……本当は?
森の中の魔法練習場に移動した。
水はすっかり抜けている。
「正直まだ実用的な魔法は撃てない!」
「なにその自慢」
「だから、今からケルベロスに俺の魔法を見てもらって、俺に従うか、死ぬかを選んでもらいたい」
「殺さずに倒せないって事ね……。シロウの実力を知ってる私なら理解できるけど……」
右手を前に出して宣言する。
「ではいきます。山火事注意【ファイア】」
手の先から飛び出した巨大な火の玉がダイナマイトのようにドオオオオオオオンっと爆発した。
視界が一瞬火の海に包まれて、熱風が押し寄せる。
「消火作業は任せろ【ウォーター】」
ザパアアアアアアンっと手から大波が発生し窪みで濁流に変わった。泥水がうねりを上げて周囲の火をどんどん飲み込む。
「全てを吹き飛ばす【ウインド】」
ゴオオオオオオオオっと窪みに貯まった泥水が風に押されて吹き飛ぶ。
その直後静寂と共に空にはキレイな虹が現れる。
「どうだった?」
「シロウ様、私を殺さないでくれて、ありがとうございました」
魔法を撃ち終えて振り返ったら、シルが床にストンッと座って震えていた。
お尻の辺りに水溜まりができている。
【クリーン】
「……腰を抜かしたみたいです。シロウ様にはご迷惑をおかけしてすみませんでした」
体の汚れとニオイをキレイにしてやると謝ってきた。らしくない。
「シル……。シロウ様って?」
「あれほどの力を持つ者を呼び捨てになどできません。私は大変無礼な行いをしてしまいました。どうかお許しください」
女の子座りのまま頭を下げる。
「シル……」
「何でしょうか?」
「今まで通りにする事。これは命令です」
「…………」
命令と言っても躊躇っている。絶対服従の意志表明はなんだったんだ?
「命令です」
「……はい。シロウ、犬っころが………………『是非仲間にして欲しい』って……」
なに今の間。ケルベロスの方を見るとシル以上にガタガタ震えている。
「……本当は?」
「『殺さないで~』って言ってる」
【ケルベロスが仲間になりたがっています】
「よろしくな」
ケルベロスの左腕に触れながら言うとキュッと縮こまって頭三つが同時に頷く。
とりあえずケルベロスはモンスターボックスにしまう。
「シル、人が来る前にアジトに移動するぞ」
結構ハデに魔法を放った。
音を聞きつけた人と鉢合わせにでもなったら面倒だ。
「まだ腰が抜けて……」
俺はシルをお姫様抱っこする。
「きちんと掴まってろよ」
「はい! あ! 私毎日犬っころの散歩します!」
「任せた」
モンスターボックス内でも走り回っているはずだが……。シルがせっかく言ってくれたし、許可しておく。
「シロウは魔王様を倒すの?」
「どういう意味だ?」
「シロウが魔王様を倒したいなら、私……手伝うよ?」
「俺は勇者だが勇者じゃない。ハゲだからみんなが納得しないんだ。俺は好きな事をして過ごすつもりだ」
「私にできる事なら手伝うから何でも言ってね?」
「ケルベロスってたくさんいるのか?」
「私の家の裏山を探せばまだいると思うよ」
「その山に行ってみたいな」
「おいでおいで。招待するよ。あー、でも徒歩だと何ヶ月かかるかな……」
「そんなに過酷な道のりなのか……」
何ヶ月って……。シルは飛べるから早いよな。
帰り道、ブルーベアがレッドベアの進化条件を満たして進化した。
――――――――――
《冒険者ギルド:ギルドマスター》
「今度は大爆発に突風の水飛沫?」
「はい。水がなくなって周囲のモンスターの討伐も粗方終えて一休みしていたら……」
「お前たちは確か……リク……」
「リクパスです! チームリクパス。まだ駆け出しですが、よろしくお願いします!」
同じセリフを一昨日聞いた気がするが、頭角を現す前に辞める新人が多すぎて、もう少し力を付けてもらわないと覚えていられない。
「調査だけしてくる。場所は……」
「一昨日と同じところです!」
「情報提供ありがとう」
俺は一人で森を走り例の窪みを目指す。
「ここにいったい何が隠れてるんだ?」
二日前にはなかった幅五メートルの円形の穴が窪みに追加されている。
「あの円を復元すると……爆心地は地上一〇メートル前後か?」
地中へのダメージを考えると、爆発は地面から離れた位置で起こったと思われる。
近づいてみると、表面が高温にさらされて土がドロドロに溶けた形跡が見られた。
「こんな何もないところで何が爆発したんだ?」
それも高密度の熱量。これほどの熱量なら森へのダメージがあるはずなのに、木が燃えていない。むしろ木が生き生きしている?
「突風の水飛沫は火を消すため?」
新人冒険者パーティー、リク……の言ってた事を思い出しながら、周囲を観察する。いたるところに水が付着しているのに、濡れている範囲と濡れていない範囲がはっきりと分かれている。
「これはまさか……火の魔法、水の魔法、風の魔法か?」
俺の推測を裏付けるように、窪みの近くには踏み込んだ時に出来上がる足跡が残っていた。
「この術者は両足を揃えて魔法の反動に耐える事ができるのか……」
――――――――――
《リーカナ王国:王様》
「森の水がなくなり、これでようやく動物がモンスターに変わる脅威から逃れる事ができました。これも全て王様のご配慮のおかげです」
「当たり前の事をしたまでだ。気にするでない」
「王様の御慈悲に触れ、臣下一同光栄の極みにございます!」
「「「王様の御慈悲に触れ、臣下一同光栄の極みにございます!」」」
そうじゃろう、そうじゃろう。
とうとう冒険者ギルドのマスターにバレた。




