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利き腕さえ残ってれば渾身の一撃を決めてみろ!

「遅すぎて聞こえなかった。何か言ったか?」

「待ってください」

「もう魔力が尽きて回復できないな。それで?」

「俺様にこんな事して――ぎゃああああああ」

「謝罪じゃないなら喋るな」


 治った右肩を再度攻撃した。

 左右の肩、左右の足、四ヶ所に穴が空く。血がどんどん流れ出るが、魔力が足りないため止まる気配は一切ない。

 これだけ怪我をしてもまだ元気とは……不思議だ。

 魔族とは余程優秀な種族だな。


「俺様が人間なんぞに謝るものか! それなら死を選ぶ!」

「ほー。なら、死んでくれ……」


 俺は魔王の角を両方切り落とす。

 角を失うと戦闘形態を維持出来なくなり、男児の姿に戻った。

 魔王は今にも死にそうな虫の息だ。

 先程までの威勢はなくなり、このまま放置すれば一〇分以内に息絶えるだろう。


「早く……トドメを……刺せ」


 俺は切った角を二本とも拾い、アイテムボックスに仕舞った。


「でも、楽に死ねると思うなよ? 【ヒール】」


 俺は魔王の怪我を癒やす。

 治った……、いや、治しすぎた体にデコピンの要領で中指を弾く。

 角を失ったシルが女児並みにステータスが落ちたように、コイツも男児並みにステータスが落ちた。

 だから、デコにデコピンを放つと頭が陥没する恐れがある。今回は右腕に放つ。肘から先が変な方向に曲がった。


「ぎゃああああああ」

「お前たちって、角がなくなると途端に弱くなるよな……」

「どうして……その事を……」


 角や翼、尻尾を知覚できる時点で一定以上の力があると認定される。

 普通の人には見る事すらできなくても、少しぐらい弱点を隠せよ。


「モンスターたち、よく聞け! 死にたくないものはテイムに応じろ! 俺は今機嫌が悪い。次はないぞ」


 魔王の顔の横の地面を殴り、小さなクレーターを巨大なクレーターに変える。

 その瞬間周囲のモンスターが一気に降伏するようにテイムモンスターになっていく。


 さっきテイムに応じなかったのは、きっとこの魔王の能力『支配』によるものだ。角がなくなって能力が解除されたらしい。


「仲間はわかるはずだ。テイムモンスターにならなかったモンスターはみんなで殲滅しろ!」


 テイムモンスターに指示を出すと、そこかしこで戦闘が始まった。俺のテイムモンスターになった時点でステータスが二倍になる。

 ギガンテス四体もテイムモンスターになったようだし、あとは任せても大丈夫だろう。


「謝るから……助けてくれ」


 自分の支配下にいたはずのモンスターたちが一斉に敵に寝返るようなものだ。

 それだけじゃない。『支配』の能力を使って無理やり言う事を聞かせてた可能性がある。


「もう遅い。お前にはもう選択肢はない。デススパイダー・オープン。コイツを蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにして、前みたいに雪だるまにしてくれ」

「人間が魔族領の蜘蛛を召喚だと……」


 モンスターボックスの進化ボタンを使えば、魔族領に行かずとも、魔族領のモンスターと同じモンスターを作れるのか。


 モンスターをたくさんテイムした事で、モンスターボックスに新機能が追加された。

 内容は後で確認しよう。


「お前は動いたら回復してから攻撃な」


 警告する必要はなかった。デススパイダーが糸を通して体育座りさせ、キュッと糸を引いただけでもう身動きができない。

 チェル時代のチェルツーが暴れても千切れなかった糸だ。男児の力では絶対に抜け出せない。


 俺はデススパイダーが雪だるまを作ってる間に外套を着て、フードを被る。


 派手に暴れたせいで辺り一面、モンスターの山だ。俺はモンスターたちに回収をさせて運ばれた順にアイテムボックスに入れていく。

 誰の許可も取らずに回収しているが、俺が倒したんだから、もらっていいよな?


 剥ぎ取り作業は拠点に戻ってからだ。

 また売れない素材が大量に手に入ったけど、錬金術の材料も大量に手に入ったはず。


 街の入口を塞いでいた土壁を砂に戻す。無に戻す事は未だにできないが、砂になら比較的簡単に出来る。


「モンスターの回収に時間がかかったけど、アイツら大丈夫かな?」


 テイムモンスターたちはモンスターボックスに仕舞った。


――――――――――

《盗賊のボス:ゴンザス》


 アニキに放られた俺は、シル嬢に襟首を掴まれている。今は街に向けてモンスターの頭上を移動中だ。

 落ちたら一溜まりもない。


「シル嬢、お力添え感謝します。でも、どうやって俺たちの後を?」

「拠点にあった柱と地面に描かれた矢印を見て、ツバサが教えてくれたの。きっと柱をたどった先にシロウたちがいるって……」


 アニキの置き手紙には、何と書かれていたのか知らないが、柱と矢印を見ただけで、シル嬢を送り込むとは、さすが勇者だ。


「あの柱って何の意味が?」

「それはわからないけど、空から見ると柱がキレイに一直線に並んでたよ? シロウって細かいなーって思いながら飛んでたもん」

「アニキも後ろを振り返って、位置を微調整してました」


 一番手前の柱は見えても、二番目三番目の柱は視認すらできなかったはず。

 それなのに、あんな柱を立てただけで、本当に真っ直ぐ進めるものだろうか?

 実際にアニキが真っ直ぐ進んできたんだから、あの柱には何か隠された意味が……。


「今はそんな事どうでもいいよ。それより街にはマー君のところの魔族までいるね」

「魔族ですか……。俺はあの巨大なモンスター一体で手いっぱいですよ」


 シル嬢と模擬戦をした限り、今の俺程度では魔族の動きに付いていけない。

 もし戦闘になった場合は、倒すのではなく、時間稼ぎをする。


「私も魔族相手は一対一でキツいかな……。この街はもう救えないよ。師匠はシロウに言われた通り、自分の責務を全うしてね。私は鍛練のお礼にそのサポートをするから。あとはシロウがなんとかしてくれるはず。頑張ろう!」

「よろしくお願いします!」


 魔族のシル嬢に『師匠』と呼ばれるのは未だに違和感が拭えないが『シロウより丁寧だからゴンザスを師匠にする』と言って以来、師匠呼びが定着してきた。


 空から見ると街の二割がすでに壊滅している。

 街に侵入されまいと最高戦力で食い止めようとしたはずだ。

 それが敗れたからこそ街への侵入を許し、二割も破壊されている。

 つまり、攻撃ができる者を失った状態では反撃の術がない。もうあとは時間の問題だ。


 俺たちは街の英雄になりに来たのではない。

 アニキが俺の妻と子を探すためだけに動いてくれたんだ。

 今は目的を履き違えてはならない。


「ファーナム! いたら返事をしろ!」


 俺は空から地上に向けて声を張り上げる。

 しかし、逃げ惑う住民の喧騒で俺の声は全然届かない。


「師匠、魔族が動いた。あとは頑張ってね! 私は魔族を食い止めておく」

「ありがとうございます。シル嬢もお気をつけて!」

「そっちもね!」


 俺は地上に下ろされ、シル嬢を見送った。

 騒ぎを治めないとゆっくり話ができる状況じゃない。


 九年ぶりの実戦……。

 俺は再び戦場に帰ってきた。


「南領元近衛隊隊長ゴンザス、助太刀致す!」


 巨大なモンスターを七人の衛兵が取り囲み防戦一方だ。俺はそのモンスターの背を火炎の斧で攻撃した。


「手応えはあったのに、掠り傷しか付かないのか……」

「御尽力感謝します!」


 このモンスターは耐久値が高すぎる。

 衛兵たちの武器では傷すら付けられていない。

 だが、格上のモンスターと死闘を繰り広げる場合、ダメージソースの俺にだけ攻撃が集中しないだけでも、大きな働きだ。


 巨大なモンスターの棍棒の一振りで衛兵が二人吹き飛ぶ。

 早く決着を付けないと、衛兵たちが順番に殺される。


 かと言って、火炎の斧でも掠り傷しか負わせられないのに、どうやって倒せばいいんだ?

 俺は背に負わせた一度目の傷に再び斧で攻撃を仕掛けた。


「ぐあああああ」


 二度同じところを攻撃すれば刃が通るのか……。

 裂けた皮膚から血が流れ始める。

 でも、致命傷には至っていない。もっと傷口を広げなくては、そのうち塞がってしまう。


「全員で囲め! 背中側の奴は傷の部分を狙って攻撃をしろ!」

「「「はい!」」」


 俺の部下ではないが、勝利のためなら協力するしかない。俺は今できる最善の策を衛兵たちに伝授した。


 表皮が硬いだけで内側はそうでもないようだ。

 衛兵たちが背中の傷を攻撃するたびに地面には大量の血が落ちてくる。


 俺も背中を攻撃したいが、深手を負わせたせいで、完全に目を付けられた。

 今は下手に動けない。耐える時だ。

 必ずチャンスは訪れる。


 俺は何度も何度も攻撃を避けた。


 この振り下ろしはマズい。


「ぐっ!」


 振り下ろされた棍棒を火炎の斧を盾代わりに横にして左肩と左腕で受け止める。

 敏捷はそこまで高くないから、この攻撃も避けようと思えば余裕で避けられた。


「すみません!」

「謝ってる暇があったら早く起き上がれ! そしてお前も背後に回って傷を攻撃しろ!」

「はい!」


 長期戦になり、集中力の切れ始めた衛兵の一人が足をもつれて転んだ。今回は運悪くそこをモンスターに狙われた。

 俺が咄嗟(とっさ)に割り込まなければ、今頃は衛兵が一人潰されて死亡している。


 受けてわかったが、何度も受け止めていい攻撃じゃない。

 左肩の関節が変だ。


 右手で左腕を持って押し込む。ゴキンッと肩がはまった。

 ズキズキ痛むが、戦闘に集中すれば気にならないレベルだ。これぐらいの怪我は最近よく経験している。


『なんだ? 怪我したぐらいで、もう諦めるのか? 利き腕さえ残ってれば渾身の一撃を決めてみろ!』


 アニキがよくツバサたちに発破をかけていた。俺もシル嬢と模擬戦をした時に怪我をしてアニキに似たようなセリフを言われた事がある。


 シル嬢の速度に比べれば、止まって見えるはずなのに、俺はいつまで安全な背中が回って来るのを待っているんだ。


 しっかりしろ!


 また振り下ろしがくる!

 俺は横にズレて棍棒を避けた。

 その時に相手の力を利用して棍棒を握る手にカウンターを試みる。


 いつまでも背中を向けないモンスター。

 こうしてる間にも他のモンスターが住民を殺して手遅れになってしまう。


「俺は今、お前に構ってる暇はないんだよ! 邪魔だ!」


 俺の渾身の振り上げと同時に斧から火炎が吹き出した。火炎の斧が本来の力を取り戻し、巨大なモンスターの腕を切り飛ばす。さらに追撃と言わんばかりにモンスターを火炎が襲った。


「がああああああ」


 ヤバい。全身火だるまになっても、モンスターはまだ生きている。

 もう一撃だ。もう……一撃……。


 俺はその場に片膝をつき、なんとか意識を保つ。

 このままでは、魔力切れでまた気を失ってしま……う……。


 トドメを……。


「しっかりしてください!」

「とにかく恩人を安全な場所へ!」

「「はい!」」


 待ってくれ。奴はまだ生きている。


 それに俺にはまだやらなくちゃいけない事が……。

 ファーナム……。

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