まさか魔力波長が同一で魔道具がエラーを出した
っとは言ったものの、魔力波長が近い人物と聞いて期待してた分、落胆も大きい。
特にゴンザスは必死に駆けずり回ったから意気消沈している。
九年ぶりの再会を果たせるチャンスだったからな……。
「せっかく西領まで来たんだから、帰る前に何か思い出に残りそうな逸品を見つけたい……」
「思い出ですか……」
モンスター素材やテイムモンスターが増えたのは嬉しいが、主な戦利品が魔王とシルが倒した魔族の角とは少々悲しい。
避難所をいくつか巡って時間も経ち、日が暮れてきた。
「明日も引き続き捜したいなら、今日は街の外で一泊するか?」
「いいんですか?」
「ゴンザスの気が済むまで捜すといい。何なら三日後ぐらいに迎えに来てやるか?」
「いえ、そこまでは……」
さすがにファーナムという名前を誰も知らないんだ。この街にはゴンザスの奥さんがいなかったと判断するのが妥当だろう。
でも、俺たちの拠点は北領。ここは西領で近所の街ではない。
おいそれと来れる場所ではないから、捜すなら後悔をして欲しくない。
「すみませんな、お三方。つかぬ事をお聞きしたいのじゃが……」
三人で不審者のように、こそこそ歩いていると突然後ろから声をかけられた。
振り返ると相手は一人。初老の男性だ。
あれ……? この服装……。どこかで見た記憶が……。どこだったかな……。
思い出せん。
「お偉いさんが、我々に何かご用でしょうか?」
ゴンザスが初老の男性に向き直る。
今はゴンザスを前面に押し出す作戦を決行中だ。
俺は外套を脱げないし、シルは魔族だから論外。
ゴンザスには犯罪歴が付いているけど、基本的に門を通過時にしかチェックされない。
だから、今回のように魔族に攻められた場合は普通『逃げる者』はいても『入街者』はいないはず。
そのため一度街に入ってしまえば、俺たちの自由だ。
ところで、このご老人はお偉いさんなの?
あー、やっと思い出した。あの眠そうな男と同じ服装だ……。
「そう警戒せんでくれ。ワシはただ、お礼を言いたかっただけなんじゃよ。そなたがギガンテスを討伐した『赤斧の男』とお見受けした」
「俺がそうですが……」
またゴンザスか……。
ゴンザスの戦闘は時間がかかったため、目撃者が多い。その上、ギガンテスは敵側の主力の一体だ。
ゴンザスが勝利を収めるか、敗北に喫するかに、この街の命運がかかっていた。っというのは言い過ぎだが、街の住民の見解は、ただそれに尽きる。
「やはりそうか……。ワシの目に狂いはなかったのぅ」
「はぁ……」
戦闘してた者の顔は覚えてなくても、一目見ただけで印象に残る赤い斧。
ゴンザスが目立ってくれる分だけ、俺とシルの印象が薄まるのも助かる。
ゴンザス自身は三人の中で一番弱いと思っているせいか『街の救世主』として声をかけられるたびに毎回恐縮して微妙な顔になる。
ゴンザスがいてくれるから俺たちはまだ街を離れずに喧騒の薄れ始めた街を満喫できているんだが……。
さっきなんて屋台の前を通っただけで、水炊きが貰えた。乏しい調味料でも葉物野菜とモンスター肉の出汁がよく出て、素直に美味しかった。
シルなんか初対面の人間に優しくされて興奮気味だったし……。俺は温かい料理が食べられただけで、この街を救って良かったと思っている。
きっと俺とシルだけなら、魔王と魔族を倒した時点で帰還。いや、違うな。そもそも俺とシルだけなら、この街に来ていない。
「何かワシにできる事でお礼がしたいのじゃが……」
お礼か……。
「ゴンザス」
「何ですか、アニキ」
「実は欲しい物があるんだよ」
俺はゴンザスに耳打ちをした。
「アニキ、それはさすがに無理ですよ」
ゴンザス経由の提案に初老の男性が二つ返事で了承した。
ただし、俺がゴンザスに耳打ちをした事で初老の男性が俺とシルに視線を向けて品定めをする。
顔が全然笑ってないな……。
「ほぉー。面白い組み合わせじゃのぅ」
俺は外套を着て背負子を背負って、ゴンザスの荷物持ちを装っている。ちなみに背負子には布をかけて、中身を隠蔽中だ。
これ……バレてるな。
いざとなったら逃げればいいか……。
営業が終了し、静まり返った建物に裏口から入る。書類は名前しか聞かれず、初老の男性が手続きを済ませた。
「ご老人、ちょっと待ってください。このカードには審査が必要だったはず。こんな簡単に発行しちゃってもよろしいんですか?」
渡されたカードを見て、ゴンザスが慌てる。
えっ? このカードってそんなにすごいの?
「若いもんが気にするでない。この業界は意外と訳ありが多いんじゃよ。強い者がそれを理由に参戦を拒めば、きっとこの街は滅んでおった。それは君たちを守ってくれる魔法のカード。ワシからのお守りじゃよ。大事に持っておきなさい」
「「ありがとうございます」」「お爺ちゃん、ありがとう」
自分からお礼をしたいと言っただけあり、罠にははめてこなかった。
外は夜だが【ライト】の魔法で少しだけ明るい。
「ワシは持ち場に戻るとするよ。いつかまた会えるといいのぅ。ジロウさん、ジルさん、ゴンザズさん」
「「はい」」「はーい」
偽名だと知ってて、カードを作るとは、恐れ入った。
「アニキ、本当にこんなもの作らせて良かったんですか?」
「向こうがお礼をしたいって言うから、冗談で言ってみただけだ。まさか魔力波長が同一で魔道具がエラーを出した時は冷や汗ものだったがな……」
カードの管理に魔力波長を用いてるらしい。
既に登録済みか調べるために、魔力波長のチェックをしたそうだが……。俺とシルが『絶対服従の誓い』をしてるせいで、騒ぎになるところだった。
全知全能も過去に『魔力波長が同一という事はありえません』と教えてくれた事がある。
だからこそ、唯一無二の指紋のようにカード管理に採用されたのだろう。
「シロウとお揃い♪」
シルが嬉しそうにカードを眺めている。
「それよりも街にいる間はゴンザスが主人のように振る舞わなきゃダメだな。あの爺さんにバレバレだっただろ……」
「すんません」
ゴンザスは上下関係のハッキリした世界で生きてきた軍人だけあり、俺やシルをすぐに優先しようとする。
「今度は何をするんですか……?」
「まだ考え中だ。でも、この魔法のカード、翼たちにはバレるなよ」
「はーい」
「わかりました。ここまで力を付けられたのはアニキのおかげです。どこまでも付いて行きます!」
前にも似たようなセリフを聞いた気がする……。
――――ステータス――――
名前 ゴンザス
性別 ♂
職業 人間
レベル 四六
体力 五六二一/五六二一
魔力 三八八九/三八八九
力 一〇九
賢さ 一二
耐久 八四五
敏捷 七二
称号
・巨人殺し
能力
・忍耐
犯罪歴
・傷害
――――――――――
魔力もさる事ながら、なぜか体力も馬鹿みたいに跳ね上がっている。
あと耐久値。どんだけダメージを食らっ……。
あ、これ火傷が原因か。
九年間の苦しみが体力と耐久に出てる。
体力が上がるとわかってても真似できないな。
簡単にステータスを上げる方法はないって事か……。
結局夜間の移動を控え、街で宿をとる。
「アニキってチャレンジャーですよね。言いたくないですが『ハゲ』『魔族』『犯罪者』ですよ」
「ふふふふふ。今の我々には誰もがひれ伏す魔法のカードがある!」
「そうだよ! 魔法のカード! 早く使おうよ」
「シル嬢まで……。どうなっても知らないですよ?」
この魔法のカードを見せるだけで……宿屋の主人もほら、この通り……。
「赤斧の男だ! 街を救ってくれた英雄がきたぞ!」
宿の奥から人が出てきた。同じ服装をしているのはここの従業員か? その周りにいるのは家族かな?
俺とシルは魔法のカードを静かにポケットにしまう。
なんとも言えない敗北感。




