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コイツだけは、すごい奴なのか、すごくない奴なのか、よくわからん。

「シロウ、左胸に思いっきり魔力を流す!」

「アニキ、頼みます!」

「いくぞ!」


 ポーションを作る時の魔力操作と同じ感覚で人に魔力を流す。左胸つまり心臓だ。

 ゴンザスの背中から心臓目掛けて無理やり魔力を押し込む。わずかな抵抗の後に魔力が吸収された。


 魔族の角に触れると魔力を強制的に吸収して魔力酔いを起こすように、人間にも魔力酔いを起こさせる方法があるんじゃないかと、シル指導のもと、ゴンザスの体を使って人体実験をしているところだ。


 リーが言ってたが魔力波長が近いほど魔力の吸収率が上がる。

 俺とゴンザスでは波長がかなり違うはず。だから一回に大量の魔力を注ぎ込む。


 なぜこんな事をしてるのか。それはゴンザスの魔力量が低すぎて魔力操作の訓練ですら詰んでる状況だからだ。

 まずはそこから改善したい。


「アニキ、う……また吐いてきます」

「行ってこい」


 魔力酔いに近い現象は引き起こせているようだが、強制的に魔力を体内に流すと吐き気を起こす。


 本当はゴンザスにみんなを鍛えてもらってる関係で弟子たちの前で師匠の不甲斐ない姿を見せたくはないのだが、すでに弟子たちは鍛練に疲れて倒れている。

 逆に吐くほど辛い苦行を毎日しているゴンザスを尊敬する者まで出始めるほどゴンザスの特訓は見ていて痛々しい。


「シロウの流す魔力を細く長くしてみる?」

「魔力波長の話を考えると弱くしてもダメだと思うんだが……」


 魔力量を短期間に飛躍的に上げる方法は全知全能で調べてもわからなかった。

 何年も魔法を使って訓練すれば上がるそうだ。

 だが、その訓練をするための魔力がないんだと文句を言いたい。

 それとも石の上で三年ほど腰を据えて瞑想すれば魔力が上がるのか?


「アニキ、お待たせしました」

「おかえり。【クリーン】」


 吐いてきたゴンザスをキレイにしてやる。


 今日で四日目だ。

 国境を越えて森に移動した俺たちは遊ぶことなく鍛練を繰り返す。


 シルとチェルツーは鍛練した分だけ順調にステータスが向上しているが、他の者は伸びていない。サボってる奴も若干一名いるにはいるけど……、全体で見れば真面目に鍛練をしている。


 俺はもともと鍛練には参加せず、自由に拠点造りを続けた。

 具体的には庭を作ってアイテムボックスに入れてある種を植えたり、箱型だった家屋に壁で仕切りを造りプライベート空間の確保をしたりだ。


 そうそう。一日だけどうしても外せない用事があったため昼頃から三時間ほど、整備された道の近くに土魔法で(やぐら)を造り、その中から見張りをしていた。


 小説の重要なイベントの一つ。

 俺が奴隷商人の馬車をモンスターから救って、ティリアを購入する一幕だ。


 何台かそれらしい馬車はあったけど、モンスターに襲われる事なく通過していった。

 途中でまさかとは思ったが、ティリアが乗らなかったせいで馬車は出発しないのか?


 襲われる可能性はゼロじゃないから、見張りを続けたのに、結局は無駄骨になった。



「ちょっと服を脱いで寝てくれ。魔力を流して俺が循環の悪い部分を探ってみる」

「アニキ、お願いします!」


 石畳に近い土の上にゴンザスをうつ伏せに寝かせる。

 パッと見た感じ傷一つないキレイな背中だ。

 ゴンザスの鍛え抜かれた肉体に手を置く。麻痺は左半身にあったな。左右で筋肉の付き方が違う。

 ゴンザスの事だ、人に指摘されずとも麻痺が治った直後から、左を中心に体を鍛え直しているはずだ。


 俺は目を瞑り、神経を研ぎ澄ます。

 心臓のポンプに乗れば血液と一緒に俺の魔力が全身に行き渡る。

 あとはゴンザスの血管内でうまく魔力が流れていかないポイントを探すだけ。


 全身を巡った血は必ず心臓に戻ってくる。

 俺の流す魔力も詰まりがなければ戻ってくる予定だ。


 流し始めてすぐに違和感があった。他とは明らかに違う。

 初めて行うから手応えがよくわからない。

 なんだろう? 


「ここに傷を負った記憶はあるか?」


 俺は左側の腰辺りを押した。


「火傷が酷かった場所でしょうかね」

「火傷か……。完璧には治ってないのかもな」


 道路で言うと舗装された道が急に砂利道になっている感じだ。

 俺の作った体力回復ポーションで見た目にはわからない深い部分に傷がある。


「火傷の治療は『皮膚の悪い部分を切り取ってポーションで修復する』を何度も繰り返すんですよ。だから、あまりに深いと手が出せないんです」


 ゴンザスが知らない事実をコックが教えてくれた。

 麻酔もない世界で皮膚を切り取る恐怖。そもそも体力回復ポーションを飲めば簡単に治ると思っていた俺からすると衝撃だ。


 しかも、背中側。他の誰かにお願いしないと治療ができない。

 詳しく話を聞くとコックが詳細を教えてくれた。



 まず、コックはゴンザスが近衛隊の隊長時代の近衛隊所属の救護班の一人。

 幼少の頃より武芸の指南を受けて育ったそうだが、家柄の都合で最前線には立てなかったらしい。


 薄々そうではないかと思っていたけど、火事の家から半身麻痺のゴンザスを救い出した男でもある。

 半身麻痺の男が自力で逃げる事など不可能に近い。絶対に誰かの助力は必要だったと思っていた。

 そして救い出したゴンザスを治療したのもやっぱりコックだ。


 そのままゴンザスに手を貸して、身を隠していたため、今では冒険者登録ができない。


 余談だが、コックは能力『鑑定』で相手のステータスが見れる。

 自分より強い相手には即座に降伏するそうだ。

 コイツだけは、すごい奴なのか、すごくない奴なのか、よくわからん。



 俺は何度も右手で魔力の通りにくい場所を探し、見つけ次第左手で道路を舗装するイメージで魔力を当てる。


「シロウ、回復魔法まで使えたの?」

「使ってないぞ?」

「無詠唱で回復魔法と同じ魔力操作が行われてるよ」

「治すイメージを強くすると回復魔法になるのかもな。一度回復魔法を試してみるか……。傷を癒やす【ヒール】。病気を治す【キュア】」


 魔法名は全知全能が教えてくれた。

 魔力の制限はかけていないので、きっとやりすぎていると思う。


 ただし、個人的に治すという現象をイメージするのは苦手だ。

 俺は医者じゃない。

 火傷のように冷水につければ症状が良くなるならわかる。

 他にも指を切れば絆創膏を貼るし、風邪をひけば薬を飲む。

 しかし、医療行為レベルのイメージは到底できない。


 だから、俺が行うイメージは健康な人!


「アニキ、体がポカポカします」


 過去に魔法の威力が高すぎて困った事はあったが、失敗した事はない。きっと回復魔法も威力は高かっただろうが、成功しているはずだ。


「もう一回大量に魔力を流すぞ!」

「お願いします!」


 気合いを入れてゴンザスに魔力を押し込む。

 さっきよりスムーズに吸い込まれた気がする。


「う……。アニキ、やっぱりダメです。吐いてきます」

「すまん。行ってこい」


 また失敗か……。

 お酒を飲み過ぎて吐いた事があるけど、そのたびに『二度とお酒なんか飲むか!』って思うぐらいにはトラウマになるんだよな。

 ゴンザスも吐くたびに『二度とこんな無駄な特訓するか!』って思ってるのかな……。


「シロウ、まだ特訓は始まったばかりだよ」

「そうだな。ありがとう」

「うきゃ!」


 魔族には角という明確な魔力吸収装置があっていいな。シルなんて今でも毎日一〇以上魔力が上がってるのに、ゴンザスの魔力は七のまま変化していない。


 同じ事を繰り返しながら、さらに三日が過ぎた。特に真新しい出来事は起こらず、成長も見られていない。


 魔力を流しては吐き、流しては吐き。


 翼たちはその間に時間割りが決まり、午前中はゴンザスによる敷地内で鍛練。午後からは冒険者のランク上げに費やすようになった。

 シルを含めて残りのメンバーはサポート役だ。

 街には入れないが、モンスターを探したり、こっそり共闘したりはできる。


 さて、今日も午後からゴンザスとの特訓だ。

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