちは南領の拠点から北領の拠点までの移動中も休憩のたびに森に入ってモンスターを倒していた。

『遊ぶ暇があったら、きちんと休め』『時間通りに集合しろよ』っと何度も怒鳴ろうかと思った程だ。


 ゴブリン退治の重要性か……。


 この日、冒険者ギルドに報告に行くといつもの受付嬢が『顔付きが変わりましたね。もう大丈夫でしょう』っと言い、俺たちはEランクに昇格した。


 拠点に戻ると、おっさんも師匠もおらず、レッドベアが果樹園で鳥を追い立てている。

 その見た目は可哀想なほど、体中が鳥のフンまみれだ。


「レッドベアに果樹園を守らせて、おっさんたちはどこに行ったんだろうな」


 そして拠点の中央にそびえ立つ真新しい土の柱。天辺は森から頭を出している。


 二人に限って万が一の事態に陥るなんて事はないだろう。

 でも、俺たちの帰りを待てないほどには緊急性のある案件に遭遇したようだな。


「翼、部屋の前に置き手紙があったぞ」


 俺は和哉から手紙を受け取り、みんなの前で読み上げた。


「おっさんと師匠は……矢印の方角に向かったと解釈して間違いないだろうな。シルさん、おっさんを追ってください。きっと柱をたどった先におっさんと師匠がいます」


 拠点の警備だけならコックとレッドベアがいれば、問題ないだろう。


「はーい。行ってくるね。お留守番よろしく!」

「はい」


 シルさんはおっさんを追いかけて飛び立っていった。


「なぁなぁ、翼。この大きい柱って何なんだ?」

「これか? さぁ? 真っ直ぐ移動するための目印以外の理由はないだろうな」

「これでどうやって真っ直ぐに移動するんだよ!」


 えっ? どうやってって言われても……。


「普通に離れたところから柱を見て、突き出た頂点が左右の真ん中を差す位置に自分が来るように進んだだけじゃないか?」

「…………?」


「和哉君の頭じゃ理解できないわよ。中心線からずれてたら、出っ張りが真ん中には見えないの。少し離れた位置から柱を見てみなさい」


 志穂の説明を受けて、実際に離れた位置から柱を見た和哉が興奮する。

 決して『世紀の大発見』ではないぞ。


「でも、普通は同じ色の頂点にしないわね。これじゃあ、凹凸(おうとつ)すら見えないで終わりそうよ」


 確かに色を変えた方がズレは確認しやすい。


「きっとおっさんの視力なら凹凸が識別できるんだろ。それよりもこっちのレベルアップの情報だ。レベルが上がったらステータスが上がるのは当たり前だと思ってたから、疑問には思ってなかったが、指摘されれば納得だ。俺たちが弱いままだったのは定期的にレベルアップをしてなかったからだな」


 最近はゴブリン退治ばかりで駆けつけた時には討伐が終わっているというのは、ざらにあった。


「んじゃ、たくさんモンスターを倒して一気にレベルを上げちまおうぜ。レベル上げて、ランク上げて、わかりやすいじゃねーか」


「和哉に賛成! 早くDランクにして、あのもふもふ羊が欲しい!」

「そうね。和哉君もたまには良いこと言うわね」

「たまにはって……」


 志穂と美穂は動物が大好きだ。特にもふもふできる系の獣だ。シルさんも大概だが、二人も充分危険領域に達している。

 おっさんの提示した羊は彼女たちにとって最高の報酬だ。


「で。盛り上がってるところ悪いが、話を戻すぞ」

「おう」「「はい」」

「俺たちはレベル上げばかりしてたら、近い将来未来がなくなる」

「翼……お前本当に手紙を読んだのか? そんな言葉一つも出てこないぞ?」


「『人間はレベルアップしないとステータスが更新されません』って書いてあるだろ」

「おう。だから、レベルアップしようぜって話に……」


「そこが問題だ。ゲーム感覚で言えば、レベルが上がるたびに次のレベルアップまでの必要経験値が多くなる。もし一気にレベルを上げすぎたら次のレベルアップまで一年以上かかるって事が充分に起こりえるんだ」

「「「…………」」」


「そしてもう一つ重要なのは、シルさんのケースを思い出してくれ。彼女は鍛練した内容で、それに附随(ふずい)したステータスがアップした。もし人間も条件が同じなら、レベルアップ間の鍛練内容は必ずステータスに反映されるはずだ」


「なら、和哉みたいにサボったらステータスの伸びが悪くなるんだね!」

「美穂、そりゃあないぜ……」

「和哉君はサボりすぎね。そんな事じゃ美穂はあげられないわよ?」

「お義姉さん!」「お姉ちゃん!」


 志穂が和哉と美穂をからかった。

 実際問題、少しでも強いに越した事はない。

 和哉のようにサボっていては、南領の過ちを繰り返す可能性だってある。

 あの時は『たまたま』おっさんが助けに来てくれたが、次回も助かるとは限らない。


 あれは森に拠点を造った日の事だ。

 師匠に『鍛練をするぞ』っと言われ、さすがに文句を言った。

 俺たちは命のやり取りをする世界に来たはずなのに、心はガキのままだった。


 冒険者ギルドの受付嬢もそれを見透かして、俺たちをFランクから昇格させなかったんだと思う。


 そして最近はいくら鍛練をしてもシルさんやチェルツーのようにステータスが伸びない俺たちは鍛練に身が入らなくなっていた。


 しかし、おっさんと師匠は俺たちとは違い、恐ろしい精神力だ。

 この一週間、吐こうが泣き言を言わずに泥臭く特訓を続けていた。


 結果が出てるならともかく、一週間経ってもたったの(いち)すら魔力が上がっていないのにだ。


 効率重視でシステム化されたカリキュラムで育った俺には到底真似できねー。

 いや、したくねー。


 何を何回。

 全ては演算で決まっている。

 俺はいつか必ずステータスの効率的な上げ方を紐解いてみせるぜ。


「はぁ~。おっさんがいねーだけで、風呂に入れないとはな……」

「誰か水魔法と火魔法を使えないのか?」

「たとえ使えても、大浴場に水を入れるだけで一苦労だぞ」


 あんな芸当ができるのは、チート野郎のおっさんぐらいだ。


 今日中に帰ってくると思ったんだが、夜になってもおっさんたちは帰ってこなかった。

 化け物三人組だ。人里に泊まれなくて、野宿をしてようと、全く心配はしていない。


 俺たちはコックが温めてくれたお湯で体を拭いて終わった。

 一度風呂のある生活を経験すると、体を拭くだけでは全然足りん。


 自活するためには水魔法と火魔法は必須だな。

 まだまだやることは山積みだ。


「盗賊たちは暢気に酒盛りか……。俺も参加させてもらうかな」

「やめておけ、和哉」


 俺は和哉の服を掴んで止める。


「止めないでくれ! 未成年じゃないんだ。少しぐらい酒を飲んでもいいだろ!」

「年齢の話をしてるんじゃねーよ。おっさんが言うにはあの酒は『酸味が強すぎて飲めたものではない』らしい」


 娯楽が無さ過ぎて息が詰まるんだ。だから、俺だって一日の終わりに酒が飲みてー。

 だが、わざわざマズい酒を飲む気にはなれん。


 毎日の鍛練の後はモンスターと戦って、拠点に帰ってきて寝るだけの日々。

 少しぐらい遊びがあってもいいじゃねーか。


「きっとそれはお酢になってるのよ」

「お酢?」

「あら、知らないの? お酢ってお酒から作るのよ? たぶんあのアルコール度数のままじゃ誰も飲めないからアルコール成分をお酢に変えてアルコール濃度を下げているんじゃないかしら」


「さすがお姉ちゃん、物知りですね。伊達に小学校の夏休みの自由研究でお父さんの高いお酒をお酢にして、家中をお酢のニオイにしただけはありますね」

「美~穂~」

「きゃ~お姉ちゃんが怒った」


 美穂が志穂から逃げていく。


 なるほど。俺たちの知ってる酒は店で売られる前の状態の酒って事か!


「和哉、明日から俺たちもモンスターを三〇体以上倒せたら酒盛りにしようぜ!」

「翼は話がわかるな。一気にやる気が出てきた!」

「おうよ!」


 俺と和哉が力強く手を握りあう。


「早く明日にならねーかな」


 和哉の呟きに思わず笑いそうになった。

 昨日まで鍛練がキツくて『寝たらすぐに明日になっちまう』って騒いでた奴が、頑張ったご褒美がぶら下がった途端これだ。


 単純な奴はいいな。


「ちょっと!」

「なんだよ、志穂」

「二人だけで楽しまないで、甘いお酒も作りなさいよ?」

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