魔力酔い
「ところで魔力波長が同一だと何かメリットがあるのか?」
質問するとキョトンとされた。何かまずい?
「リーちゃん、シロウは勇者なの……」
「なるほど。勇者は別の世界から現れると聞きます。シロウ様はこちらの世界の知識に乏しいのですね」
「すまん。一般常識すらない」
街で生活した事もないから、なかなか知識が増えない。
俺の質問は常識だったようだ。こんな事なら、先に全知全能に聞けば良かった……。
魔力波長が同一とは?
『魔力波長が同一という事はありえません』
全知全能に聞いてもダメでした。
「魔力波長が近いと手を繋ぐだけで簡単に魔力の譲渡が行えます。波長が近いほど譲渡効率が限りなく高くなるとお考えください」
人間の場合は魔力波長を変えられるのは女性だけ。
女性の柔軟性が相手に合わせる事で少しずつ魔力波長が変化する。夫婦間の波長が近いほど、妊娠する確率が上がるそうだ。
「魔族は魔力で傷を治せるから手を握れば、シルの回復を促せるって事か」
「そうですね。手と言いましたが……本当はお肌なんですけど……」
「何か言ったか?」
「いえいえ、気にしないでください。角は魔力吸収装置なので他人が触れると相手の魔力が強制的に流れ込んできます。その魔力の質に当てられて、体が気持ちよくなるんです。波長が合っていない場合は反発するのでむず痒いんですよ」
「シルはくすぐったそうだぞ?」
「それはシロウ様の魔力量が多く、流れ込んだ魔力が行き場を失い魔力酔いを起こしているんです。何度も魔力酔いを繰り返すと、稀に器が広がり魔力量だけが上がったりするようですよ」
「へぇー」
俺はシルを見る。
目が合うとシルの顔が耳まで赤くなった。
角を触られると魔力が流れ込んできて、気持ちいいらしいからな。丁寧に説明されると居たたまれないのかもしれん……。
出会った頃の魔力が五八八、今が一二一四にアップしている。
元々の二倍になっているのは俺の《勇者の加護》の恩恵だ。
それを計算に入れても最大値がアップしている。
「シロウ様、どうでしたか?」
「確かに上がってた。日数で割ると平均一〇ずつぐらい」
「一日で一〇もですか……。シルは戦闘をしていないのですよね?」
「俺と戦った時以外はな」
「では、シルに密命です! シロウ様に付き従い、魔力を上げなさい!」
密命って俺にバレてもいいんだっけ?
本人たちだけで完結するものじゃないのか?
「密命承りました。魔王様!」
シルが片膝をつき騎士の礼でもってリーの密命を受けた。
こういう真面目なシーンを見ると魔王と臣下というのがよくわかる。
『絶対服従の誓い』をする関係で、今晩リーはお泊まりする事になった。
着替えは今朝シル用に買ってきてもらった子供服がある。リーもシル同様に街娘みたいなラフな格好だ。春の陽気を感じさせるこの時期は半袖短パンが流行らしい。
ただし、洞窟内は寒いため、今は食前にシルお気に入りの温かいお茶をみんなで飲んでいる。
「先程も頂きましたが、このコーン茶ってとても美味しいですよね」
「お土産に持って帰りますか?」
「いいんですか?」
「いいですよね? アニキ」
「いいんじゃないか? というよりなぜ俺に聞く?」
リーと盗賊のボスが会話をしてたのに、急にこっちに話を振られた。
別にリーと会話をしたくなかったわけじゃない。意外とリーが盗賊たちに受け入れられている事に驚いていただけだ。
本当にコイツら心広すぎないか?
魔族だと知っても普通のお客さんとして対応してるんだ。
「だって、アニキが取ってきたモンスターの素材を換金したお金で買ってますから、全部アニキの物じゃないですか」
「そういう事か。好きなだけトウモロコシをあげていいぞ。足りなくなったらまた街で買えばいい」
俺としては自分で換金できないから、素材がいくらあっても宝の持ち腐れ状態なんだ。
価値も全然知らないしな。
「ありがとうございます」
リーが俺と盗賊のボスにお礼を言った。
実は一番苦労してるのは買い出しをしているコックだ。
一番美味しい思いをしてるのもコックだ……。
明日はいつもより一回多く街を往復するかもしれないな。
夕食はいつもたくさんあるので幼女が一人増えたぐらいでは、問題にならない。
問題にならないどころか、シルがいるだけでも場が華やぐのに、リーが加わるといつも以上に食事が盛り上がった。
普段は寝る直前に飲んでいるお酒を夕食に持ち込んでリーにお酌を頼む盗賊までいる。
止めようかと思ったが、リーが自ら注いでいくので、見守る事にした。
魔王にお酌させるとか、魔族にケンカを売っているとしか思えない。でも、リーがすぐに盗賊たちに馴染めたのは、魔王らしからぬ能力『友情』のおかげかもしれん。
ちなみに俺も盗賊たちが飲んでいるお酒を味見してみたが、酸味が強すぎて飲めたものではない。あれではお酒ではなくお酢だ。
夕食後、俺の部屋でリーの『絶対服従の誓い』を行う。
「シロウ様、角を切る前に一度触ってもらう事は可能ですか?」
「それぐらい。お安いご用だ」
「リーちゃん、大胆だね!」
俺は角を切るために持っていた槍をベッドに置く。
リーの発言にシルが茶化した。シルも巻き添えだ!
「キャア!」
「!!! 来ると思ってたもんね!」
リーは魔力注入初体験にいきなり悲鳴を上げて、慌てて自分の口を手で塞ぐ。シルは身構えていたから耐え抜いた。
来るとわかっていれば、もう平気らしい。
リーは臣下の前で無様な姿をみせたのが恥ずかしかったのか、顔が赤い。
すぐに居住まいを正した。
「取り乱しました、すみません。どうぞ、始めてください」
俺はリーの後ろからリーの角を切り落とす。
シルの時とは決定的に事情が違う。俺の中ではリーは別に『絶対服従の誓い』をする必要はないと思っている。
知り合って数時間とはいえ、正面から敵意のない幼女の角に一撃を入れる勇気はなかった。
自分でも驚くぐらいリーの事を認めていたらしい。
やっぱり魔王だしな……。
角を失うと魔力の供給が強制ストップする。その上ステータスがガクンと落ちて幼女並みの力しかない。
「話には聞いてましたが、これで一ヶ月間生活するのは至難の業ですね」
シルがリーの隣に座って体を支える。
「シル、ありがとう」
「どういたしまして」
「もし、シロウ様が望めば、その角はシロウ様がお持ちになっててもいいですよ。私の代わりに魔族領を統治してください」
「リーちゃん!」
「いいんです。私の力ではこれ以上の繁栄は望めませんよ」
なぜかリーは俺に魔王の角を渡そうとしてくる。試しているんだろうな……。
魔族領に魔王がいても、全員が従うわけではないのだろう。
力のない者はいつか淘汰されてしまう。
配下を増やすにもそれなりの実力がいるのか。
「俺はそんな重責を担うより自由気ままに生きたい」
「そうですか……。とても残念です」
俺は自分の血を角に塗ってリーの角にくっつけた。
角が頭に吸い込まれる。
角が生えてたところにも髪の毛があるのは納得がいかない。
リーをシルに預けて俺はお風呂のお湯を入れに行く。
どうやら盗賊たちは酔っ払って早々に眠ってしまったようだ。
盗賊のボスが宴会をしてた食堂を一人で片付けている。
「お疲れ様。それが終わったらもう寝ていいぞ」
「アニキ、見張りよろしくお願いします」
「ああ。任せろ」
盗賊たちに食事やお酒を振る舞うのは、少しでも不満をためさせないためだ。
まだ数日あるし、寝込みを襲われても敵わん。なんたって俺は盗賊たちがどう行動するのか、小説に書かれていないから知らない。
人間と魔族のどちらが信用できるかと聞かれれば、断然魔族だ。
まだシルとリーにしか会った事はないが、それでも魔族の方が素直でいい。
人間の代表があの国民たちだからな……。勝負にならん。
盗賊たちも人間だから、ハゲてる俺の事を本当はどう思ってるのかわからない。
「ケルベロス・オープン。夜の見張りを頼むな。洞窟から出てきた奴は味方だ。明るくなったら勝手にモンスターボックスに戻ってくれ」
ケルベロスはアジトの前に寝そべった。
下手なモンスターを置くよりも、頭が三つあるから、それぞれ別の方向を一気に監視できる。
夜を安全に寝ているせいか、盗賊たちの朝は早い。明るくなったら誰か起きてるだろう。
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《リーカナ王国:王様》
「勇者たちは泣いて媚びるどころか、反旗を翻そうとしておるだと?」
近衛隊長のルフプーレが勇者たちの近況を報告しに王の間にやってきた。
「はい。訓練以外では街に繰り出して遊んでいるようです」
「召喚された勇者には王宮の外はさぞ物珍しかろう。指輪を与えた事だし、好きにさせれば良いではないか……」
「ですが、いつ王様に刃を向けるか……」
「では、人質を取れば良かろう。ひれ伏さねば、ひれ伏すように仕向ければ良いだけだ」
そんな事もわからないのか……。
近衛隊の隊長も使えない人材だったな。就任当初はもっとまともな思考をしていた気がするが……。
宰相に新しい隊長を探してもらうか……。
「はっ! そのように致します!」
ルフプーレが頭を下げて王の間を退室した。




